ロープ/戦場の生命線 【今週末見るべき映画】

2018年 2月 8日 08:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

 世界じゅうのあちこちで紛争が続いている。人種、政治信条、宗教の違いによるだけではない。まことにくだらないことだが、紛争、争いのおかげで、お金儲けをする人たちがいる以上、絶えることはないだろう。


 映画「ロープ/戦場の生命線」(レスぺ配給)の舞台は、バルカン半島のとある村。ボスニア紛争は、すでに停戦協定が結ばれているのに、紛争地域に横たわる数々の矛盾が、明るみに出る。

 紛争地域で、飲み水を確保し続ける「国境なき水と衛生管理団」という、国際支援組織がある。紛争地域のある村で、生活用水の井戸に、死体が投げ込まれる。管理団は、死体を引き上げて、水を浄化する作業にとりかかろうとする。死体をひきあげようとするが、古くなったロープが切れてしまう。死体を早く引き上げないと、水の浄化が困難になる。作業は急を要する。ところが、村には、ロープがない。どうするか。


 停戦協定が結ばれているとはいえ、村のあちこちに地雷が埋まっている。国連のPKO部隊が駐留、管理しているが、「死体に触れてはいけない」と、規則をたてにとり、まったく融通がきかない。それでも。団員たちは、ロープを探し求めて、村周辺の山間の地を行く。


 一見、崇高な使命にみえるが、矛盾だらけの現地の複雑な事情を理解すればするほど、団員の心情が揺らいでいく。ほとほと、現地での活動に嫌気がさしてくることもある。それでもなお、崇高な使命を果たすべく、ロープを探し求める。

 管理団のリーダー格マンブルゥに扮するのが、ベニチオ・デル・トロ。ベテランの団員ビー役がティム・ロビンスと、豪華な顔合わせ。


 ジョークでもとばさないとやってられないと、ふたりが渡り合う。使命感に燃える新入りの女性団員ソフィー役が、メラニー・ティエリーで、水質浄化のプロで、その役割を心得ている。マンブルゥの元恋人で、団員の現地の視察にやってくる女性カティヤに、オルガ・キュリレンコ。辛い過去を振り払ったクールな視察官といった役どころを、きっちりと見せる。現地での通訳ダミール役のフェジャ・ストゥカンが、巧みなユーモアのなかに、悲劇の場所を冷静に生き抜いている難役を、さらりと演じて、とてもいい。

 紛争の国際援助にまつわる映画らしく、プエルトリコ、アメリカ、ウクライナ、フランス、サラエボと、国際色豊かなキャストだ。言葉は、基本的に英語だが、セルビア語、スペイン語、フランス語、ボスニア語などが飛び交う。
 原作になる小説がある。「国境なき医師団」に所属する女医でもあるパウラ・ファリアスの書いた「Dejarse llover」(「雨を降らせて」といったほどの意味)だ。この小説に惚れ込んだスペインのフェルナンド・レオン・デ・アラノアが、脚本を書き、監督を務める。


 戦争、戦闘を正面から描いているわけではない。戦いがなくても、あちこちに地雷があり、武装した子どもたちや、両親と離れて暮らす子どもがいる。ある日突然、敵と味方に分れる人たちがいる。国連の治安部隊が駐屯している。差別があり、憎しみが語られる。紛争は停戦となっても、日常の戦争は、いまなお、そして、これからも続いているのだ。

 一見、コメディタッチ。そこに、紛争地域の矛盾、不条理といった、深いテーマをひそませる。バルカン半島だけでのことではない。似たような、矛盾、不条理はいま、世界じゅうのあちこちに存在するだろう。


 映画のクライマックスで、1955年、ピート・シーガーが作った「花はどこへ行った」が、マレーネ・ディートリッヒによって唄われる。ナチス・ドイツの台頭を嫌って、アメリカに渡ったマレーネ・ディートリッヒである。ベトナム反戦のシンボルともいえる歌だ。花や少女、戦士たちは、どこへ行ったのか、と。

●Story(あらすじ)

 1995年、バルカン半島の山間部にある小さな村。住民たちの生活用水である井戸に、何者かが、太った男の死体を投げ入れる。

 紛争地域で、水を確保する活動をしている「国境なき水と衛生管理団」の職員マンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)が、井戸の死体をひきあげようとするが、使いふるされたせいか、ロープが切れてしまう。放置すればするほど、死体が腐っていくため、水の浄化が困難になる。ロープが必要になるが、村のどこにも、ない。

 停戦協定が結ばれたてはいたが、村のあちこちや周辺には、地雷が多く埋められていて、ロープを入手するために、移動するのも命がけである。

 管理団には、マンブルゥのほかに、ベテラン職員のビー(ティム・ロビンス)と、紛争地域に初めて派遣された、若い女性職員のソフィー(メラニー・ティエリー)、現地人の通訳、ダミール(フェジャ・ストゥカン)がいる。この4人が、2人1組になり、ロープを探し求めることになる。

 地雷が埋められたとおぼしき道には、牛の死体が横たわっている。なんとか、地雷を避けての活動だから、たいへんである。

 ある雑貨店では、ちゃんとロープを売っている。「外国人には、いっさい、売らない」という。国旗に使われているロープを見つけても、掲揚のため、入手できない。

 マンブルゥの車が、不良少年たちに襲われる。なんとか撃退したが、そこで、サッカーボールを奪われたニコラ(エルダー・レジドヴィック)という少年を保護することになる。

 国連の治安部隊が駐屯しているのに、規則をたてに、何の協力もしてくれない。事態はまったく進まない。そこに、管理団の本部から、現地の様子を視察するカティヤ(オルガ・キュリレンコ)という女性が派遣される。カティヤは、マンブルゥと以前つきあっていた女性で、マンブルゥの心中はおだやかでなくなる。

 マンブルゥたちは、住民たちに高値で水を売る武装部隊と出会う。実は、武装部隊が井戸に死体を投げ込んだ可能性があるのだが、管理団にはどうすることも出来ない。一刻も早く、ロープを見つけ、死体を引き上げ、水を浄化するしかない。

 やってきたカティヤを見たビーは、冗談半分でマンブルゥの背中を押すが、マンブルゥは、いまや、妻の待つ家に戻りたいと思い始めている。

 紛争のために、祖父の家に預けられているニコラは、マンブルゥたちが必死でロープを探していることに気付く。ニコラは、生まれ育った家にロープがあるという。2台の車に乗った5人は、ニコラの生家に向かう。

 はたして、マンブルゥたちは、ロープを手に入れることが出来るのか。また、井戸の死体は、どうなるのだろうか。(文・二井康雄)


<作品情報>
「ロープ/戦場の生命線」
(C)2015,REPOSADOPRODUCCIONESS.L.,MEDIAPRODUCCIÓNS.L.U.

2018年2月10日(土)、新宿武蔵野館、渋谷シネパレスほか全国ロードショー
公式サイト

Related article

  • フランス映画祭2017、見どころ
    フランス映画祭2017、見どころ
  • 今週末見るべき映画「ラスト・タンゴ」
    今週末見るべき映画「ラスト・タンゴ」
  • 今週末見るべき映画「グランド・ブダペスト・ホテル」
    今週末見るべき映画「グランド・ブダペスト・ホテル」
  • 今週末見るべき映画「ブンミおじさんの森」
    今週末見るべき映画「ブンミおじさんの森」
  • 今週末見るべき映画「コン・ティキ」
    今週末見るべき映画「コン・ティキ」
  • 今週末見るべき映画「郊遊<ピクニック>」
    今週末見るべき映画「郊遊<ピクニック>」

Prev & Next

Ranking

  • 1
    ミラノサローネとは一体何なのか?━世界最大のデザインイベント
  • 2
    フォトギャラリー:第6世代目「新型ゴルフ」
  • 3
    フォトギャラリー:Lexus L-finesse - crystallised wind
  • 4
    オーキッド(蘭)が香る、LOVEが重なり合う - カルティエ2011新作ジュエリー
  • 5
    驚きと思索の異空間へ、シャネル モバイルアート開幕
  • 6
    25日まで川上元美展、日本の巨匠を知る
  • 7
    原研哉とケンゾーパルファムのコラボレーション
  • 8
    常盤新平―遠いアメリカ―展
  • 9
    プジョーがブランド創業200周年、記念モデルも
  • 10
    永遠のCM修行僧、中島信也の絵コンテ集

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加