ダンシング・ベートーヴェン 【今週末見るべき映画】

2017年 12月 22日 08:00 Category : Art

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 2014年の11月。モーリス・ベジャールが振り付けたベートーヴェンの「第9交響曲」が、NHKホールで上演された。ベジャール亡き後、モーリス・ベジャール・バレエ団を引き継いだジル・ロマンが芸術監督だ。ダンサー80人余、ソロ歌手、オーケストラ、コーラスをあわせて350人という、スケールの大きい舞台。モーリス・べジャール・バレエ団、東京バレエ団に、オーケストラは、ズービン・メータが指揮するイスラエル・フィルだ。行きたいと思ったが、チケットが高くて、手が出なかった。たしか、S席が39000円、A席が34000円、B席が29000円くらいだったと記憶している。いちばん安いE席でも8000円。


 ドキュメンタリー映画「ダンシング・ベートーヴェン」(シンカ配給)は、この公演が、どのようにして実現したかを、春夏秋冬と4つの季節を費やして、記録していく。

 ジル・ロマンの娘で女優でもあるマリヤ・ロマンがインタビュアーを務める。ジル・ロマンは、かつて、ベジャール亡き後、多くのプレッシャーをはねのけて、モーリス・ベジャール・バレエ団を存続させるための日々を綴った映画「ベジャール、そしてバレエはつづく」に出ていた。女性監督のアランチャ・アギーレが、「ベジャール、そしてバレエはつづく」に続いて、「ダンシング・ベートーヴェン」の監督を務める。


 もはや、ベジャールは、伝説ともいえる振り付け師だ。ストラヴィンスキーの「春の祭典」、ラヴェルの「ボレロ」を振り付けたことでつとに有名で、ベートーヴェンの「交響曲第9番」の「合唱付」に挑戦したのも当然だろう。

 2007年、べジャールは亡くなるが、ちょうど10年、その節目の公開となる。映画は、4つのパートに分かれる。「Ⅰ スイス ローザンヌ 冬」、「Ⅱ 東京 春」、「Ⅲ ローザンヌ 夏」、「Ⅳ 東京 秋」だ。


 冬のローザンヌ。女優のマリヤ・ロマンが、モーリス・ベジャール・バレエ団の芸術監督ジル・ロマンにインタビューする。マリヤの父であるジルが言う。「80人ものダンサーが手をつなぐんだ」。

 バレエ団の財団理事長が、テーマを語る。「人間同士の友愛、人種差別反対、多民族の共生」と。第2楽章の大役を与えられたカテリーナ・シャルキナと、大貫真幹の練習が続く。

 春の東京。評論家の三浦雅士が、ベジャールについて語る。「日本は、アジア思想の伝統を保存する冷蔵庫のようだ」とのベジャールの言葉を紹介する。さらに、「春の祭典」をはじめ、ベジャール振り付けのモチーフが円環だったことを述べる。東京バレエ団の、円環をかたどった群舞の練習が続く。

 夏のローザンヌ。カテリーナが妊娠し、子どもを産む決心をする。夫は、第4楽章で大役を踊るオスカー・シャコンだ。カテリーナは、ウクライナの出だが、オスカーは、コロンビア人で、先祖には黒人もいれば、インディオの血も混じり、スペイン人の血もひいている。オスカーは、2歳のときに父親が家を出ている。自分の子どもには、そんな思いはさせたくないと考えている。


 ジル・ロマンは、言う。「ダンスに差別はない。手をつないだ先が黒でも緑でも、関係ない」と。

 秋の東京。指揮者のズービン・メータが合唱練習の指揮をする。イスラエル・フィルの練習も大詰めを迎える。

 ベートーヴェンは、9つの交響曲を書いた。最後の交響曲第9番の第4楽章は、ソプラノ、アルト、テノール、バリトンの歌い手に、合唱がつくところから、「合唱付」あるいは「合唱」と呼ばれている。歌詞は、はじめの3行はベートーヴェン自身が書くが、あとは、シラーの詩「歓喜に寄す」に基づいている。「人類は兄弟」と高らかに唄われ、耳の聞こえなくなったベートーヴェンの音楽にあわせて、国籍、人種、肌の色は関係なく、80人ものダンサーが、手をつなぎ、踊る。「フロイデ シェイネル ゲッテル フンケン……」と合唱する。


 かつてベジャールは、ベートーヴェンの「第9」を封印した。2014年の東京公演は見れなかったが、いま、そのバックステージを映画で見ることができる。
 
 手をとりあう80人の群舞を見て、思う。武器はいざこざの抑止力になるかもしれないが、武器などを必要としない世界をこそ、人類は希求すべきだ、と。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ダンシング・ベートーヴェン」
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015 

2017年12月23日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
公式サイト

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