エンドレス・ポエトリー 【今週末見るべき映画】

2017年 11月 17日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 チリの監督アレハンドロ・ホドロフスキーの映画は、めっぽう、型破り。寡作だからこそ、撮りたい映画を撮りたいように撮る、たいへん幸せなな監督と思う。

 アレハンドロ・ホドロフスキー監督の言葉にこうある。


 「私はもう88歳で死にかけている。間もなく肉体は滅びる。私は映画で、多くの観客を惑わせるだけでなく、自覚させたい。芸術は人に向かって扉を開き、その中に人は自己を見出す。私たちは、檻にとらわれて多くの物に惑わされる。だが、意識には名前も、年齢も、国籍も、性別もない。自由を望めば自由になれるんだ。映画館のスクリーンの前で意識を覚醒してほしい。芸術の言葉を受け取ってほしい」


 このホドロフスキー監督の新作が「エンドレス・ポエトリー」(アップリンク配給)だ。前作の「リアリティのダンス」を配給したアップリンクの浅井隆が、プロデューサーのひとりに名を連ねる。世界じゅうから製作費を集め、監督が撮りたいテーマを、撮りたいように撮る。自伝的ともいえる前作の「リアリティのダンス」の続編である。このほどの第30回東京国際映画祭の特別招待作品で上映され、さっそくに見た。

 前作の「リアリティのダンス」は、1920年代、軍事政権下のチリが舞台。幼少のアレハンドロは、ロシア系のユダヤ人で、いつもいじめにあっている。アレハンドロは、やがて、厳格な父ハイメと、元オペラ歌手の母サラとともに、故郷のトコピージャから、首都のサンチャゴに向かう。だから、続編は「リアリティのダンス」のラストシーンから始まる。


 相変わらず厳しい父に鍛えられ、青年になったアレハンドロは、前衛的な詩人やアーティスト、パフォーマーと出会う。前作と同じで、適宜、ホドロフスキー監督自身が、青年のアレハンドロに寄り添い、的確な人生の道案内をする。さて、青年アレハンドロは、どのような人間に成長していくのだろうか。

 全編、詩のようなセリフである。だれでもが、それぞれの人生を生きる。映画には、「自由を望めば自由になれるんだ」とのホドロフスキーの切実な思いがあふれている。どのような束縛もなく、自由に生きること。88歳になるが、まだまだ若々しいホドロフスキーの、観客に向けた、人生応援歌でもある。


 さまざまな才能に恵まれたホドロフスキーだが、スペイン語で書かれた映画でのセリフを聞くだけでも、つくづく、繊細な詩人と思う。だから、息子のアダン・ホドロフスキーに任せた音楽にも、ホドロフスキーの強いこだわりを感じる。

 アダン・ホドロフスキーは、「リアリティのダンス」で作った「Los Mineros」を、「エンドレス・ポエトリー」でも引用する。このテーマ曲ともいえる音楽は、エリック・サティの「ジムノペディ」からのアイデアだそうだ。また、前作の「リアリティのダンス」にも流れていたフレッド・アステアの「チーク・トゥ・チーク」や、「エル・トポ」で使われていた曲が数曲、登場する。さらに、ヴェルディのオペラ「ナブッコ」の第3幕のコーラスで唄われる、いまやイタリアの第二の国歌となっている「行け、わが思いよ、金色の翼に乗って」や、アルゼンチン・タンゴの「ジーラ・ジーラ」などなど、選んだ音楽の幅の広さにも驚く。


 どのシーンも、ひとつひとつが、計算されつくした構図で、絵画のよう。撮影を担当したのは、ウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」や、チャン・イーモウ監督の「HERO」などのクリストファー・ドイル。ホドロフスキーとは初のコンビとなる。ラスト近く、マスクをつけ、全身を赤の衣装に包んだ一団と、骸骨の衣装をまとった一団がパレードする。生と死を象徴したかのような乱舞で、これは圧巻だ。


 1953年、ホドロフスキーは、フランスのパリに渡る。だから、自伝的映画「リアリティのダンス」と、その続編の「エンドレス・ポエトリー」には、まだまだ続きがあると思われる。90歳を超えても、100歳を超えても、映画を撮り続けていた先人がいる。ホドロフスキーの自伝ともいうべき映画は、まだ二本に過ぎない。3作目はパリ時代、4作目はメキシコ時代、5作目はパリに戻ったホドロフスキーの愛の物語と、すでに構想は、ホドロフスキーの手中にある。全5部作。あと3作、ぜひ、撮ってほしいものだ。

●Story(あらすじ)
 アレハンドロ・ホドロフスキー少年(イェレミアス・ハースコヴィッツ)は、父のハイメ(フロンティス・ホドロフスキー)と母のサラ(パメラ・フローレス)とともに、故郷のトコピージャから首都のサンチャゴに到着する。

 三人がたどり着いたのは、貧しい労働者や酔っぱらい、娼婦、怪しげな薬を売る男たちの いるマトゥカナ通りの一角だ。

 厳格なハイメは、雑貨屋を開くが、万引き客には容赦なく、暴行を加える。

 アレハンドロは、スペインの詩人、ガルシア・ロルカの詩集に出会う。ハイメはそんな息子に怒りを覚え、医者になるよう、生物学の本をアレハンドロに押しつける。

 ある日、アレハンドロは、母サラの実家に連れていかれる。親戚を前にして、アレハンドロは、「医者にはならない、詩人になる」と宣言する。従兄弟のリカルドは、そんなアレハンドロを、芸術家姉妹の家に連れていく。姉妹の家には、ダンサーやミュージシャン、画家など、前衛的な芸術を目指す若者たちがいる。アレハンドロは、詩人となる決意を固める。

 数年後。アレハンドロ(アダン・ホドロフスキー)は、ニカノール・パラの詩を愛読している。ニカノール・パラは、ノーベル文学賞の候補にもなった現代のチリを代表する詩人だ。

 アレハンドロは、詩人たちのたまり場であるカフェ・イリスに出入りするようになる。ここで、アレハンドロは、大量のビールを一気に飲み干す、真っ赤な髪をした女性(パメラ・フローレス)と出会う。のちに分かったことだが、この女性が、ニカノール・パラの詩に出てくる「毒蛇女」のモデルになった詩人のステラ・ディアスだった。

 アレハンドロは、たちまち、ステラに牽かれていく。そんな頃、アレハンドロは、親の期待した人生を拒否した従兄弟リカルドの自殺した姿を目撃する。アレハンドロとステラとの距離が遠ざかる。

 アレハンドロは、やがて有名な詩人となるエンリケ・リン(レアンドロ・ターブ)と出会う。「詩人は何者にも左右されない」と、アレハンドロとエンリケは語り合う。ところが、心やさしいアレハンドロは、エンリケに捨てられた女性と仲良くなってしまう。

 エンリケへの裏切りを悔いたアレハンドロは、サーカスの道化師になる。そこに、アレハンドロが老人となった姿(アレハンドロ・ホドロフスキー)で現れ、失意のアレハンドロを慰め、励ます。

 そんなアレハンドロのところに、ある事件で、悲しみにくれた両親がやってくる。詩人を志したアレハンドロは、いったい、どうなっていくのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「エンドレス・ポエトリー」
(C) 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE

2017年11月18日(土)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト

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