光をくれた人【今週末見るべき映画】

2017年 5月 25日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 オーストラリア生まれ、ロンドン在住のM・L・ステッドマンという女性作家の小説「海を照らす光」(早川書房・古屋美登里訳)が、映画になった。待ち望んでいた。訳者あとがきによると、スティーヴン・スピルバーグらのドリームワークスが映画化権を取得、撮影が始まっている、とある。しかもマイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズが主演である。


 映画のタイトルは、「光をくれた人」(ファントム・フィルム配給)である。作者のステッドマンは、弁護士の資格があり、写真で見る限り、ふっくらとした、勝ち気そうな表情の美人で、凛とした雰囲気を醸し出している。

 舞台は第一次世界大戦後の西オーストラリアの小さな町バルタジョウズと、ここから160kmほど離れたヤヌスという孤島だ。


 ヤヌスには古い灯台があり、トム・シェアボーンとその妻イザベルが暮らしている。日用品などは、3ヵ月の一回、定期便の船がやってくるだけ。本土のバルタジョウズの町に戻れる休暇は、3年に一度。

 トムは、大戦中、多くの敵を殺傷し、その罪の意識から抜け出せないまま、孤島で灯台守として、ひっそりと暮らすことを選択する。トムは、たまたま町で、イザベルという良家の娘と出会い、多くの手紙を交わした後、結婚する。いまはふたりで、絶海の孤島ながら、それなりに充実した日々を過ごしている。


 ある年の秋、島にボートが漂着する。ボートには、男の死体があり、まだ生まれて間もない女の赤ちゃんが泣いている。子どもの欲しいイザベルは、二度も流産を経験している。イザベルは、トムを説得し、その赤ちゃんを自分たちの子どもとして育てていく。トムにとっては、灯台守としての規則を破ることになる。


 ルーシーと名付けた赤ちゃんが育っていく。やがて、ルーシーの実の母親の存在が明るみに出る。それにつれて、いままで幸せだった夫婦の関係に、すこしづつ微妙な変化が生じていく。

 小説は、トムとイザベルの人となりが丁寧に描かれ、静かな雰囲気のなかに、贖罪をめぐって、人間の複雑な心理が交錯する。この映画化である。さぞかし格調ある映画になるだろうと思っていたが、その通りの、見事な出来映えである。


 小説では、トムの過去や背景の事情が微細に描かれているが、映画では、大幅に省略され、要領よくダイジェストされている。ルーシーの実の母親が誰かを知るくだりは、原作と映画では異なっているが、原作の雰囲気を損なうほどの変更点ではない。

 ドラマの展開を左右するほどのいくつかの重要な手紙が、要所要所で登場する。ご留意されたい。

 舞台の孤島ヤヌスは、もちろん架空の島で、ヤヌスとは、ローマ神話の双面神である。出入り口と扉を司り、一年の始まりと終わりの境界に位置する神で、1月(JANUARY)の語源と言われている。ふたつの顔の神が象徴するように、小説と映画でも、多くの「ふたつのもの」が描かれている。善と悪、生と死、光と闇、親と子、罪と赦し、生みの親と育ての親……。

 いわゆる悪人などは、ひとりも登場しない。人としてよかれと信じたことが罪となる。その購いの行動が胸を打つ。ことの次第がラストに向かう。号泣とまではいかなくても、思わず涙を誘う。ラストの10分ほどは、それまでの2時間の映画の時間に、まったく無駄がないことに思い至る。


 スティーヴン・スピルバーグから依頼を受け、脚本を書き、監督したのは、「ブルー・バレンタイン」、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」を撮ったデレク・シアンフランスである。多作ではないが、丁寧な映画作りを貫いていると思う。

 マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズの主演3人が適役。いまさらではあるが、役になりきる技量が傑出している。

 控えめにストーリーを紡ぐ音楽は、アレクサンドル・デスプラ。繊細で優雅この上ない。

 人は、灯台の光のように誰かを照らし、誰かによって、照らされる。娘の名はルーシーである。スペイン語で「光」は「ルス」。映画からの多くの光が、観客の心に「光」を届ける。

●Story(あらすじ)
 第一次世界大戦が終わった頃の1918年、トム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)は、戦功をあげた兵士として、オーストラリアに帰還する。トムは、多くの敵を殺傷し、その後遺症を抱えている。

 トムは、港町のバルタジョウズから160km離れた孤島ヤヌスの灯台守の仕事を選ぶ。まるで、いままでの人生と訣別するかのように。

 3ヵ月後、灯台守の前任者が精神を病み、トムが正式に採用されることになる。トムは、その契約で、いったん町に戻る。トムは、港でカモメに餌をやっている娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)を見かける。イザベルは町の小学校も校長の娘で、生き生きとしているが、兄ふたりを戦争で亡くしている。トムは、ヤヌスに戻っていく。

 灯台守は、航海の安全を願って海を照らす。トムの閉ざした心に、まるで灯台の光のように、イザベルという光があたる。イザベルもまた、トムから光を見いだしたかのような想いにかられる。ふたりの文通が続く。やがて、トムはイザベルにプロポーズし、ふたりは結ばれる。

 孤島でのふたりの生活が始まる。日用品などを運ぶ定期便は3ヵ月に一度と不便だが、島の暮らしは安寧に満ちたものだった。イザベルは、待望の妊娠をする。喜ぶふたりだったが、イザベルは流産する。さらに二度目の流産で、イザベルは落ち込んでしまう。

 秋、島にボートが漂着する。ボートにはすでに死んでいた男と、泣いている赤ちゃんが乗っていた。赤ちゃんは女の子だった。海上保全局に知らせようとするトムを、イザベルは制止する。「赤ちゃんを少し休ませてからにして」と。

 夜があける。イザベルは「運命が連れてきてくれたのよ」と言う。「僕たちの子じゃない」とトム。イザベルは、「私たちが育てなきゃ。悪いことではないわ」と、トムに懇願する。トムは、規則を破ることを承知で、男の遺体を埋葬し、予定より早く赤ちゃんが産まれたと、通信を送る。ふたりは、赤ちゃんに、ルーシーと名付ける。

 2年後、バルタジョウズの教会で、ルーシーの洗礼式が行われる。そこでトムは、ルーシーの実の母親ハナ・ポッズ(レイチェル・ワイズ)の存在を知ることになる。罪をあがなうかのように、トムはある手紙を書き、行動に出る。やがて、トムとイザベルの運命が、大きく動き出していく。(文・二井康雄)

<作品情報>
「光をくれた人」
(C)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

2017年5月25日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
公式サイト

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