デヴィッド・リンチ:アートライフ 【今週末見るべき映画】

2018年 1月 26日 08:00 Category : Art

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 デヴィッド・リンチ監督の映画は、すべて見たわけではない。だが、「イレイザーヘッド」、「エレファント・マン」、「砂の惑星」、「マルホランド・ドライブ」など、いくつかのリンチ作品を見て、このような想像力あふれた、自由な映画を撮るリンチとは、いったい、どのような人物なのか、気になっていた。


 タイミングよく、このほど、ドキュメンタリー映画「デヴィッド・リンチ:アートライフ」(アップリンク配給)を見せてもらった。

 リンチは、映画を撮るだけではない。絵を描き、写真を撮り、音楽を嗜む。いわゆるアート全般、多くの才能を持った人だ。

 さまざまな表現者たちの生まれ、育ちが、その作品に、大きな影響を与えるように、リンチもまた、自らの出自を告白する。生まれはモンタナ州のミズーリだが、各地を転々し、ワシントンの美術大学、ペンシルベニア美術アカデミーなどで学び、腰を落ち着けたのが、混沌としたフィラデルフィアの街の一角である。


 ハリウッドにある自宅兼アトリエで、リンチがインタビューに答える。「その頃の僕の世界はとても小さく、近所の数ブロックに全てがあった」。リンチにとってのフィラデルフィアは、「恐怖が垂れ込める意地の悪い街」だった。

 リンチの絵が紹介される。人か動物か、判然としない。多くの絵に、文字が書き込まれている。3、4年ほど前、渋谷で、リンチの撮った写真や、リトグラフ版画を見たが、これはおもしろかった。歪んだ顔の人物のリトグラフには、「Please Go Away from here」と書いてある。また、「Men Makes Crying Man」と題されたリトグラフには、宇宙人のような人物が、椅子に座って泣いている。これを作ったらしい男が、宇宙人のそばに立っている。マンガのような吹き出しのある作品は、「I go to my house」と書いてある。いずれもモノトーンで、観客の感性に語りかけ、訴えるかのような作品だった。

 映画は、リンチへのインタビューが大半を占める。リンチが家族と過ごした幼いころ。イメージが溢れるのに、作品に結実しない学生時代。後に、リンチの「マルホランド・ドライブ」の美術監督を担当した親友のジャック・フィスクとの出会いと友情。当時の妻ペギーの思い出などなど。


 絶えずタバコを吸い、コーヒーを飲みながら、リンチは語り続ける。「コーヒーを飲み、タバコを吸い、ひたすら絵を描き続けることだ」。

 現在という「時」は、つねに流れ続けている。だから、絵にしろ、音楽にしろ、映画にしろ、その創作のもとは、つねに過去にある。リンチは言う。「絵を描くとか、ある種のアイデアを追求しようとする時、そのアイデアを呼び出し彩るのは過去だ」と。そして、リンチは、常に、「物語」を考え続ける。


 リンチの描く、奇妙な絵が動きだす。それが、後の映画に発展していく。たとえば、「エレファント・マン」を見たとき、一見、グロテスクだが、とてつもなく美しく思った。奇形で、醜悪なエレファント・マンは、じつは賢者で、純粋な心の持ち主である。見た目と中味は違う。リンチは、外見だけですべて判断する馬鹿さ加減を、笑い飛ばす。つくづく、「美」は、見た目には存在しないと思う。「美」は、対象を見る人間のこころのうちにあるのではないか。


 リンチは、いま、孫ほども年齢の違う幼い娘と、アトリエで絵を描いている。そのシーンを見つめるだけで、束縛のないリンチの「自由」を感じる。

 リンチは、ここ数年、映画は撮っていない。現在が過去になった近未来に、必ずや、リンチは、さらに進化した、自由で、美しい映画を撮るはずである。娘とともに、リンチの描いた絵が、動き出すのだ。(文・二井康雄)

<作品情報>
「デヴィッド・リンチ:アートライフ」
(C)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016


2018年1月27日(土)、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト

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