リュミエール! 【今週末見るべき映画】

2017年 10月 27日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 ざっと120年ほど前、映画を発明したのは、フランスのルイとオーギュストのリュミエール兄弟とされている。

 写真が動く。ただそれだけのことだが、さらにトーキーになり、色が付く。スクリーンは大きくなり、いまや、音はあちこちから出て、画面が飛び出してくるように見え、座席が振動したりする。ここまで最新の技術でなくても、すでに映画は、作家の伝えたいことを伝える貴重なメディアになっている。もちろん、エンタテインメントとしても、わたしたちを存分に楽しませてくれる。

 このリュミエール兄弟の会社が、1895年から1905年までに作った50秒ほどの映画は、1422本といわれているが、そのうち、厳選された108本が、ドキュメンタリー映画「リュミエール!」(ギャガ配給)で見ることができる。ざっと120年ほど前の映画が、4Kデジタルという最新の技術で、よみがえる。すごいことと思う。


 「リュミエール!」は、10月25日から開催される第30回東京国際映画祭の特別招待作品で、一足早く、試写で見た。

 日本では、動く写真、映画を「活動写真」と呼んだ。明治の末期生まれの父は、映画のことを「カツドウ」と言っていた。サイレントの時代である。母親からこっそりお金をもらって、カツドウを見る。息子には、晩ご飯を食べながら、かつて見たカツドウの話をする。このカツドウのそもそもの始まりが、リュミエール兄弟たちが、世界じゅうで撮影した、多くの映画である。お金を取って、一般の人に見せた、最初の映画でもある。


 「リュミエール!」は、「第1章 まず初めに」、「第2章 リヨン リュミエールの街」といった短いタイトルの付いた全11章からなる。1895年、「工場の出口」の映像がスクリーンに映る。いろんな人がリュミエールの工場から出てくる。これには3つのバージョンがあって、全部見ても、3分たらず。「赤ん坊の食事」は、いまでいうファミリー・ビデオ。赤ちゃんの自然なしぐさが、ちゃんと収まっている。有名なのは、「列車の到着」だ。映画に興味のある方なら、きっと、どこかで見たことがあると思う。南フランスのラ・シオタ駅に、列車が到着する。見ていた人が、スクリーンに映る列車がどんどん近づいてくるので、おもわずのけぞった、という話をどこかで聞いたことがある。「水を掛けられた庭師」は、散水中にホースを踏まれて、水が出なくなる。ホースを踏んでいた足を離すと、ホースの先を目の前にしている庭師の顔に水が。初のコメディ映画、だろう。

 リュミエール兄弟の会社は、多くの社員を採用する。やがて、1895年から1905年にかけて、世界じゅうの風景、暮らしぶりが、リュミエール社の映画になっていく。スイス、スペイン、イギリス、イタリア、ドイツ、アイルランド、トルコ、エルサレム、エジプト、チュニジア、ロシア、アメリカ、メキシコ、インドシナ、日本……。

 ヴェネチアでは、ゴンドラに乗せたカメラが、移動撮影する。日本は、京都で撮影された「日本の剣士」が出てくる。エジプトでは、当然、ピラミッドとスフィンクス。アメリカで生まれ、フランスのパリで活躍したロイ・フラーと思うが、ダンサーが何重にもなった衣装をひるがえして踊るシーンもある。この衣装だけはフィルムを彩色し、あざやか。リュミエール兄弟たちは、やがて映画が、カラーの時代になることを想定していたのかもしれない。


 ほかにも海辺、街角の風景、鉄道などなど、貴重な映像ばかり。どれもが、計算された構図で撮られ、静止画としても、鑑賞にたえる美しさ。

 およそ、映画における、さまざまな手法の萌芽が、ここにある。移動撮影、クローズアップ、トリック撮影、カメラを固定したままの手法、工夫された構図などなど。


 監督、脚本、共同で編集、共同でプロデューサー、ナレーションまで担当したのは、カンヌ国際映画祭の総代表を務める、ティエリー・フレモー。映画に寄せる愛と情熱がハンパではない。自らの脚本だけに、ナレーションの間の取りかたが抜群で、品のあるユーモアを交えて、絶品だ。日本語吹替版も上映されるので試写で見たが、どこか一本調子。おすすめは字幕版だ。

 ちなみに、ティエリー・フレモーは、映画「ボンジュール、アン」のなかに出てきた、リヨンにある「リュミエール研究所」の所長でもある。

 共同プロデューサーに、映画監督のベルトラン・タヴェルニエが名を連ねる。共同のメッセージにこうある。「リュミエール兄弟が製作した映画は、……極めて重要なのだ。われわれの想像力、つまり、今日では『芸術作品』と好んで呼ばれているものの扉を開けるものであったから」。

 貴重な映像に、優雅でシックなサン=サーンスの音楽が寄り添う。バレエ音楽の「ジャボット」、元はオルガン曲の「ブルターニュの賛歌による3つの狂詩曲」から2曲、劇音楽「アンドロマク」序曲、作品49の「組曲ニ長調」から、プレリュード、サラバンド、ガボット、ロマンス。

 見終わって、なぜか、心がホンワカ。映画は、おおげさにいうと、人間や人生とは何かを教えてくれた師匠のひとりと思っている。だから、リュミエール兄弟たちの撮った映画は、師匠のそのまたの師匠だ。

 いま、映画が発明されたころに、タイムスリップできる。これに勝る喜びは、ないかもしれない。(文・二井康雄)

<作品情報>
「リュミエール!」
(C)2017 - Sorties d'usine productions - Institut Lumiere, Lyon

2017年10月28日(土)、東京都写真美術館ホールほか全国ロードショー
公式サイト

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