セザンヌと過ごした時間 【今週末見るべき映画】

2017年 9月 1日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 一時、エミール・ゾラの小説に親しんだ時期がある。きっかけは、マルセル・カルネ監督の映画「嘆きのテレーズ」で、シモーヌ・シニョレに魅せられたことからだった。原作が「テレーズ・ラカン」。ほどなく、「居酒屋」を読み、ルネ・クレマン監督の映画「居酒屋」を見て、マリア・シェルに魅せられた。


 ゾラは晩年の1897年、ユダヤ系の砲兵大尉ドレフュスを擁護した記事「我弾劾す」を、オーロール紙に書く。「弾劾」などというむずかしい言葉を覚えたのも、このゾラの話からである。

 ゾラは、1871年から1893年にかけて、全20巻からなる「ルーゴン=マッカール叢書」を書く。この第7巻が「居酒屋」で、第9巻が「ナナ」、第13巻が「ジェルミナール」である。ゾラ作品の映画化は多い。「ナナ」、「テレーズ・ラカン」、「居酒屋」は、複数回、映画になっている。また、ゾラが1871年に書いた「獲物の分け前」は、1966年、ロジェ・ヴァディム監督が、ジェーン・フォンダを迎えて、映画にしている。


 このゾラが、画家のポール・セザンヌと仲良しだったことは有名な話で、それが映画になった。今年のフランス映画祭でも上映された「セザンヌと過ごした時間」(セテラ・インターナショナル配給)だ。

 セザンヌは、父が銀行家で、裕福な家の生まれ。ゾラは母子家庭の貧しい出自。幼少のころ、セザンヌは、いじめにあうゾラをかばう。ゾラはセザンヌの画才を見抜くが、斬新的なセザンヌは、当時の画壇から、なかなか評価されない。一方、ゾラの小説は、パリで高い評価を受けるようになる。


 ゾラの書いた「居酒屋」は、大評判となるが、セザンヌの自由で奔放な絵は、画壇から無視される。繊細でまじめなゾラ、豪快だが気難しいセザンヌと、性格がまったく異なるが、ふたりは、お互いの才能を認めあっている。ところが、ゾラとセザンヌの関係が悪くなる。セザンヌをモデルにしたような小説「制作」に、セザンヌが怒る。ふたりは、しばらく疎遠になる。映画は、この経緯を、ていねいにすくいとっていく。

 作家が、どのようなことに触発され、小説を書くのか。画家が、どのようなことに触発され、絵を描くのか。その創作の秘密の一端が、明らかになるような展開で、映画に引き込まれる。あわせて、ゾラが、セザンヌが、芸術をどのように考えて創作していくかの過程もまた、明らかになる。


 ゾラに扮したのは、映画監督でもあるギヨーム・カネ。セザンヌに扮したのは、コメディ・フランセーズのメンバーで、最近作では、「イヴ・サンローラン」で、ピエール・ベルジェ役を力演したギヨーム・ガリエンヌ。

 劇中で、セザンヌが言う。「ゾラのように描きたい」。ゾラが答える。「君を信じてる。きっと描ける」。いまや名優、ふたりのギヨームの多くの会話が、含蓄、示唆に富み、とてもいい。

 セザンヌの母親役で、ごひいきのサビーヌ・アゼマが顔を出す。すでに60歳代なかばかと思うが、いまなお、美しい。

 女流監督ダニエル・トンプソンの脚本、演出になる。「さよならの微笑」、「ラ・ブーム」、「王妃マルゴ」などの脚本家である。正攻法、奇をてらわず、練られた会話、風を感じるような美しい風景を定着させ、ゾラとセザンヌの約40年にわたる友情を描ききる。


 セザンヌが、サント・ヴィクトワール山を描いた連作が映画に出てくる。見ものである。映画を見た後、セザンヌの多くの絵を見たくなるし、ゾラの小説を読み返したくなる。シモーヌ・シニョレの「嘆きのテレーズ」、マリア・シェルの「居酒屋」も、見直してみたくなる。

 晩年、高い評価を得たセザンヌは、1906年、絵筆を持ったまま亡くなる。30歳代なかばで「居酒屋」を書いたゾラは、1902年、一酸化中毒で亡くなる。一説には、暗殺されたともある。

●Story(あらすじ)

 1888年、フランスのメダン。作家エミール・ゾラ(ギヨーム・カネ)の別荘に、画家のポール・セザンヌ(ギヨーム・ガリエンヌ)が訪ねてくる。ふたりは2年ぶりに再会する。

 30数年前のエクス=アン=プロヴァンス。ゾラもセザンヌも、まだ少年だったころである。母子家庭の貧しい家に育ったゾラは、いじめにあう。裕福な銀行家を父に持つセザンヌは、ゾラをかばってやる。ゾラは、その礼として、セザンヌにリンゴを届ける。

 ゾラは詩人を目指し、パリに赴く。セザンヌもまた、画家を志し、パリに向かう。セザンヌは、絵の仲間であるモネや、ルノワール、ピサロ、シスレーたちといっしょに絵を出品するが、みんな、落選する。

 1862年。セザンヌは美術学校にも入れず、父親からの仕送りも途絶えてしまう。

 サロンに落選した画家たちは、独自に、一般大衆が審査する「落選展」を開催する。マネの描いた「草上の昼食」が、現実の女性の裸体を描いたことで、非難を浴びる。新聞にも文章を書いていたゾラは、マネ擁護の記事を書き、援護する。セザンヌは、この「落選展」にも落選する。

 失意のセザンヌに、さらに不幸が見舞う。セザンヌのモデルであり、愛人でもあったアレクサンドリーヌ(アリス・ポル)に、ゾラが想いを寄せるようになる。怒りを露わにしたセザンヌは、エクス=アン=プロヴァンスに引き上げてしまう。

 ゾラは、心を込めて、セザンヌに多くの手紙を書く。「もう一度、絵筆を持て」と。しかし、セザンヌの転落は止まらない。もはや世間から遠ざかり、隠遁するかのような日々を過ごしている。かつての仲間たちは、「印象派」として画壇を席巻するようになっていく。

 ゾラは、アレクサンドリーヌと結婚し、小説を書き続けている。「居酒屋」、「ナナ」と、ゾラの小説は大ベストセラーとなる。

 疎遠かと思われたゾラとセザンヌだが、セザンヌの才能を信じるゾラは、なにかとセザンヌに、助けの手をさしのべる。

 1886年、ゾラの書いた小説「制作」に、セザンヌは怒り、心に深い傷をかかえることになる。はたして、セザンヌの才能は、いつ認められるようになるのか。また、セザンヌとゾラの友情は、どうなっていくのだろうか。

<作品情報>
「セザンヌと過ごした時間」
(C)2016 - G FILMS - PATHE - ORANGE STUDIO - FRANCE 2 CINEMA - UMEDIA - ALTER FILMS


2017年9月2日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
公式サイト

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