パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち【今週末見るべき映画】

2017年 7月 21日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 ルドルフ・ヌレエフ、ウィリアム・フォーサイス、ギレーヌ・テスマーらの振付、教えを、主にアニエス・ルテステュが、パリ・オペラ座バレエ団の若いエリート・ダンサーたちに伝えていく。


 アニエス・ルテステュは、1992年、ルドルフ・ヌレエフの大抜擢で、「ラ・バヤデール」のガムザッティ役を踊る。1997年、エトワールに昇格、2013年の「椿姫」で現役を引退。現在は、パリ・オペラ座バレエ団の後輩の指導や、舞台の衣装デザインなどの仕事をこなしている。

 ことはバレエに限らないが、いったいに、芸事の伝統を守るためには、常に斬新さを求め、革新を志すものだと思っている。ドキュメンタリー映画「パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち」(ショウゲート配給)には、常に斬新さ、新しさを希求する振付師や、つい先ごろまでのスター・ダンサー、常に高みを目指す著名なダンサーたちが、ズラリと登場する。


 オペラ座バレエ団には、序列がある。群舞を踊るのは、カドリーユ。群舞のなかの主役は、コリフェ。名前がある重要な役を踊るのは、スジェ。準主役級の女性ダンサーは、プルミエール・ダンスーズ。男性はプルミエ・ダンスール。そして、主役のトップダンサーは、「星」を意味するエトワール。アニエス・ルテステュが、ルドルフ・ヌレエフに大抜擢されたときは、まだ、スジェであった。


 映画の大半は、優れたダンサー、コーチによる練習風景である。新旧とりまぜた、オペラ座バレエ団の、さまざまなレパートリーが出てくる。これが、いずれも圧巻そのもの。強く引きつけられる。

 元エトワールのアニエス・ルテステュ、ジャン=ギョーム・バールが、「ジゼル」を練習している。

 ロシアのサンクトペテルブルグのマリインスキー劇場。マリインスキー・バレエのプリンシパル、オレシア・ノーヴィコワが、「ジゼル」の舞台稽古をしているところに、客演のマチュー・ガニオがやってくる。マチュー・ガニオは、オペラ座バレエ団のエトワールだ。「マリインスキーで偉大な古典を踊るのは、ぼくのキャリアにとって、とても重要」と言うマチュー・ガニオは、「ダンサーという職業で気に入っていることは、1つの枠組みのなかで、無限の表現ができること」と付け加える。本番の「ジゼル」の舞台のラスト、マチュー・ガニオとオレシア・ノーヴィコワへの拍手が鳴りやまない。


 マリインスキー・バレエのプリンシパル、ウリヤーナ・ロパートキナとエヴゲニー・イワンチェシコが、「愛の伝説」の舞台稽古をしている。ウリヤーナ・ロパートキナは、音楽のテンポを速めるよう、マエストロに要求する。

 オペラ座のスタジオ。「ジェニュス」を練習するアニエス・ルテステュと、マチュー・ガニオ。マチュー・ガニオは言う。「ゼロから作り上げるプロセスは楽しい」と。

 このマチュー・ガニオが、スタジオで「パキータ」を練習する。コーチは、オペラ座バレエ団の元エトワールのギレーヌ・テスマーだ。ギレーヌ・テスマーは、さらに力強さを、マチュー・ガニオに要求する。



 振付師、ウィリアム・フォーサイスのワークショップ。アニエス・ルテステュは、ウィリアム・フォーサイスの振付を絶賛する。「フォーサイスは、10年も15年も先を行っている」と。さらに、「研ぎすまされた感性で時代の流れをキャッチする」とも。また、「歴史に名を残す世紀の振付師」と賛辞を送る。

 「バ・パーツ」の練習が始まる。まだスジェのサブリナ・マレム、エトワールのマリ=アニエス・ジロ、プルミエ・ダンスールのステファン・ファボラン、スジェのシャルリーヌ・ジザンダネらが踊る。ここに、アニエス・ルテステュが加わる。モダンで、斬新。見ごたえたっぷりの群舞となる。

 日本の「かぐや姫」に材を得た「輝夜姫」(Kaguyahime)は、石井眞木の音楽。アニエス・ルテステュの舞台稽古だ。

 「ラ・バヤデール」の舞台稽古が始まる。アニエス・ルテステュが、ルドルフ・ヌレエフの思い出を語る。「ヌレエフのバレエと言葉を伝えていくべき」と。アニエス・ルテステュは、いまのエトワールたちを指導する立場にいる。


 「ラ・バヤデール」の舞台稽古に、オペラ座バレエ団の芸術監督、バンジャマン・ミルピエが姿を見せる。エトワールのアマンディーヌ・アルビッソン、ジョシュア・オファルト、プルミエール・ダンスーズのオニール八菜(ハナ)が加わる。エトワールたちが稽古に加わっても、正式なキャストはまだ未定である。ぎりぎりまで、その実力が試される。

 アニエス・ルテステュが、ギレーヌ・テスマーについて語る。踊ること、踊りを稽古することは、「香りを残すこと、演じる役に痕跡を残すこと」。言い得て妙。

 オペラ座バレエ団は、創立されて365年になるという。映画からは、世界有数のバレエ団として君臨し続けるだけの理由が、じわりと伝わってくる。

 監督、脚本は、「アニエス・ルテステュ 美のエトワール」、「マチュー・ガニオ&カルフーニ 2人のエトワール」、「バレエに生きる~パリ・オペラ座のふたり~」、「至高のエトワール~パリ・オペラ座に生きて~」、「ロパートキナ 孤高の白鳥」など、多くのバレエ・ドキュメンタリー映画を撮ったマレーネ・イヨネスコである。

 もっと長い時間、見ていたいパリ・オペラ座バレエ団の「バックステージ」(原題)である。バレエ好きには、たまらないほどの時間。バレエにさほどの興味のない人でも、本作を見ると、たぶん、バレエが好きになることと思う。(文・二井康雄)

<作品情報>
「パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち」
(C)DelangeProduction 2016

2017年7月22日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
公式サイト

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