Viva!公務員【今週末見るべき映画】

2017年 5月 26日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 つくづく、日本の公務員、ことに官僚といわれる国家公務員は、優秀な人たちばかりと思う。このところの、財務省をはじめ、各省庁の官僚たちの国会答弁を聞いていて、さらにそう思う。政治家の意向をおもんばかる。自らの保身を図る。出来の悪い大臣の答弁をフォローする。優秀でなければできない芸当だろう。もちろん、天下りの根回しもしっかり。


 彼らには、もはや誇り、尊厳はない。あれば、とっくに、正直に内部告発するか、公務員の職を辞しているはずだ。中学生あたりが見ても、ちゃんと分かる。その答弁は、あきらかに物事を隠し、嘘をつき、ひたすら、だらだら、のらくらと、答えているのが。

 イタリア映画「Viva!公務員」(パンドラ配給)は、代々、公務員の中年男ケッコが、リストラ勧告にもめげず、どこに異動されても、ひたすら公務員職に留まろうとする姿が描かれる。そして、北極に近いノルウェーの辺鄙な土地で、ヴァレリアという環境調査をしている女性と出会う。ここから、公務員一筋だったケッコの生き方に、多大の変化が生じることになる。


 皮肉、ユーモア、風刺であふれている。今年見たなかで、これほど笑った映画はない。ずっと、笑い続け。そして、ふと、わが国の国家公務員、地方公務員について思いを馳せる。国家公務員、地方公務員をしている数人の友人がいる。なかには窓際を自称するのもいるが、たいていは優秀な人ばかり。給料、ボーナス、勤務内容、年金などなど、ちょいと呑んで話すたびに、まことにうらやましい限りと思う。

 映画と現実はもちろん異なるが、映画は、もののみごとに、公務員という職業の本質をつき、そこから、人生そのものを考えさせる。さすが、イタリアのコメディ映画の伝統だろう。シリアスな内容、状況ですら、映画では、ことごとく皮肉たっぷり、笑い飛ばす。


 映画は、いきなりのドタバタ劇からスタートする。アフリカのどこか。ケッコは、赴任地を目指して、オンボロの車に乗っている。現地の運転手は、「30年、故障なし」と言う。故障する。歩くしかない。運転手は、「天気がいいから」と言う。雨が降ってくる。運転手は、「このあたりには原住民のカズー族はいない」と言う。カズー族が現れ、ふたりは捕らえられる。拉致か解放かを判断するために、酋長から、いったい何者なのかと尋問される。ケッコは、幼いころからの長い身の上話を始める。

 映画そのものが、軽快でスピーディ、うまい語り口である。出だしからのケッコの話しぶりもまた、酋長たちの興味を引く語り口で笑いをとり、自らの身の上話に引き込んでいく。


 ケッコを演じたのは、イタリアで人気ナンバーワンのコメディアン、ケッコ・ザローネである。ケッコ・ザローネとは、「なんという田舎者!」といったほどの意味だが、本名のルカ・メディチで、本作の原案、脚本、音楽を担当する。ケッコは、単なるコメディアンではない、まさに才人。

 ケッコは、作曲し、唄い、歌唱の物真似もこなす。劇中、ケッコの作った歌だけでなく、ドラマの展開にぴったりの歌詞を持つ曲が引用される。


 早期退職を拒否したケッコが、退職の条件交渉のため、列車でローマに出向く。1974年、ヨーロッパじゅうで大ヒットした、サント・カリフォルニアの唄う「トルネロ」(僕は帰ってくる)が流れる。

 1982年のサンレモ音楽祭で2位、ヨーロッパ中で大ヒットしたアル・バーノと、タイロン・パワーの娘であるロミナ・パワーの唄う「フェリシタ」(幸せ)が何度も出てくる。ケッコがテレビを見て、現在のアル・バーノとロミナ・パワーが唄っているシーンに驚く。アル・バーノとロミナ・パワーは、公私にわたるコンビを解消して以来、16年になる。ケッコはつぶやく。「よりが戻ったんだ、一緒に唄っている。イタリアの重大ニュースだ」と。


 ラスト近く、ケッコは、もう80歳になろうかというイタリアの大歌手、アドリアーノ・チェレンターノの物真似で、「ラ・プリマ・レパブリカ」(もとのイタリア共和国)を唄う。「昔のイタリアはよかった、公務員の待遇も」と。この曲のオリジナルは、たしかアドリアーノ・チェレンターノの歌だ。

 ケッコの人生が変わるほどのきっかけになる女性の環境調査員ヴァレリアを演じたのは、エレオノーラ・ジョヴァナルディ。初めて見る女優さんだが、開放的でキュートな役を力演する。

 ケッコ・ザローネと共同で原案、脚本を担当、演出したのはジェンナーロ・ヌンツィアンテである。3本ほどの監督作があるが、「Viva!公務員」が、このコンビとしては、日本初の一般公開となる。

 ちなみに映画の原題は、シェンキェヴィチの歴史小説「クオ・ヴァディス」にちなんだのかどうか、「QUA VADO ?」(どこへ行く?)という。迫害を受けるキリストに、ペトロは尋ねる。「クォ・ヴァディス・ドミネ?」(主よ、どこに行かれるのですか)と。ケッコは、公務員であり続けるためには、どこへでも行く。この気概が生む笑いが、本作の背骨となる。

 日本の国家公務員、地方公務員はもちろん、いろんな政府関係の職にある人たちに、ぜひ、見てもらいたい。公務員とは、どういった仕事なのか。この映画のようなことでいいのか。そして、人として、どうあるべきか。映画「Viva!公務員」は、公務員という職業をまっとうする上で、大きなヒントを与えてくれると思う。

●Story(あらすじ)

 イタリアのバーリ県コンヴェルサーノ。ケッコ(ケッコ・ザローネ)は、祖父の代からの地方公務員で、緊縮財政のあおりで受けたリストラ勧告に応じず、公務員職にしがみついている。高額につり上がる退職金に目もくれず、僻地への異動も平気で、いまはアフリカの任地に向かっている。ケッコは、原住民のカズー族に拘束される。解放の条件として、自らの身の上を語り始める。

 小学校の先生が、将来、どんな職業に就きたいか、聞く。みんなは、「獣医」、「音楽家」、「科学者」と夢を語るが、ケッコは、「公務員」と答える。あっけにとられる先生。

 代々、ケッコの家は公務員である。一生、安定した生活が保証されている。39歳になるケッコの仕事は、この15年間、狩猟許可のハンコをつくだけ。電話はタダでかけ放題。賄賂まがいの品も届く。しかも、両親と同居で、ママ(ルドヴィカ・モドゥーニョ)は、おいしい料理を作ってくれ、シャツには、アイロンまでかけてくれる。生活費はかからない。ケッコには恋人らしき女性(アッズラ・マルティーニョ)がいるが、あわてて結婚する理由はない。

 そんな折り、政府は緊縮財政のあおりで、公務員削減に乗り出す。ケッコもその対象になり、早期退職か異動かの選択を迫られる。ケッコは、公務員にしがみつく道を選ぶ。リストラの担当は、やり手の女性部長シローニ(ソニア・ベルガマスコ)で、ケッコをやめさせるべく、イタリアのあちこちに異動させる。

 ケッコは、両親や恋人(アッズッラ・マルティーノ)たちに別れを告げ、列車で僻地のピエモンテ州スーザに向かう。万事、公務員の特権を生かしたケッコは、要領よく、仕事をこなしていく。さらに、離島のサルディーニャ州ヌーオロに飛ばされる。ここでも、ケッコはめげずに、公務員職にしがみつく。ついには、難民がおしよせてくランぺドゥーサ島に飛ばされる。ここでも、サッカーの出来不出来で、入国を審査する荒技と、持ち前の調子のよさで、職務をこなしていく。

 もう、退職を受け入れないのはケッコだけ。業を煮やしたシローニ部長は、ついに北極近く、ノルウェーの孤島に、ケッコを異動させる。

 氷の上に放り出されるケッコ。ノルウェーの離島にある観測所が、ケッコの新しい職場になる。ケッコの仕事は、環境調査員を白クマから守ること。こんな仕事はやってられないと思ったその時に、美人の調査員ヴァレリア(エレオノーラ・ジョヴァナルディ)が現れる。たちまち、ケッコはヴァレリアに一目惚れ。ヴァレリアは、でたらめに話すケッコの水質検査の予想が、ちゃんと当たっていることに驚く。やがて、ケッコはヴァレリアに誘われるまま、ノルウェーの僻地にあるヴァレリアの実家を訪れることになる。

 そこで、ケッコは、ヴァレリアのとんでもない事実を知ることになる。(文・二井康雄)

<作品情報>
「Viva!公務員」
(C) TAODUE srl 2015

2017年5月27日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
公式サイト

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