少女ファニーと運命の旅 【今週末見るべき映画】

2017年 8月 10日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 ナチスドイツの残した爪痕や戦争の悲惨さは、いまなお、数多くの映画で描き続けられている。この8月だけでも、「夜明けの祈り」や、「ハイドリッヒを撃て!」が公開される。「少女ファニーと運命の旅」(配給 東北新社、STAR CHANNEL MOVIES)もまた、その一本。


 まだ13歳のユダヤ人の少女ファニーが、ふたりの妹をはじめ、子どもたち8人を引き連れて、ナチス支配下のフランスから、スイスに逃れようとする。じっさいにあった出来事で、ファニーのモデルとなったイスラエル在住のファニー・ベン=アミさんは、自らの体験を綴った自伝を執筆、2011年にフランス語訳が出版された。映画は、この自伝に基づいて作られた。


 ただならぬ緊張感が続く。子どもたちが、ひととき、水遊びで戯れるシーンがあるが、全編、幼い子どもたちの、ナチスドイツからの逃亡劇である。見ていて、なんとか逃げ延びて、と胸のうちで叫んでしまう。

 過去の話ではあるが、いまなお、世界のどこかで、女性、老人、子どもたちが、内戦などのあおりを受けて、国境を越え、逃げまどっている。ファニー・ベン=アミさんはインタビューにこう答えている。「戦争を決して容認しないことですね。人の命はかけがえのないものですから。たとえ戦いに勝ったと思っていたとしても、戦争では失うことしかありません」と。


 唯一の被爆国なのに、日本は、国際的な核兵器拡散防止の取り決めに、参加していない。本来なら、率先して世界各国に、核兵器の悲惨な結果や反戦を訴え続けるべきなのに。映画、小説、詩、絵画などでは、核兵器のおぞましさ、戦争の悲惨さを訴えている国なのに、である。ことに、映画は、より広く、より深く、反核、反戦を訴えることのできるメディアと思う。どうも今、日本には、つい70年ほどの前の歴史と、まっこうから向き合う姿勢に欠けているのではないかと思う。


 花森安治は、昭和43年に、「武器をすてよう」という文章を書いている。
 「日本国憲法第九条。
 日本国民は・・・武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 ぼくは、じぶんの国が、こんなすばらしい憲法をもっていることを、誇りにしている。
 あんなものは。押しつけられたものだ、画にかいた餅だ、単なる理想だ、という人がいる。
 だれが草案を作ったって、よければ、それでいいのではないか。
 単なる理想なら、全力をあげて、これを現実にしようではないか。
 全世界に向って、武器を捨てよう、ということができるのは、日本だけである。
 日本は、それをいう権利がある。
 日本には、それをいわなければならない義務がある。」

 世界各国では、映画というメディアを通して、いまなお、ナチスドイツの爪痕を描き続けている。見習うべきだろう。映画「少女ファニーと運命の旅」を見ると、ますます、そう思う。


 映画は、フランスとベルギーの合作である。共同で脚本を書き、監督したのは、フランスのローラ・ドワイヨン。「ポネット」や「ラブバトル」を監督したジャック・ドワイヨンの娘である。

 出演している著名な俳優は、子どもたちの逃亡を手助けするマダム・フォーマン役のセシル・ドゥ・フランスと、「暮れ逢い」などに出ているステファン・ドゥ・グルートくらい。


 逃げ延びる9人の子どもたちの生まれた国は、フランス、ベルギー、オーストラリアである。リーダーのファニーに扮したレオニー・スーショーの、勝ち気そうな目つき、表情が際だって、いい。

 泣く。恐怖におびえる。けなげな子どもたちの一挙一動は、おとなたちがいま、なにをしなければならないかを、しっかりと伝えている。

 今年もまた、8月15日がやってくる。この夏、まっさきに見るべき映画だろう。

●Story(あらすじ)
 1943年、ナチスドイツ支配下のフランス。ナチスに追われているユダヤ人の子どもたちは、親と離れて、クルーズにあるユダヤ人の支援組織の施設で暮らしている。

 ユダヤ人の13歳になる少女ファニー(レオニー・スー・ショー)もそのひとりで、まだ幼い妹のジョルジェット(ジュリアーヌ・ルプロー)と、エリカ(ファンティーヌ・アルドゥアン)がいっしょである。

 ある日、母親から手紙が届く。「3人とも元気? この2年で大きくなったでしょうね」。ファニーは、木の上に登って、返事を書く。「ジョルジェットは数字の25まで覚えた。エリカは、もう甘えん坊ではない」と。

 誰かが密告する。施設は閉鎖されることになり、子どもたちは、イタリアが占領するムジェーヴに移動することになる。イタリアは、ユダヤ人を迫害しないからである。

 緊張の日々が続くなか、ファニーは、ムジェーヴの施設で料理番をしている青年エリー(ヴィクトール・ムートレ)と仲良くなる。そんな折り、ムッソリーニが逮捕されたとのニユースが入る。施設の責任者、マダム・フォーマン(セシル・ドゥ・フランス)は、やがてドイツ軍が追ってくると察し、子どもたちをスイスに逃がそうとする。

 列車に乗り込む子どもたち。乗り継ぎ駅で待機しているマダム・フォーマンが、さらに、子どもたちを列車に乗り継がせることになっている。ところが、乗り継ぎ駅には、すでにドイツ兵がいる。ドイツ兵に脅えたエリーは、一人で逃げ出してしまう。震える子どもたちを前に、マダム・フォーマンはファニーに言う。「今から、あなたがリーダーよ」と。

 子どもたちは、なんとか列車に乗り込む。列車は動き始めるが、橋が爆破されたらしく、途中の駅で止まってしまう。列車から降りた子どもたちは、多くのドイツ兵を目撃する。偶然にもファニーは、ドイツ兵に捕らえられたはずのエリーと、駅舎の窓越しに出会う。エリーは、一通の手紙をファニーに託す。

 列車の目的地、アンヌマスに着く。マダム・フォーマンとの待ち合わせ場所に、マダムはいない。そこに、見知らぬ男が現れ、子どもたちをトラックに乗せる。組織が手配したと思われるトラックは、スイスへの国境を目指す。

 無事、国境に着くかと思われたトラックだが、途中で検閲にひっかかる。ファニーたち9人は、連行されてしまう。

 スイスへの国境は、まだまだ先である。ドイツ兵が迫ってくるなか、子どもたちは、無事、国境にたどり着けるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「少女ファニーと運命の旅」
(C) ORIGAMI FILMS / BEE FILMS / DAVIS FILMS / SCOPE PICTURES / FRANCE 2 CINEMA / CINEMA RHONE-ALPES / CE QUI ME MEUT – 2015

2017年8月11日(祝)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
公式サイト

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