ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ 【今週末見るべき映画】

2018年 2月 22日 08:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

 パキスタンとアメリカの異文化が、真っ正面から衝突する。宗教はもとより、生活習慣が異なるから、当然だろう。「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」(ギャガ配給)は、この異文化の衝突に加えて、ラブストーリーに難病(ビッグ・シック)が絡んでくる。お涙ちょうだいのメロドラマかと思いきや、からっとした小気味のいいコメディで、異文化のギャップを、ほぼ真っ正面から描いて、笑わせてくれる。


 パキスタンからアメリカに移住したクメイルという、あまり売れていないコメディアンが、連日、スタンダップ・コメディのステージに出ている。ある日、ヤジをとばした若い女性で、エミリーというセラピスト志望の大学院生と知り合う。

 はじめは、なかば遊びのつもりが、ふたりは牽かれあうようになる。クメイルは良家の出で、両親は弁護士になってもらいたいと考えている。習慣で、結婚相手は、おなじパキスタン人で、見合いで見つけることが条件である。


 クメイルは、すでにアメリカ暮らしを受け入れていて、両親の考えとはほど遠くなっている。
 母親は、多くの見合い相手を家に招く。心優しいクメイルは、結婚相手は恋愛の結果と考えていて、相手の女性と会いこそすれ、決心は揺るがない。見合い写真は、「X-ファイル」と称する箱に納めたまま。

 この「X-ファイル」の存在が、エミリーの怒りを買い、ふたりの仲は決裂する。ところが、ある日、エミリーに原因不明の難病が発覚する。昏睡状態にしなければ、治療できないという。クメイルは、エミリーに寄り添うのだが……。


 よく出来た設定、こなれた脚本である。今年のアカデミー賞では、脚本賞にノミネートされている。フィクションではなく、実話に基づいている。実在のコメディアン、クメイル・ナンジアニが、自らの体験を基に脚本を書き、自らがクメイル役を演じる。エミリーのモデルが、クメイル・ナンジアニの妻、エミリー・V・ゴードンで、夫と共同で脚本を書き、製作総指揮を務める。

 もちろん、異文化のぶつかりがあるが、後半、とてもすてきなエピソードがいくつか添えられ、人間、捨てたものではないと思わせてくれる。


 いわば自作自演のクメイル・ナンジアニが、なかばアメリカナイズされてはいるが、おっとり、不器用で優しい青年を演じて過不足がない。そのセリフは、本職でもあるコメディアン志望の役だからか、シリアスなシーンでも、ついジョークを飛ばしてしまう。

 エミリー役は、自ら脚本を書き、製作総指揮を務め、主演した「ルビー・スパークス」のゾーイ・カザン。クメイルと過ごした真夜中、外にコーヒーを飲みに行きたいと言い出すシーンなどは、もう、「可愛い」と思ってしまう。


 エミリーのかなりリベラルな父親テリー役のレイ・ロマノも、もとはスタンダップ・コメディアン。「9・11をどう思うか」とクメイルに聞いたりするシーンは、見ていてひやひやする。また、父親としての立場で、クメイルに名セリフを吐く。「その人が生涯を共にしたい相手かどうかは、自分が浮気をしたときに気付く」と。

 エミリーの母親ベスは、いささか奔放、気強い役どころで、ホリー・ハンターが演じる。「ピアノ・レッスン」では、アカデミー賞の主演女優賞を受けているだけあって、堂々としたセリフ回しは、もはや貫禄である。

 監督は、マイケル・ショウォルター。この監督の映画は初めて見たが、ひと捻り、ふた捻りもあるコメディを、軽快そのもので、手堅くまとめた手腕が光る。


 映画の好きな女友達の夫はアメリカ人で、兄嫁は中国人である。摩擦、衝突はしょっちゅうだそうだ。何年も暮らすうち、主張するだけではうまくいかないことは、お互い、分かっているようだ。

 人種や宗教、文化の違いは、現前と存在する。それでもなお、である。恋愛だけではない、人生、夢と希望は持ち続けること。人生、どこかで、「大いなる目ざめ」があると信じるしかない。

●Story(あらすじ)

 パキスタンから移住、シカゴに住むコメディアン志望の青年クメイル(クメイル・ナンジアニ)は、今日もコメディのライブハウスで、あまり受けないネタを話している。「僕の故郷ではクリケットが人気。野球のピリ辛版ってところさ」。若い女性から、ヤジが飛ぶ。

 恵まれた家庭なのに、クメイルはルームシェアながら、実家から離れて暮らしている。コメディアンでは食べていけないクメイルは、ウェブの配車サービスの運転手をしながらのコメディアン修行である。

 その日、クメイルは、ヤジをとばした若い女性エミリー(ゾーイ・カザン)と知り合い、部屋に連れて帰る。お気に入りのゾンビ映画を見ながら、ふたりは意気投合、デートを重ねていく。

 将来、クメイルには弁護士になってほしいと願う両親は、厳格なイスラム教徒で、パキスタン人との見合い結婚しか認めない。母親は、偶然を装って、お見合いの相手を家に招き、その日は、クメイルにも実家に戻るよういいつける。母親は、クメイルに言う。「あなたのX-ファイルに、お見合い写真を保存しておくように」と。

 いつしか、クメイルの「X-ファイル」には、お見合いの写真が増えていく。クメイルは、こんな家族のことを、エミリーには内緒にしたままにしている。

 長くアメリカで育ったクメイルは、イスラムの祈りはしない、見合い結婚などはしないと、すっかりアメリカナイズされている。それでも家族思いのクメイルは、その都度、実家に戻り、若いパキスタン女性と顔を合わせている。

 クメイルは、エミリーから、父テリー(レイ・ロマノ)と母ベス(ホリー・ハンター)とのランチに誘われる。いまや、エミリーのクメイルへの思いは募るばかりだが、ふだんのジョークまじりに、「連続して2日以上は会わない」と言って、クメイルはランチの誘いを断ってしまう。

 ある日、クメイルの実家にいたエミリーは、たまたま、クメイルの「Xーファイル」にあったたくさんのお見合いの写真を見つける。エミリーは、「5ヵ月間も騙されていた」と激怒する。「私といっしょの未来を想像できるの?」と聞かれて、つい「分からない」と答えるクメイル。

 ある日、クメイルのところに、エミリーの友人から電話が入る。エミリーが急病で倒れたので、付き添ってほしいとのこと。クメイルは、あわてて病院にかけつける。エミリーは、原因不明の感染症で、すぐに昏睡状態にしないと、命にかかわるという。ついては、家族の同意が要るが、その場に、エミリーの両親はいない。やむなく、クメイルは、同意書にサインし、エミリーの両親には電話で症状を伝える。

 翌朝、エミリーの両親が病院に駆けつけてくる。エミリーから、クメイルと別れるまでの経緯を聞いていたテリーとベスは、クメイルに冷たい態度を示す。ことにベスは、「エミリーをこんなにしたのはあなたの責任よ」とまで言い出す始末。

 それでもリベラルなテリーとベスは、やがてクメイルの立場を理解しようとする。クメイルもまた、テリーやベスの態度に、心を開いていく。3人の願いは、エミリーが昏睡から醒めることだが、日に日に、エミリーの病状が悪くなっていく。果たして……。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」
(C)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

2018年2月23日(金)、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
公式サイト

Related article

  • 今週末見るべき映画「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」
    今週末見るべき映画「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」
  • 「第30回東京国際映画祭」閉幕ー東京グランプリは「グレイン」に
    「第30回東京国際映画祭」閉幕ー東京グランプリは「グレイン」に
  • フランス映画祭2008、今年も開催!
    フランス映画祭2008、今年も開催!
  • フランス映画祭2013~フレンチシネマに恋する4日間~
    フランス映画祭2013~フレンチシネマに恋する4日間~
  • わたしは、ダニエル・ブレイク 【今週末見るべき映画】
    わたしは、ダニエル・ブレイク 【今週末見るべき映画】
  • 今週末見るべき映画「アニエスの浜辺」
    今週末見るべき映画「アニエスの浜辺」

Prev & Next

Ranking

  • 1
    ミナ ペルホネン15周年記念展のテーマは「進行中」
  • 2
    ジャズ名盤講座第2回「ブルーノート~4000番台編」ビギナー向け15選!マスター向け23選!
  • 3
    世界初公開のカチナ!「倉俣史朗とエットレ・ソットサス」
  • 4
    パリの街角vol.8『ユリスとジョン with シンスケ』
  • 5
    第17回文化庁メディア芸術祭開幕―今年の見どころを速報!
  • 6
    世界の「BRITA」から、初のひし形浄水器
  • 7
    ミラノサローネ2010、次世代照明も見えた
  • 8
    デザインタイドトーキョー メイン会場レポート
  • 9
    深夜までおいしい蕎麦が味わえる店「銀座 真田」
  • 10
    日本映画の巨匠「木下惠介生誕100年祭」ラインナップ発表!凱旋上映も

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加