ぼくの名前はズッキーニ 【今週末見るべき映画】

2018年 2月 9日 08:00 Category : Art

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 いまの日本、子どもが少なくなっている。あたりまえだろう。若い人たちが結婚できない。経済的な事情が大きいと思う。かりに結婚できたとしても、子どもを作れない。経済的な事情が大きいと思う。理由は明らか。これまでの経済政策、少子化政策などが失敗しているからだろう。


 幼い子どもを育てながら、生活保護を受けている人が、低所得の人より収入が多いと、平気で受給額を減らす国である。子どもは、国家の明日を支える宝である。高い武器を買うお金があるなら、子どもを安心して産み、育てる社会になるよう、わたしたちの税金を使うべきだ・・・。そんな思いを抱きながら、スイス、フランス合作のアニメーション映画「ぼくの名前はズッキーニ」(ビターズ・エンド、ミラクルヴォイス配給)を見終えた。


 ストップモーションといって、ひとこまひとこま、登場人物の人形たちを、少しずつ動かして撮影していくアニメーションで、気が遠くなるほどの手間がかかるものと思う。

 イカールという9歳の少年のママは、パパに去られ、毎日、ビールばかり呑んでいる。ある日、ママが事故で死ぬ。イカールは、ママから「ズッキーニ」と呼ばれていて、この愛称が好きで、自分の名をズッキーニと思っている。親切な警官が、ズッキーニを孤児たちの施設に連れていく。施設には、いろんな少年少女がいる。両親がアルコールやドラッグ中毒で服役中だったり、移民で強制送還されたり、性的虐待を受けていたり、だれもが、特殊で複雑な事情をかかえている子どもたちばかり。


 ズッキーニは、はじめは、いじめの対象になるが、やがて、仲間の少年少女たちと、こころを通わせていく。

 いかにも悲惨な、暗いアニメーションかと思われるが、とんでもない。作り手たちの、優しさ、暖かさが、じっくりと伝わってくる。辛い境遇にもめげず、個性豊かな子どもたちは、元気いっぱい。よく遊び、よくしゃべり、よく喧嘩をする。そんな子どもたちを、警察官や施設のおとなたちが、暖かく見守る。


 ラストシーンでは、スイス生まれのシンガーソングライター、ソフィー・ハンガーの唄う「Le Vent nous portera」が流れる。哲学的な詩のあとに、ハスキーな声で、哀しみをたたえて、「……風が運び去ってくれる すべては消えゆくはず 風が私たちを運んでくれる」と唄う。深い余韻、感動がいや増す。

 ほどよくデフォルメされた、人形の子どもたちやおとなたちが、とても愛くるしく、ユーモラス。ささいな動きまでもが計算されているよう。しょぼんと立ち去る後ろ姿。大きな目から涙がひとしずく。見事、というほかない。


 おとな向けに書かれたジル・パリスの原作を脚色し、アニメーションに仕上げたのはクロード・バラスというアニメーション作家。これが、長編デビューになる。

 子どもたちのキャラクター設定には、「大人は判ってくれない」に主演したジャン・ピエール・レオのいろんなインタビューを参考にしたらしい。


 子どものころからして、過酷な人生である。傷ついた子どもたちに、まっとうな人生を指し示すのは、おとなたちの役割である。

 子どもを育てながら、恵まれない境遇にいる人たちは、世界じゅうに、多くいる。そういった人たちに、手をさしのべ、寄り添うような世の中が、まっとうなのではないか。ことに、日本の政治家には、必見のアニメーションだろう。

●Story(あらすじ)

 9歳の少年イカールは、凧あげと絵を描くのが大好きで、今日もひとりで絵を描いている。パパは、若い女性と仲良くなって、いまは家にいない。そのせいで、ママはいつもビールを呑み、怒ってばかり。

 イカールは、ママの呑んだビールの空き缶で、タワーを作って遊んでいる。ある日、ママが事故で死んでしまう。レイモンという警察官がやってくる。イカールは、ママがつけた「ズッキーニ」という名前が好きで、いまでは、自分の名前をズッキーニと思っている。こころ優しいレイモンは、ズッキーニを孤児の施設に連れていく。

 施設には、仲間がおおぜい。リーダー格のシモンは、言葉遣いはちと乱暴だが、根は優しい男の子。アメッドは、恐竜やロボットが好き。少しボーっとしていて、いつもオネショをしている。アメッドと仲良しのジュジュブは、大食いで、歯磨き粉まで食べてしまう。アリスは、無口の女の子。大きなメガネをかけたベアトリスは、みんなにいつも親切に接する。

 はじめ、ズッキーニは、シモンにからかわれたりのいじめにあう。ズッキーニは、パピーノ園長先生に、「ママのところに帰りたい」と言うが、「ママはお空に行ってしまったの」と、優しく諭される。ドアの外で、このやりとりを聞いているシモン。

 ズッキーニの境遇を知ったシモンは、ズッキーニに、自分の両親がドラッグ中毒だったこと、ほかの子どもたちの悲惨な事情などを話す。「みんな同じさ、誰にも愛されていない」と。シモンとズッキーニは、仲良くなっていく。

 カミーユという少女が、新しく施設に入ってくる。かすれた声で、どこかおとなびたカミーユを、みんなが注目する。ズッキーニは、カミーユを見た途端、胸が高鳴る。

 カミーユが施設に来た理由を知りたくなったシモンとズッキーニは、ある夜、園長室に忍び込み、カミーユの生い立ちを知る。カミーユは、両親を悲惨な出来事で亡くしている。やがて、ズッキーニは、カミーユとも仲良しになっていく。

 冬になる。子どもたちは、ポール先生と、施設のお姉さんのような存在のロージーに引率され、スキー合宿に行く。ポール先生の指導でディスコダンスをしたり、雪の中を遊んだりで、子どもたちは盛り上がる。

 夜、眠れないまま、ズッキーニとカミーユは、月明かりのなか、デートをする。カミーユは言う。「あなたに会えて、よかった」と。

 ある日、カミーユの叔母さんのイーダが施設にやってくる。イーダ叔母さんは、カミーユの扶養手当が目的で、カミーユを引き取るという。「同居するくらいなら死んだほうがまし」というカミーユに、ズッキーニは、「絶対行かせない」と励ます。

 そして、子どもたちは考えた末、施設からカミーユを脱出させようと画策するのだが……。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ぼくの名前はズッキーニ」
(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

2018年2月10日(土)、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
公式サイト

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