ブレードランナー 2049【今週末見るべき映画】

2017年 10月 26日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 そうか、「ブレードランナー」が日本で公開されてから、もう30数年も経つのか・・・。

 舞台は、2019年のロサンゼルス。酸性雨かどうか分からないが、雨が降り続いている。宇宙旅行の勧誘や、派手なネオン広告が、日常茶飯事だ。巨大企業のタイレル社が製造しているレプリカントと呼ばれる人造人間が、反乱を起こし、地球に戻ってくる。これを「処分」するのが、ハリソン・フォード扮するデッカードという警官で、ブレードランナーと呼ばれている。

 デッカードは、何人かのレプリカントを処分するが、レイチェルという試作品のレプリカントを愛してしまう。当時のレプリカントには、4年という寿命があり、感情を持ち始めたりするまでがほぼ4年、という設計になっている。そして、デッカードは、寿命の判別しないレイチェルとともに、どこかに去ってしまう。

 「ブレードランナー」は、ラストや細部の異なるバージョンが複数、DVD化されているが、繰り返し見ているのは、ディレクターズ・カットで、「最終版」と書いてある。

 「ブレードランナー」は、もう、いろんな人が、トリビアよろしく、細かなことや、いろんなことを書き、話す。雑誌は特集を組み、単行本になる。シーンのひとつひとつや、意味ありげな小道具るいを、ああでもないこうでもないと、検証する。それほど、微細なところに、意味を持たせたり、象徴的な内容を持ったSF映画なのだろう。


 このほど、続篇になる「ブレードランナー 2049」(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給)が公開される。前作の設定から、30年後の2049年。主な舞台は同じロサンゼルスだが、冒頭には、カリフォルニアと示される。「2049」では、ロサンゼルスだけでなく、サンディエゴ、ラスベガスもまた、舞台となる。

 もちろん、ブレードランナーが登場する。名前は無く、「KD 6 - 3.7」と、シリアルナンバーのような記号がついていて、俗称、Kである。K、Dといえば、「ブレードランナー」の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を書いたフィリップ・K・ディックの、KとDかもしれない。


 この役名から、Kというブレードランナーは、人間ではなく、レプリカントと思われる。新型、高性能のレプリカントのブレードランナーが、古い型や、ロサンゼルス市警が「解任」と判断したレプリカントを、処分するというわけだ。

 今、ときめいているライアン・ゴズリングが、Kに扮する。これが、無表情で無口。黙々と仕事をこなしていく。ところが、仕事を終えた後、あるレプリカントの遺骨らしきものが入った箱を見つけ、やがて、自らの出自を探るようになっていく。そして、捜査の行き着いた先は、前作の主人公、デッカードの30年後だった、というもの。


 設定の巧さ。ほどよい運び。映像が、前作のイメージを残して、さらに斬新。ファーストシーンのロサンゼルス郊外の俯瞰から、次々と、目を見張るようなシーンが連続する。レプリカントを製造しているウォレス社の内部。サンディエゴの廃棄物処理場。さびれた雰囲気のラスベガス。前作同様、雨が降り続いている。「2049」では、雷鳴がとどろき、雪が降る。どのシーンも、構図、色彩ともに、とにもかくにも、美しい。ことに、さびれ果てたラスベガスで、Kがデッカードと出会う前後のシーンなどは、息を飲むほどの美しさ。「ファーゴ」や「ノー・カントリー」など、多くのコーエン兄弟の作品を撮ったロジャー・ディーキンスの撮影である。美しいのは、当然だろう。

 音楽は、近未来の不安感を象徴するかのようなシンセサイザーが鳴り響く。ズシンズシンと打楽器のような音が響きわたり、興奮が加速する。スコアは、先頃、「ダンケルク」の音楽を担当したハンス・ジマーに、ベンジャミン・ウォルフィッシュが加わる。前作の音楽を担当したヴァンゲリスの曲「ティアーズ・イン・ザ・レイン」も、ちゃんと使われている。


 Kと同居しているホログラムの女性ジョイは、1960年代のフランク・シナトラの歌が好きなようで、1965年にジョニー・マーサが歌詞を書き、ヘンリー・マイヤーが曲をつけた「サマー・ウィンド」を聴いている。Kもまた、ジュークボックスで聴くのは、フランク・シナトラがしみじみと唄う「ワン・フォー・マイ・ベイビー」だ。

 かつてのラスベガスのショーが、ホログラムふうに登場する。「好きにならずにいられない」を、エルヴィス・プレスリーが唄う。ただし、意図的に映像を乱れさせている。さらに、Kの持っている携帯(というのか情報端末というのか分からないが)の着信音が、プロコフィエフの「ピーターと狼」の冒頭のメロディ。これは、前作と「2049」へのセルフ・パロディの趣きか。

 ストーリー、映像美、音楽、音響効果、俳優たちの演技。もう、どれも最高である。上映時間2時間43分。ちっとも長く、感じない。


 Kの勤めるロサンゼルス市警の上司で、マダムと呼ばれているジョシ役は、ロビン・ライトで、もはや貫禄。タイレル社を引き継いだウォレス社のボスに、ジャレッド・レト。その片腕で、ウォレスに忠節を尽くすエリートの女性レプリカント、ラヴ役にシルヴィア・フークスが扮している。オランダ生まれで、「鑑定士と顔のない依頼人」に出ていた。強そうで、恐そうな表情に、迫力がある。ホログラムで存在し、Kと同居しているジョイ役は、キューバ生まれのアナ・デ・アルマス。可憐な役どころを、そつなく、こなす。もちろん、前作に続いてのデッカード役は、ハリソン・フォード。年齢を重ねた世捨て人の一挙一動が、たまらなく、切ない。


 プレス資料に、「お願い」があって、「この映画のラスト、および、これから映画をご覧になるみなさまの楽しみを奪うような過度のネタバレは避けていただきますよう」とある。これ以上、「ブレードランナー 2049」のあらすじ、内容の紹介は控えたほうがいいだろう。

 その代わり、プレス資料に、前作(2019年)と続編(2049年)のあいだに起こったことが詳細に記されている。この間の出来事は、3本の短編で、ネットで見ることができる。渡辺信一郎監督のアニメーション「ブレードランナー 2022」、ルーク・スコット監督の「ブレードランナー 2036」と「ブレードランナー 2048」だ。プレス資料をざっとダイジェストする。

 2020年。レプリカントを製造したタイレル社のタイレルが死去する。
 2022年。西海岸が大規模な停電になり、アメリカ国内のあらゆる電子データが破壊。食料危機となる。原因は、レプリカント製造との世論が起こる。
 2023年、レプリカント製造を無期限に禁止する法律が成立。4年の寿命しかない、旧モデルのレプリカントは退役、生き残った当時の新型は「解任」となる。
 2025年。ウォレスは、遺伝子組み換え食品「プロティン」を開発し、食料危機を救う。
 2028年。ウォレス社は、世界的企業に成長し、倒産したタイレル社を引き継ぐ。
 2030年代。ウォレス社は、遺伝子工学を推進、レプリカントに記憶装置を施すなど、レプリカントを従属させるための制御法などの開発を進める。
 2036年。レプリカント製造禁止法が廃止。ウォレスは、新型のレプリカントの製造を始める。
 2040年代初め。ロサンゼルス市警は、違  法となったレプリカントを解任しようとする。
 2048年。違法のレプリカントのひとりは、虫のようなプロティンを繁殖し、生き延びようとしている。そして、2049年……。本編「ブレードランナー 2049」が始まる。

 「2049」を試写で見た後、興奮、余韻がさめやらず、すぐに「最終版」を見た。前作を見ていない若いライターさんは、「2049」を試写で見た後、まっさきに「前作を見よう」と、これまた興奮状態。

 傑作だった前作への敬意を込めて、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、とてつもない傑作を撮ったものだと思う。前作を監督したリドリー・スコットは、「2049」では、製作総指揮を担当する。

 度重なる改良を経たレプリカントは、感情を育み、人間よりも人間らしくなっていく。一方、人間は、さらに人間性を失っていく。隷属されたレプリカントは、人間社会に同化しようと試みるが、その辿る運命の切なさに、こみ上げてくるものがある。

 リドリー・スコットとドゥニ・ドゥルヌーヴは、痛烈な文明批評として、近未来のあざやかな視覚化に成功したと思う。これは、映画史に残る奇跡、革命。どなたにも、強く鑑賞を勧めたい。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ブレードランナー 2049」

2017年10月27日(土)、全国ロードショー
公式サイト

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