ブルーム・オブ・イエスタディ 【今週末見るべき映画】

2017年 9月 29日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 昨年の東京国際映画祭で、グランプリを受けた「ブルーム・オブ・イエスタディ」(キノフィルムズ、木下グループ配給)が、このほど一般公開となる。ナチスドイツのホロコーストが背景となるが、その歴史さえ、ジョークのネタになる。全体のトーンは、ややブラックめいたラブ・コメディの様相。この題材に、何たるジョークかと、驚かれるかもしれない。事実、作品の評価は分かれる。だから、観客の見方、受け取り方が試される、まるでリトマス試験紙のような映画だ。


 ナチスの戦犯を祖父に持つ男性トトと、ナチスの手で祖母が殺されたフランス系ユダヤ人女性ザジが、ホロコースト研究を通じて知り合う。トトは加害者の立場から、ザジは被害者の立場から、ホロコースト研究に身を投じている。

 こういったシリアスな内容にも拘わらず、クリス・クラウス監督の脚本、語り口は、常に苦笑いを誘いつつ、歴史の暗闇をほのめかす。トトもザジも、戦争世代の孫たちである。いまでは、祖父祖母が敵対関係にあっても、孫たちの世代は、歴史をジョークにして語らっている。そういった現実にヒントを得た脚本だから、説得力に富む。しかも、監督自身、祖父やその弟が、ナチスに深く関与していたらしい。


 シュトゥットガルトのホロコースト研究組織にいるトトたちが、アウシュヴィッツ会議を開催しようとしている。その助手として、やはりホロコーストを研究しているザジが、フランスからやってくる。トトは、祖父たちを告発した著書があるが、そのせいで親類、家族から孤立している。トトの、やや感情的で、がんこな性格も仕方のないところ。ザジは、分裂気味の性格で、気ままで奔放なところがある。

 もちろん、祖父祖母の世代の歴史を忘れていない。また、いつまでも歴史に縛られているわけでもない。では、明日や近い将来を、どう生きていくか。映画のタイトルには、深い意味があると思われる。「昨日咲いた花」は、果たして、明日も咲くのだろうか。また、どのように、咲かせばいいのだろうか。映画のラスト近く、ザジの素性をトトが知ることになる。結果、花が咲くがどうかの判断は、すべて観客に委ねられる。

 トトに扮したのは、オリヴィエ・アサイヤス監督の「アクトレス~女たちの舞台~」、「パーソナル・ショッパー」に出ていたラース・アイディンガーである。一癖も二癖もある脇役が、ここでは堂々の主役。ザジ役のアデル・エネルは、最近ではダルデンヌ兄弟の監督した「午後8時の訪問者」で、女医役を力演している。


 10年ほど前、クリス・クラウス監督の「4分間のピアニスト」を見た。ナチス・ドイツの影が見え隠れする現代。殺人犯として刑務所にいる天才的な若い女性ピアニスト、ジェニーのドラマだ。ジェニーが手錠のまま、後ろ手でピアノを弾くシーンや、ラストで弾くシューマンのピアノ協奏曲のシーンは、圧巻だった。ジェニーを演じたハンナー・ヘルツシュブルングは、まだ血気盛んな少女だったが、ここでは、トトの妻、ハンナ役で出ている。


 「ブルーム・オブ・イエスタディ」は、ドイツ、オーストリアの合作である。いまなお、ドイツなどの国を中心に、映画というメディアは、さまざまなアプローチから、ナチスドイツの歴史を検証している。本作でも、ネオナチの台頭を暗示するシーンもあり、すこぶる現代的なアプローチを見せる。

 かつて日本は、エネルギーの道を閉ざされ、結果、ひどい歴史を持つことになる。いま、同盟国の言うままに、声高に、他国のエネルギーを閉ざそうと叫んでいる。まったく、何の反省もない。それどころか、国内に緊張をあおり、同盟国から大量の武器を購入しようとしている。いったい、ここ70数年の歴史を、なんと思っているのか。嘆かわしい限り。


 トトとザジの生き方、考え方につきあっているうちに、歴史は歴史。明日は明日と思う。いまは、希望を持って生きるしかないと痛感する。ささやかな勇気を手にできたらいいのだが。

●Story(あらすじ)
 トト(ラース・アイディンガー)は、ドイツのホロコーストの研究員。祖父は、ナチス親衛隊の高官だった。以前、祖父たちを告発した著書を出したことで、家族、親類からは冷ややかな目で見られている。研究熱心なトトの精神状態は、いささか不安定で、よく感情的になる。

 ある日、トトは、以前から企画しているアウシュヴィッツ会議のリーダーから外されてしまう。教授は、トトの感情的な性格を憂い、同僚のバルタザール(ヤン・ヨーゼフ・リーファス)をリーダーに指名する。激昂したトトは、バルタザールに殴りかかる。ふたりのケンカのさなか、教授は突然、発作を起こし、亡くなる。

 フランスから、ザジ(アデル・エネル)という若い女性が、研修生としてやってくる。シュトゥットガルトの空港まで、トトと、顔、首をケガしたバルタザールが迎えに行く。ふたりは、空港でまたまたケンカ。トトがひとりでザジを迎えることになる。

 ザジはまだ若い女性で、いちおう、トトの著作を「サイコー」と誉める。ところが、迎えの車がベンツだと知ると、突然、「ユダヤ人の祖母が、ベンツのガス・トラックで殺された」と怒り出す。あっけにとられるトト。

 さらにまた、ザジは、トトに、バルタザールの愛人だと打ち明けたりする。すっかり困惑するトト。

 リーダーのバルタザールは、会議の開催を進める。会議には、スポンサーが欠かせない。そんなバルタザールの考え方に、トトは異論を唱える。バルタザールは、ホロコーストを生き延びた著名な女優ルビンシュタインに、会議の講演を依頼している。裕福なルビンシュタインは、格好のスポンサーでもある。ルビンシュタインは、ホロコースト研究所の教授が亡くなったことで、会議での講演を断ってくる。バルタザールは、トトとザジに、ルビンシュタインが講演を引き受けてくれるよう、その説得を命じる。

 「被害者の苦しみより、人生の成功話なら」と条件をつけるルビンシュタインに、トトは切れる。「あの悲劇を何と考えているのか」と。ルビンシュタインが会議に参加しなければ、マスコミの取材もないし、開催費用も出ないことになる。

 トトは、妻のハンナ(ハンナー・ヘルツシュプルング)とも、うまく夫婦生活が出来なくなっている。妻の不倫もある程度認めている状態のトトは、いまや八方ふさがり。つい、ネオ・ナチの連中にケンカを売り、こっぴどく叩きのめされる。

 トトは、ザジに傷の手当を受ける。そこでトトは、ザジのベッドルームで、信じられない「あるもの」を見つける。結果、トトは、初めてザジの素性を知ることになる。そして、トトとザジは、運命に誘われるように、「ある場所」に出向くことになる。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ブルーム・オブ・イエスタディ」
(C)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH


2017年9月30日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
公式サイト

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