メッセージ 【今週末見るべき映画】

2017年 5月 18日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 テッド・チャンのSF小説「あなたの人生の物語」(ハヤカワ文庫・公手成幸 訳)を原作にした「メッセージ」(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給)は、昨年の東京国際映画祭の特別招待作品として上映された。映画祭では、残念ながら見逃してしまった。すぐ、原作の文庫本を購入、これが、当たり!で、短編8篇からなる、粒揃いの傑作ばかり。ことに「あなたの人生の物語」は、ずば抜けたおもしろさ。言語学の周辺や、フェルマーの原理、光はさまざまな物質を通過するときに最短のコースをとる、伝説の書「三世の書」などといった叙述に興奮したものだ。


 アイザック・アシモフの流れをくむと思われる本格派のSFである。単なる宇宙人飛来物語ではない。強いて分類すると、タイム・パラドックスもの、だろうか。「あなたの人生の物語」は、地球に大挙、飛来したエイリアンとコンタクトをとろうとするルイーズ・バンクスという女性言語学者の話である。飛行物体は、アメリカだけで9個、全世界では112個という設定である。

 文中に、将来、母親になるルイーズと、二人称で「あなた」と呼ばれる娘とのふれ合いが、なんども、時間軸を超えて、挿入される。「あなた」が12歳のとき、25歳での山岳事故、5歳、16歳、大学を卒業するとき、1歳、歩き始めたころ、15歳、14歳、3歳……。記憶は、現実の時間の流れと異なり、時間の流れに沿わず、いわば無差別に現れてくる。


 ルイーズは、後に夫となる物理学者のゲーリー・ドネリー博士と協力して、エイリアンとのコンタクトを取り続けていく。

 このような原作が、どのような映画になっているのか、やっと見ることができた。ほぼ、原作に忠実と思われる。小説では、いまひとつイメージが沸かなかったエイリアンや、ふしぎな飛行物体が、映画では、あざやかに描かれている。飛行物体は、地球のあちこちに飛来し、巨大なコンタクトレンズのような形をしている。エイリアンは2体いて、それぞれ、7本の脚があり、イカやタコのようになめらかに動く。エイリアンは、7本の脚があることから、ヘプタポッドと呼ばれる。軍に召集されたルイーズは、物理学者のイアンと協力し、ヘプタポッドに、「HUMAN」などと、さまざまなサインを送る。そのサインに答えるかのように、ヘプタポッドは、透明の大きな壁のような物質に、イカの吐くスミさながら、黒い環状の模様を吐き出す。


 ヘプタポッドは、ルイーズたちの送るサインを理解しているのかどうか。また、エイリアンたちのサインの示す意味とは。早く、先が知りたいと思うほどのサスペンスだ。

 原作と同様、映画でも、さまざまな年代の娘の記憶が、ルイーズの脳裏をよぎる。これが、ヘプタポッドとの交信と、どういった関わりを持つのか。これまた、早く知りたくなる。

 ヘプタポッドの残したメッセージから、ルイーズたちは、どのような「ギフト」を得たのかが示される。映画をどう受け止めるかは、それぞれの自由で、いろんな解釈があっていいと思う。人類の未来は、バラ色ではないかもしれない。むしろ、哀しみばかりの世界だろう。それを知った上でも、人は人を愛し、常に他者を受け入れ、生きていく。そんなメッセージを、エイリアンから受け取りたいものだ。


 今年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、美術賞など8部門にノミネートされたが、受賞は、音響編集賞のみであった。もっと、たくさんの賞をもらってもよかったと思うのだが。

 ルイーズ役はエイミー・アダムスで、スティーブン・スピルバーグ監督の傑作と、勝手に思っている「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」以後、注目している。「ザ・マスター」、「アメリカン・ハッスル」では、完全にごひいきになった女優さん。イアン役のジェレミー・レナーは、渋い脇役から、いつのまにか主役作品が増えつつある。


 言語学にちなんだ俗説で、カンガルーの話が原作に出てくる。座礁したエンデヴァー号のクック船長たちが、オーストラリアのクィーンズランド海岸に上陸。袋に子どもを入れて跳ねている動物を見て、「あれはなんという動物か」と聞いた。アポリジニは、「カンガルー」と答える。「聞いている意味が分からない」という意味らしい。映画では、ラストに、ヨハン・ヨハンソンの作った「カンガルー」が流れる。


 多くのSF映画にあって、これほど知的なSF映画は、そう多くはないと思う。フランス語で「灼熱の魂」を、英語で「複製された男」、「ブリズナーズ」、「ボーダーライン」を撮ったカナダの監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品である。この秋公開になる「ブレードランナー 2049」の監督もしている。「デューン/砂の惑星」の続編の監督にも抜擢されたらしい。期待したい。


●Story(あらすじ)

 言語学者のルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)は、ひとり娘のハンナと暮らした日々を、いつも思い出している。記憶、思い出は、実際の時間の流れ通りではない。反抗期の頃だったり、まだ歩きだしたころのことだったり。ただ、何かの事故で、ハンナはすでに亡くなっているようだ。

 地球の、いろんな場所に、巨大なコンタクト・レンズのような宇宙船らしき飛行物体がやってくる。世界じゅう、大騒ぎである。即、撃退とばかり、戦闘準備をする国もあれば、様子を見極めようと慎重な国もある。

 ルイーズのところに、軍から要請が入る。宇宙船から発する音などから、彼らのメッセージを解読すること。そして、何らかの手段で、こちらからのメッセージを伝えること。彼らに、そもそも言語があるのかどうかは、まったく分からない。物理学者のイアン・ドネリー(ジェレミー・レナー)もまた、この作戦の協力要請を受けていた。作戦の責任者は、ウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)で、なぜか、あせっているようで、常に事をせかしている。

 ルイーズの胸のうちに、ハンナとの記憶がよみがえってくる。

 世界じゅうのテレビが、宇宙船の報道で埋まっている。シャン将軍(ツィ・マー)指導の中国軍は、どうやら核攻撃を画策しているらしい。宇宙船から、2個のエイリアンが現れる。脚が7本あるところから、ヘプタポッドと呼ばれる。

 ルイーズたちは、「HUMAN」とサインを送る。ヘプタポッドのひとつから、黒い環状のようなサインが返ってくる。環状のあちこちに、なにか意味ありげな図形が現れ、これがつねに変化している。どういう意味か、ルイーズは考える。2個では、どうやら役割を分担しているらしい。ルイーズとイアンは、それぞれに、アボット、コステロと名付ける。

 コンピューターがフル稼働する。政府や軍は、いまにも攻撃しようと待ちかまえている。そんな状況のなか、ルイーズたちは、ヘプタポッドのサインから、エイリアンたちの時間の概念を理解するきっかけをつかむことになる。

 世界じゅうが、いまやエイリアンたちに矛先を向けている。はたして、ルイーズたちは、エイリアンのサインを解読し、メッセージの意味を理解することができるのだろうか。そして、人類の、地球の運命はどうなるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「メッセージ」

2017年5月19日(金)、全国ロードショー
公式サイト

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