素敵な遺産相続 【今週末見るべき映画】

2017年 6月 2日 09:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 シャーリー・マクレーンが好きである。映画デビューは「ハリーの災難」だが、ごひいきになった映画は、1960年に公開されたビリー・ワイルダー監督の「アパートの鍵貸します」だ。以降、日本で公開されたシャーリー・マクレーンの出ている映画は、そのほとんどを見ている。


 決して、美人ではない。可愛く、けなげ。もうかなりの年齢と思うが、元気に映画に出ているのを見ると、うれしい限り。新作が、「素敵な遺産相続」(ファインフィルムズ配給)である。

 シャーリー・マクレーン扮する元教師だったエヴァは、夫を亡くす。エヴァは、ジェシカ・ラング扮する親友のマディに励まされる日々を過ごしている。そこに、夫の生命保険がおりる。5万ドルと聞いていた保険金が、保険会社の手違いで、500万ドルもの大金が、振り込まれる。驚くエヴァに、マディは提案する。「美しい島でバカンスを楽しもう」と。エヴァとマディの老女ふたりは、大西洋のモロッコ沖のリゾート地、カナリア諸島のグラン・カナリアに出かける。


 まるで、夢のような話だが、現実には保険会社の手違いはありうること。当然、保険会社は、間違って振り込んだ保険金を回収しようとする。デミ・ムーア扮するエヴァの娘、クリスタルを連れて、保険会社の職員が、エヴァたちのいるグラン・カナリアに向かう。

 設定が傑出している。35年も教師をしていて、常識的なエヴァに、重病を抱え、亭主の浮気を察知しているマディ。ふたりの丁々発止の掛け合いを聞くと、大金を横領しようと、いいのではないかと思ったりする。

 いろんなシーンで、エヴァの教え子が現れる。これが巧みな伏線になる。

 全編、夢のような出来事に、笑い続ける。エヴァとマディは、カナリア諸島のグラン・カナリアでは、最高級のホテル、ロペサン・コスタ・メロネラスのスイートに泊まる。洋服も一新、贅沢なルームサービスと、豪華この上ないバカンスである。そこに、老紳士が登場。カジノでの豪遊もある。もちろん、ミスが判明した保険会社は、調査員をグラン・カナリアまで派遣する。お膳立てが揃った。


 長い人生を生きてきた女性ふたりである。ドラマに人生の皮肉、風刺がこもるのも、当然だろう。ともかく、シャーリー・マクレーンとジェシカ・ラングの存在感がたっぷり。その会話、身のこなしに、驚き、笑う。ラスト近くまで、笑う。そして、きちんと、泣かせどころを用意する。さらにまた、笑わせ、泣かせ、笑わせる。

 シャーリー・マクレーンとジェシカ・ラングに、それぞれ、濡れ場も用意されている。サービス満点の演出だ。監督は、「アンナと王様」、「メラニーは行く!」を撮ったアンディ・ナイト。納得である。

 多くの映画が、カナリア諸島を舞台にしたり、撮影に使われたりしている。順不同だが、「マリアンヌ」、「白鯨との闘い」、「エヴォリューション」、「ジェイソン・ボーン」、「抱擁のかけら」などなど。


 昔、松本隆が、カナリア諸島に行ったことがないのに、「カナリア諸島にて」という詩を書き、大瀧詠一が曲をつけた。聴くたびに、カナリア諸島へ行きたいという夢が募る。

 「素敵な遺産相続」を見て、いわゆる終活を思い浮かべる人もあろうかと思う。楽しみながらの終活。これまた、よしではないか。

●Story(あらすじ)
 エヴァ(シャーリー・マクレーン)は、35年も教師をしていた。今日は、夫フランクの葬儀である。エヴァの40年来の親友マディ(ジェシカ・ラング)は、「悲しみを分かちあいましょう」と、泣いてばかり。エヴァは言う。「完璧な夫ではなかったけれど、いざひとりになると怖いわ」と。

 エヴァの娘クリスタル(デミ・ムーア)は、母親のひとり暮らしは無理だと、家の処分を考えている。「少し、手を加えたら。高く売れる」と説得する。

 葬儀後の食事が始まる。エヴァの教え子たちが、お悔やみにやってくる。なかには、ひとりものになった父親とつきあってほしいという女性もいる。

 フランクの生命保険金は5万ドル。これでは、先行き不安である。心配したマディが、「せめてもう少し高ければ」と同情する。

 エヴァに老いがしのびよる。エヴァは、教え子の医者に、認知症の相談をもちかけたりする。そのとき、ふと、マディのことを心配している医者の言葉が、エヴァの胸に残る。

 マディは、このところ、うつ気味で、痩せている。心配したエヴァが、マディに問いただす。マディは、旅行に行ったふりをして、病院で診察を受けていた。まだ半年は大丈夫だが、生存率は20%らしい。「残りの人生、やりたいことを、やる」とマディ。

 ある日、エヴァのもとに、フランクの生命保険金の小切手が届く。金額を見て、驚くエヴァ。保険会社のミスなのか、記されていた金額は、なんと500万3106ドル。あわてて、保険会社に携帯電話で問い合わせるが、自動的な操作がうまくいかない。銀行にかけつけるが、小切手は本物、高額なので、3日後に振り込まれるとのこと。

 マディは提案する。「世界一、美しい島でバカンスを」と。エヴァは開き直り、マディの提案を受け入れる。

 当然、保険会社は、ミスに気付く。調査員として、定年間際のヴェスプッチ(ハワード・ヘッセマン)が回収の任にあたる。

 エヴァとマディは、イベリア航空で、カナリア諸島のグラン・カナリアに向かう。エヴァはマディに言う。「半分はあげるわ」。

 ホテルでは、シャンパン付きの特別メニューを頼み、豪華な服を買う。エヴァとマディは、ホテルのプールで、バカンスを楽しむ。

 そこに、ひとりの上品そうな老紳士が現れる。紳士は、貿易商のチャンドラー(ビリー・コノリー)と名乗る。ディナーに誘われるが、大幅に遅刻して現れる。なんだか、物忘れしたり、会話もいささかちぐはぐ。エヴァとマディは、認知症ではないかと心配する。それでも、とりあえずチャンドラーは、紳士的な態度で、エヴァとマディに接し続ける。

 保険会社の調査が進む。エヴァの家に侵入したヴェスプッチは、生命保険の証書を発見し、ことの次第をクリスタルに相談する。調査では、エヴァとマディの足取りは判明して、使った金額は、すでに、3万ドル近くになっている。あわてたクリスタルと、ヴェスプッチは、グラン・カナリアに向かう。

 はたして、エヴァとマディは、どこまでバカンスを楽しむことができるのだろうか。エヴァとマディは、まだ、老紳士チャンドラーの素顔を知らない。そして、エヴァとマディは、とんでもない事件に巻き込まれていく。(文・二井康雄)

<作品情報>
「素敵な遺産相続」
(C)2015 Faliro House & Haos Film

2017年6月3日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
公式サイト

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