はじめてのおもてなし 【今週末見るべき映画】

2018年 1月 12日 08:00 Category : Art

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 笑う。とにかく笑う。だが、ただ笑うだけではない。ドイツにおける難民問題と、世界共通の家族のありようが問われている。「はじめてのおもてなし」(セテラ・インターナショナル配給)は、ナイジェリアからの難民青年と、青年を受け入れるドイツの裕福な家族の話である。

 難民の受け入れに寛容なドイツだが、すべてのドイツ人が寛容というわけではない。ドイツ人たちの難民をみる目には、偏見があり、差別がある。当然、そこから摩擦、誤解が生じる。単純に、笑ってばかりの映画ではない。
 ナイジェリアから、はるばるミュンヘンにたどり着いた青年ディアロは、難民の施設に入っている。裕福そうなハートマン一家が、ディアロを受け入れたことから、隠れていたハートマン家の家族の問題が、ことごとく露わになり、大騒動となる。


 ドイツにおける難民問題の実情が、あらわになる。同時に、一見、裕福そうにみえる家族の抱えるさまざまな問題が明るみにでる。映画は予想通り、「おもてなし」を受けるはずの難民青年が、さまざまな問題を抱えたドイツ人家族を「おもてなし」し、その関係を改善することになる。いわば立場が逆転する映画。

 さまざまなドイツ人の気質、心情が、きめこまかく描かれる。一見、進歩的な人が、いざ難民に 向き合うと、どうなるか。はなから、差別する人も多い。また、裕福だからといって、家族のありようは、決してしあわせとはいえない。一方、難民には、語るのも辛い過去があり、現実がある。また、ディアロのいくつかのセリフは、国による文化の相違をくっきり、物語る。ある国でタブーとすることが、べつの国ではタブーでもなく、常識なのだ。ディアロは、リヒャルトに「あなたは老人だ」とはっきり言う。リヒャルトには、その敬意が理解できない。

 また、ディアロは、妻アンゲリカに、夫リヒャルトに「敬意を示せ」といい、夫リヒャルトに、妻アンゲリカに「寄り添え」といった意味のことを言う。頭のなかでは分かっていても、態度に結びつかない夫婦への、強烈な一撃だろう。


 異文化の衝突は、映画「最高の花婿」でも詳しく描かれていた。裕福な家庭の4人の娘の結婚相手が、それぞれ、ユダヤ、イスラム、中国、コートジボワール。多くの笑いがあるのも当然だ。「はじめてのおもてなし」もまた、全編、笑いに満ちている。笑いだけではない。身の上を夫妻から聞かれても答えないディアロが、ハートマン夫妻の孫息子のバスティから依頼されて、唯一、過去を語るシーンがある。ここは圧巻、見どころである。


 アンゲリカ役は、1960年代、多くのアメリカ映画に出ていたセンタ・バーガーだ。グラマラスで妖艶な美女は、いまや、勝気な老女役。ディアロに扮したのは、コンゴのキンシャサ生まれ、ベルギー育ちのエリック・カボンゴ。もともとは映画プロデューサー、ミュージシャンで、ここでは、こころ優しい難民役を、控えめながら存在感たっぷりに演じる。


 よく練られた脚本を書き、監督したのは、サイモン・バーホーベン。これが日本公開作では2本目になると思うが、ひとつひとつのエピソードを、大きく積み上げていく手だれの演出ぶりは、見事。父親は、やはり映画監督のミヒャエル・バーホーベンで、母親は、なんとセンタ・バーガー。息子が母親を演出する。微笑ましい限り。

 ちなみに、プロデューサーは、傑作「善き人のためのソナタ」のクヴィリン・ベルク。新年早々、軽快なテンポで、笑って、笑って、また笑い、笑っているうちに心ふるえ、涙を誘い、また笑う。弱者に寄り添い、自らのありようを省みることを、さりげなく示唆 する。これはもう、大傑作。今年のベストテンを選ぶ、などという時期ではないし、選ぶつもりもないが、2018年、間違いなく、心に残る作品だ。

●Story(あらすじ)

 ドイツ、ミュンヘンの瀟洒な住宅地。ディアロ(エリック・カボンゴ)というナイジェリアからの難民が、施設に収容されている。ディアロは働きもので、施設のあちこちの掃除をすすんで引き受けている。

 裕福そうなハートマン家の妻アンゲリカ(センタ・バーガー)は、元校長をしたこともある教師だったが、いまはヒマをもてあましている。元同僚のハイケ(ウルリケ・クリーナー)が、難民たちにドイツ語を教えていることを知って、アンゲリカもなにか役に立ちたいと、難民施設に衣服を寄付したりし始める。

 夫のリヒャルト(ハイナー・ライターバッハ)は、大きな病院の外科医長で、院長から引退を勧められるが、「可能な限り働く」と宣言している。自らの老いを認めたくないリヒャルトは、友人の整形外科医サーシャ(ウーヴェ・オクセンクネヒト)から、若返りの美容整形を受けたり、サーシャとともに、クラブで呑んだりの日々を過ごしている。 

 一見、ハートマン家は、うまくいっているように見えるが、アンゲリカとリヒャルトの仲は、すでに冷え切っているようだ。夫妻には企業弁護士をしているフィリップ(フロリアン・ダーヴィト・フイッツ)という息子がいる。上海を行き来するモーレツ弁護士だから、家庭を顧みず、すでに離婚している。小学生で12歳の息子バスティを実家に預けて、「勉強しろ」の一点張りで、父親の役割はほとんどはたしていない。ヒップホップやゲームに夢中のバスティの成績は下がる一方だ。

 長女のゾフィー(パリーナ・ロジンスキ)は、31歳になるのに、将来の進むべき道がわからず、いまだに、心理学を学ぶ学生である。

 ひさしぶりに家族が揃う。アンゲリカが突然、切り出す。「難民をひとり、受け入れる」と。驚くリヒャルト。フィリップは、「素性が分からないのに」と難色を示す。「反対。議論は終わり」と宣言するリヒャルトに、「ここは私に家でもある」とアンゲリカは反論する。

 翌朝、少し反省したのか、リヒャルトはアンゲリカとともに、難民の施設に向かう。数人の難民と面会した夫妻は、家族を亡くしてひとりぼっちで、いま、亡命を申請しているというディアロを受け入れることにする。しぶしぶ承知したリヒャルトは、ストレスがたまったせいか、機嫌がよくない。勤務先の病院では、部下のタレク(エリヤス・エンバレク)に、診察の解釈をめぐって当り散らす。

 一方、アンゲリカは、自分の望みがかなったのか、ディアロにドイツ語を教えたり、ゲーテの「さすらい人の夜の歌」といった詩を読み聞かせたり、いっしょに庭の手入れなどをして、いきいきとしてくる。ハイケは、ディアロの歓迎パーティを開こうと画策する。

 歓迎パーティは、おおぜいの難民たちが参加し、警察がかけつけるほどの大騒ぎになる。さらに、ヒップホップ好きのバスティが、仲間といっしょにミュージックビデオを撮ろうとする。その手伝いをしたディアロが、ストリッパーを出演させた責任者と誤解されて、警察沙汰になったりする。

 ゾフィーにつきまとうストーカーらしき男がいる。ディアロは、ゾフィーに近寄ろうとするストーカーと、殴り合いの喧嘩をしてしまう。またしてもディアロは、警察のご厄介になる。

 トラブル、もめごとがハートマン家に連続する。夫妻の仲は、さらに険悪になり、ついに、リヒャルトは家を出て、サーシャの家に居候の身となる。なんども警察の厄介になったせいか、ディアロの亡命申請が却下される。

 ハートマン家に、さらにまた、大きな騒動が持ち上がる。もはや分裂、崩壊寸前のハートマン家はどうなるのだろうか。また、ディアロへの亡命申請却下には、意義申し立てを行い、審査結果は、裁判所での判断ということになる。はたしてその結果は……。(文・二井康雄)

<作品情報>
「はじめてのおもてなし」
(C)2016 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG / SENTANA FILMPRODUKTION GMBH / SEVENPICTURES

2018年1月13日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
公式サイト

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