永遠のジャンゴ 【今週末見るべき映画】

2017年 11月 24日 08:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

 いつごろ見たかは忘れたが、ルイ・マル監督の「ルシアンの青春」という映画があった。第二次世界大戦さなかのフランス。ルシアンという若者と、ユダヤ人の少女フランスが、ナチス・ドイツとフランスのレジスタンスとの戦闘時に知り合い、結果、ルシアンとフランスは、スペインに逃避行する。美しく、悲しい映画だった。「マイナー・スウィング」、「雲」、「スウィング41」など、全編を彩る音楽が、ベルギー生まれのジプシー、ジャンゴ・ラインハルトのギターだった。


 さらに昔、まだ学生だったころ、東京のあちこちにあったジャズ喫茶に入りびたっていた。いちばん多く通った渋谷の店は、客がリクエストすると、輸入盤のレコードを聴かせてくれた。よく見かけるおじさんは、いつもジャンゴ・ラインハルトをリクエストした。ひとつひとつ、丁寧に刻まれたギターの音色が、もの悲しく、しかしスウィング感いっぱいで、聴き惚れていた。

 オランダのグループ、ローゼンバーグ・トリオの演奏する「ノーチェス・カリエンテス」(熱帯夜)というCDが好きである。まるで、ジャンゴ・ラインハルトを彷彿とするサウンドで、このCDは、スペインをテーマにした選曲だ。


 映画「永遠のジャンゴ」(ブロードメディア・スタジオ配給)は、このジャンゴ・ラインハルトの、絶頂期のパリ時代から、ナチスから逃れて、スイスに向かうまでを、巧妙なフィクションをまじえての映画だ。劇中で、ジャンゴ・ラインハルトの曲を演奏しているのが、ローゼンバーグ・トリオ。リード・ギターのストーシェロ・ローゼンバーグが、超絶技巧、切れのいい音色を聴かせる。

 映画の舞台は、ドイツ軍がパリを占領している1943年。ジャンゴは、ときめいているジプシー・ジャズのギタリストだ。演奏会には、多くのナチスの将校がやってきて、ドイツでの公演を、ジャンゴに依頼する。ジャンゴは、音楽ひとすじ、どの国とどの国が戦争していようと、自分には関係のないことと思っている。そこに、ジャンゴの愛人から、身の危険が迫っていることを知らされる。

 映画は、ギタリストとしてのジャンゴが、人間として、屈託のなさを振り切り、戦争の現実に目覚め、明らかに成長を遂げていく過程を描いていく。


 見せ場はたっぷり。ことに、ジャンゴたちの演奏シーンの迫力に注目されたい。史実では、テントの火事のせいで、ジャンゴの左手の指が3本ほど、マヒしている。だからこその奏法で、音のひとつひとつが、くっきり。演じたのは、「預言者」に出ていたレダ・カテブで、ジャンゴに似せた風貌だけでなく、ギターの指使いの細部まで、器用にこなす。


 全編に流れる、ロシア民謡の「黒い瞳」や、「雲」、「たそがれのメロディ」、「マイナー・スウィング」などのジャンゴの作った音楽もすばらしいが、一曲、ジャンゴの書いた未完のスコアが、完成された形で出てくる。名もなく死んでいったジプシーたちに捧げた「レクイエム」だ。完成させたのは、ウォーレン・エリスで、「母の身終い」や、「涙するまで、生きる」などの映画音楽を作曲している。パイプ・オルガンによる「レクイエム」は、圧巻そのもの。


 ジャンゴは、女性にもたいへんもてたらしい。映画では、セシル・ドゥ・フランスが、ジャンゴの愛人に扮し、重要な役割を果たす。最近では、「少女ファニーと運命の旅」で、やはり、ナチス・ドイツの手から少女たちを救う役を力演していた。

 監督は、エチエンヌ・コマール。プロデューサーとして、「屋根裏部屋のマリアたち」など、脚本家として、「大統領の料理人」、「チャップリンからの贈り物」などを手がけているだけあって、監督デビュー作ながら、手慣れた語り口をみせる。


 音楽家から、社会に目覚めたひとりの人間としてのジャンゴの変貌ぶりに、驚かれることと思う。もちろん、ジプシー音楽や、ジャズ・ギターの好きな人には、たまらない映画だろう。

●Story(あらすじ)

 1943年、フランスのアルデンヌ。林のなかに、ジプシーたちが集っている。盲目の男が、ギターを弾き、唄う。哀愁を帯びた演奏、歌声が響く。そこにドイツ兵が襲ってくる。

 1943年、ナチス・ドイツに占領されたフランスのパリ。ジプシー出身のジャズ・ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト(レダ・カレブ)は、演奏会の時間だというのに、セーヌ川で魚釣りをしている。母親のネグロス(ビンバン・ネグスタイン)や、兄たちの待つ楽屋に、やっとジャンゴがやってくる。演奏が始まる。ロシア民謡の「黒い瞳」だ。客席には、ジャンゴの評判を聞いたのか、おおぜいのドイツの将校がいる。そこに、パリに戻ってきたジャンゴの愛人、ルイーズ(セシル・ドゥ・フランス)が、コンサート会場に姿を見せる。

 ナチスの将校は、ジャンゴにドイツ公演の依頼をする。ジプシーのジャンゴにとっては、どこの国が戦争しようが、関係のない話。ジャンゴは、「ジプシーは戦争しない。おれは聴衆の聴きたい音楽を演奏するだけ」と考えている。

 ルイーズは、ドイツ軍の動きを察して、ジャンゴだけでなく、ジャンゴの母親や、妊娠中のジャンゴの妻ナギーヌ(ベアタ・パーリャ)に、スイスへの脱出を促す。

 やがて、事の重大さを悟ったジャンゴたちは、とりあえずスイス国境の近くのトノン=レ=バンに移り住む。

 ドイツ軍の勢いは、スイス国境にも及んでくる。当初、ジャンゴたちは、レマン湖を船で渡ってスイスへ逃れる作戦を立てていた。ところが、ジャンゴたちは、知り合ったレジスタンスのメンバーから、ある重要な依頼を受け、引き受けざるを得なくなる。

 はたして、ジャンゴたちは、ぶじ、スイスへ逃れることができるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「永遠のジャンゴ」
(C)2017 ARCHES FILMS – CURIOSA FILMS – MOANA FILMS – PATHE PRODUCTION - FRANCE 2 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA

2017年11月25日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
公式サイト

Related article

  • 今週末見るべき映画「ホース・マネー」
    今週末見るべき映画「ホース・マネー」
  • 今週末見るべき映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
    今週末見るべき映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
  • ムーンライト 【今週末見るべき映画】
    ムーンライト 【今週末見るべき映画】
  • 今週末見るべき映画「ヘイル、シーザー!」
    今週末見るべき映画「ヘイル、シーザー!」
  • 今週末見るべき映画「星の旅人たち」
    今週末見るべき映画「星の旅人たち」
  • 今週末見るべき映画「魔笛」
    今週末見るべき映画「魔笛」

Prev & Next

Ranking

  • 1
    フォトギャラリー:モレスキン「Detour」展
  • 2
    フォトギャラリー:第6世代目「新型ゴルフ」
  • 3
    今週末見るべき映画「マリア・カラス 伝説のオペラ座ライブ」
  • 4
    フォトギャラリー:ディーター・ラムス展
  • 5
    小型プレミアムオープン、BMW「120i カブリオレ」
  • 6
    フォトギャラリー:「DESIGN TOUCH Exhibition 夢を叶えるデザイン展」
  • 7
    フォトギャラリー:「ニスモ 370Z」
  • 8
    フォトギャラリー:新型フェアレディZ北米モデル「370Z」
  • 9
    フォトギャラリー:プレミアムコンパクト・クロスオーバー「XC60」
  • 10
    フォトギャラリー:Lexus L-finesse - crystallised wind

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加