ルイの9番目の人生 【今週末見るべき映画】

2018年 1月 19日 08:00 Category : Art

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 人間というものは、若かろうと老いていようと、「死にかかる」ということが一度や二度、あるかもしれない。幸い、まだ、死にかかった経験はないが、映画「ルイの9番目の人生」(松竹配給)は、生まれて以降、9年間で9回、死にかけた少年ルイのドラマだ。


 ルイの死にかけた9回目は、9歳になった誕生日。両親と出かけたピクニックで、断崖から海に転落、一度は死亡を宣告される。ところが、収容された遺体安置室で、奇跡的にも蘇生する。ただし、意識不明の昏睡状態である。なぜ、このようなことが起こるのか。いったい、ルイという少年は、何者なのか?


 原作のベストセラー小説「ルイの九番目の命」(ソフトバンク文庫・池田真紀子 訳)を、「イングリッシュ・ペイシェント」を監督したアンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックが注目し、映画化を企てる。アンソニー・ミンゲラは、映画化を果たせず、2008年に亡くなる。その意志を継いだのが、アンソニー・ミンゲラの息子、マックス・ミンゲラで、脚本を執筆し、製作する。原作者のリズ・ジェンセンは、マックス・ミンゲラの脚本を絶賛する。「小説の精神世界をしっかりと捉えながら、独自のアレンジを加えている」と。

 サスペンスたっぷりで、昏睡したルイの、それまでの出来事がフラッシュバックされていく。ルイの母ナタリーと父のピーター、ルイをかつて診察したことのある精神科医ペレーズ、昏睡状態のルイの主治医パスカル、ルイの事故を事件と疑う女性刑事ダルトン、ピーターの母など、眠り続けるルイの周辺にいる人たちが、どのような人物かが、少しずつ、明らかになっていく。


 かずかずの周到な伏線が張られ、ときにはファンタジー、ときにはホラー。そして、人間のさまざまな心理状態を、象徴的に視覚化していく。あざやかな展開に、引き込まれていく。

 ルイは、帝王切開で産まれる。ベビーベッドにシャンデリアが落ちてきて全身を骨折する。5歳で、コンセントにフォークを刺して感電する。毒クモやハチに刺される。8歳で、ひどい食中毒になったり、叫び続けて呼吸が止まるなど、何度も死に直面するたびに、一命をとりとめてきた。ルイは、9回目の誕生日に、崖から落ちる。意識不明の昏睡状態だが、死んではいない。


 設定が奇抜で巧み。治療のため、ルイの主治医が、ルイの精神世界に踏み込んでいく。昏睡状態のルイの心が語りかけることが、ラストの10分で示される。チラシにも「衝撃の心理サスペンス」とあるが、まさに衝撃的。そして、ルイと父ピーターの、おもわず震えるシーンが用意されている。


 映画の撮影時は10歳だったルイ役のエイダン・ロングワースは、美しさ、優しさ、残酷さを合わせ持ち、おとななみの分別ある言動を、きわめて自然に演じる。映画の成功は、作り手たちが、エイダン・ロングワースを見いだしたからだろう。ルイの美しい母親ナタリーを演じたのは、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「危険なメソッド」、「マップ・トゥ・ザ・スターズ」などに出ていたサラ・ドガン。ルイの主治医、パスカル役はジェイミー・ドーナンで、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」では、大富豪のクリスチャン・グレイを演じ、大ブレイクした。


 監督は、アレクサンドル・アジャ。その作品を初めて見たが、緩急自在にサスペンスを盛り上げ、観客を引き込む語り口は、なかなかの手腕とみた。血があふれたりの残酷なシーンは苦手だが、どんでん返しのある、こういった心理スリラーは、大好きなジャンル。アレクサンドル・アジャは、「ピラニア3D」を、6、7年ほど前に撮っているが、機会があれば、見てみたい。


 昏睡状態のルイが、過去の自らの真実を明らかにする。そして、思う。世にさまざまな愛がある。では、人を愛する心とはいったいどのような心なのだろうか、と。ルイが、意識を取り戻すよう、祈りながら。

●Story(あらすじ)

 サンフランシスコ。ルイ・ドラッグス(エイダン・ロングワース)という少年が、幼いころから、なんども死にかけた話をはじめる。すでに、8回も死にかけている。そして、ルイの9歳の誕生日。両親と出かけたピクニックで、ルイは、高い崖から海に転落し、病院に搬送される。ルイの母ナタリー(サラ・ガドン)は、半狂乱だ。ルイは、死亡を宣告され、遺体の安置室に入れられるが、奇跡的に蘇生する。ただし意識不明の昏睡状態である。

 「TED」に出演中の著名な小児精神科医のアラン・パスカル(ジェイミー・ドーナン)は、自らの夢遊体験を語っている。

 ルイの担当医として、パスカルが招かれる。

 地元の警察は、ルイの転落を事故ではなく、事件として見ているようだ。現場に居合わせたはずのルイの父ピーター(アーロン・ポール)が行方不明のままで、女性刑事のダルトン(モリー・パーカー)たちが、ピーターの捜索を進めている。どうやら、ダルトンたちは、ピーターを容疑者としてみているようだ。

 パスカルは、横たわったままのルイを見守るしかないナタリーに、いろいろと心遣いを示す。パスカルは、かつてルイがセラピーを受けていた精神科医ペレーズ(オリヴァー・プラット)を訪ね、ルイの治療のための独自の調査を進めていく。

 ルイのセラピーを続けるペレーズ医師は、ルイの両親に問題があるのではないかと考えている。これが、ナタリーの知るところとなり、ナタリーは、ルイのセラピーを中止させる。

 ペレーズの話からパスカルは、学校でのルイがいじめにあっていたこと、飼っているハムスターを「処分権」とやらでルイが殺したことなどを知る。

 新しい事実を知るうちに、パスカルは推理する。「ルイの両親は不仲で、ピーターはボクサーくずれの大酒呑み。父親の虐待があったのか」。「何度もルイが死にかかったのは、自傷行為からなのか」。

 パスカルは、ふしぎな夢をみるようになる。そして、ある日、ナタリーのもとに、「警告文」が届く。利き腕でない手で書かれた手紙の差出人は、昏睡しているはずのルイである。

 やがて、ルイを取り巻く人たちに、次々と、不思議な出来事が起こり始める。ルイの昏睡は、まだ、続いている。果たしてルイは、目覚めることができるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ルイの9番目の人生」
(C)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

2018年1月20日(土)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
公式サイト

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