わたしたち 【今週末見るべき映画】

2017年 9月 22日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 まだ小学生だったころ。遠足や社会見学には、バスや電車で出かけた。自ずと「仲良しグループ」がいくつか存在し、気の合う子どもどうしが、集まって座席につく。先生は、みんな仲良く、などと言うが、たぶん、グループに加われない同級生がいたことと思う。そういった同級生に、少しでも配慮しただろうか。記憶にないが、たぶん、知らん顔をしていたと思う。ただし、いまでいう「いじめ」などはなかった。


 昨年の東京フィルメックスで、「私たち」というタイトルで上映されたときに見た韓国映画が、このほど、「わたしたち」(マジックアワー、マンシーズエンターテインメント配給)というタイトルで公開となる。初めて見たとき、つい、もう何十年も前のことを思い起こしていた。仲良しグループで、群れをなしていたことを。

 「わたしたち」は、東京フィルメックスでは、観客賞を受けている。審査員だけでなく、一般の観客からの評価も高かった結果である。事実、子どもたち、少女たちの初めての経験となるさまざまな感情が、精緻に描かれていて、その語り口の巧さに、引き込まれてしまう。

現代の韓国の都会。10歳になる小学校4年生の少女ソンは、同級生のボラたちのいじめにあっている。夏休み前の終業式の日に、ソンは転校生のジアと出会う。ソンは両親が共働きで、そう裕福な家ではない。やんちゃ盛りの弟のめんどうをみるのもソンの役目だ。


 ジアは、携帯を持ち、音楽プレーヤーでいつも音楽を聴いている。裕福そうな家庭だが、母親が不在で、イギリスで働いているらしい。ジウと仲良しになったソンは、夏休みの間、弟やジウと楽しく過ごす。

 新学期が始まる。ジウは、英語塾で、ソンを仲間はずれにしていたボラと仲良しになっている。仲良しだったジウ
は、いまやボラたちのグループに入り、ソンへのいじめに加担する。やがて、少女たちの感情が、さらにぶつかりあうようになっていく。

 子どもたちの世界を、鋭く、深く観察し、いじめがもたらす過程、結果を、あざやかなドラマに昇華させる。短いセリフながら、少女たちの豊かな表情やしぐさが、雄弁だ。少女たちの狭い世界の出来事が、広い社会全体の出来事に見えてくる。


 群れをなす、という。群れに加われない弱者は、いじめの対象となる。日本だけでなく、国会議員、政治家は群れをなし、企業組織もまた、群れをなす。おちこぼれもいれば、いじめの対象になる者もいる。描かれた子どもたちの世界は、いろんな社会の縮図でもある。

 多くの子どもたちから選ばれた4人の優れた演技が、本作を成功に導いたと思う。主役のソンを演じたチェ・スインは、人付き合いの苦手な役どころを、表情豊かに演じきる。成績優秀で、負けずぎらいの転校生ジアを演じたソル・ヘインは、クールで、なかなかの美少女だ。グループのリーダー格ボラを演じたイ・ソヨンは、達者な芝居で、いじめる側の立場、言い分を体現する。ソンの弟ユンを演じたカン・ミンジュンは、可愛さいっぱい。人なつっこい、やんちゃな4歳役を、心得たっぷりに演じる。


 監督、脚本は、ユン・ガウンという女性。いくつかの短編作品があるが、これが長編デビュー作である。まだ30歳代なかばの若い監督で、自身の経験が元になる脚本だけに、リアリティたっぷり。映画の企画段階から、「シークレット・サンシャイン」や「ポエトリー アグネスの詩」を監督したイ・チャンドンが加わり、花を添える。

 子どもたちは、社会の縮図のような環境のなかで、確実に成長を遂げると思う。たとえ、いじめの対象となっても、はねのけるだけのパワーを持っているはず。映画は「わたしたち」だが、これは、「あなたたち」でもある。子どもたちの世界を描きながら、いまの世界のありようを示した監督の力量に、韓国映画界の層の厚さを痛感する。

●Story(あらすじ)

 少女ソン(チェ・スイン)は、10歳の小学4年生。要領の悪いこともあって、じゃんけんやボール遊びで、なかなか仲間に入れてもらえない。学校ではいつもひとりでいる。夏休み前の終業式の日。ソンは、転校してきた少女ジア(ソル・ヘイン)と出会う。その日、ソンに信じられないことが起きる。いつもは、ソンを仲間はずれにしているボラ(イ・ソヨン)たちから、誕生祝いのパーティに招待される。さっそく、手作りのブレスレットを作り、出かけていくと、そこは見知らぬ家である。だまされたと知って、ソンは落ち込んでしまう。その帰り道、ソンは、またジアと出会う。

 ソンの家庭は、裕福ではない。気だてのいい母親がいるが、父親は工場に泊まり込むことが多い。ソンは、母親にジアと知りあったことなどを話す。

 裕福そうな家庭のジアは、ソンを家に招く。ジアの母親はイギリスで働いていることが分かる。ソンとジアは、公園で遊び、おたがいの将来の夢を語る。

 ソンには、まだ幼い弟ユン(カン・ミンジュン)がいる。両親の留守に、ソンは、ジアを家に泊めてもいいかと母親に相談する。ジアはソンの家にやってくる。ユンは、ジアになつき、3人で楽しいひとときを過ごす。ソンはキムチチャーハンを作る。

 ソンとジアは買い物に行く。ソンは、ファーバーカステルの色鉛筆を手にとる。欲しいけれど、高くて買えない。それを見ていたジアは、色鉛筆を万引きして、ソンに差し出す。ジアに母親から電話が入る。複雑そうな家庭であることが、ソンにも分かる。

 ジアはソンに打ち明ける。3年前に、ジアの両親は離婚していることを。ソンもまた、おじいちゃんの話をすると、父親がカッとなってお酒を呑むことなどを話し、「おとなは分かんない」などと話し合う。こうして、ソンとジアは、仲良く、夏休みを過ごす。

 ジアがソンの家に泊まりにきた朝。ソンはママにキュウリの海苔巻きをねだっている。そんな仲良しのソンと母親を見て、ジアは複雑な思いにかられる。

 夏休みに、ジアは英語塾に通い始める。ジアは、ソンにも塾通いをすすめるが、ソンは、家が貧しいことを知っているし、塾にはいじめっ子のボラもいるので、塾には通いたくない。ソンは携帯を持っていない。ジアは、ソンがゲームをしたりするので、早く、携帯のバッテリーがなくなると、ソンのせいにする。

 新学期が始まる。ジアがみんなに紹介される。ソンは、すでに英語塾で、ジアとボラが仲良くなっていることを悟る。ソンとジアは、いくら仲良くなっても、互いの家庭環境がおおいに異なる。やがて、ジアは、ボラたちのグループの一員になっていく。

 ソンは、ジアとの関係を修復しようと、ジアに話しかけようとするが、すでにジアは、ソンをいじめる側のグループにいる。ソンは、ジアの話したことを、ふと、周囲に漏らしてしまう。ソンとジアの溝が、ますます深くなっていくのだが……。(文・二井康雄)

<作品情報>
「わたしたち」
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

2017年9月23日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
公式サイト

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