心と体と 【今週末見るべき映画】

2018年 4月 13日 08:00 Category : Art

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 映画作家の持つ想像力が全開する。ドラマの設定が、奇想天外。ハンガリー映画「心と体と」(サンリス配給)だ。


 舞台は、ハンガリーのブダペスト郊外にある食肉処理場。人つきあいの苦手な、マーリアという若い女性が、品質検査の代理職員として赴任してくる。

 マーリアは、黙々と検査の仕事をこなすが、同僚とは、なかなか打ち解けない。片手の不自由なエンドレという上司がいる。エンドレもまた、不器用な人生を送ってきたようで、自分と似たような性格のマーリアに興味を示すが、ふたりの会話はうまくかみ合わない。


 ところが、ある事件がきっかけで、ふたりは、同じような夢を見ていることが判明する。雪の降るなか、2匹の鹿が、戯れている夢だ。さて、ふたりの関係は、どうなるのか。夢のなかの鹿たちのように、現実の男女は、寄り添うことができるのだろうか。

 映画の展開では、マーリアとエンドレの日常が、少しずつ明らかになっていく。病気といえるほどではないと思うが、マーリアは、いささか自閉症気味。また、場の空気を読めない、一種の発達障害でもある。


 エンドレは、すでに初老で、話し相手は、同僚の人事部長くらい。エンドレもまた、世渡りでは不器用な人物のようである。

 同じような鹿の夢を見ていることが判明して以来、ドラマは急展開となる。


 このような想像力あふれる脚本を書き、監督したのは、イルディコー・エニェディという女性である。現実と夢の狭間で、初老のエンドレも、まだ若いマーリアも、ともかく、いまの現実から一歩、不器用ながらも、未来に踏みだそうとする。

 マーリアが、愛についての音楽CDを買おうとする。店員の勧めで購入して聴くのは、イギリスのシンガー・ソング・ライター、ローラ・マーリングの「ホワット・ヒー・ロート」である。まるで、マーリアの心情を言い当てたような歌詞だ。静謐そのもの、すてきな曲である。


 マーリアを演じたのは、アレクサンドラ・ボルベーイ。初めて見る女優さんだが、ドラマの進行にあわせて、少しずつ若くなっていくようで、これも計算した上での演技だろう。エンドレ役はゲーザ・モルチャーニ。俳優ではなく、本職は翻訳家、編集者である。存在感たっぷりで、滋味あふれる芝居をみせる。


 昨年のベルリン国際映画祭の最高賞である金熊賞を受賞。また、ハンガリー代表として、今年のアカデミー賞の外国語映画賞では、受賞こそ逃したが、ノミネート5作品の一本である。

 「心と体と」。うまいタイトルと思う。登場人物の見た目と現実に注目されたい。人は、見た目だけでは、その心は見えないのだから。

●Story(あらすじ)

 雪の降る森のなか、鹿が二頭、見つめあっている。

 ハンガリーのブダペスト郊外にある食肉処理場。多くの牛がいる。ここに、代理の検査員としてマーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)という若い女性が赴任してくる。

 食堂で、左腕の不自由な財務部長のエンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)が、マーリアが食べようとしているメニューを見て、声をかける。「スイバですか。食堂で一番ましなメニューです。ウリか他の煮込み野菜を頼むことが多い」と。マーリアは、「腕が不自由だから、食べやすいんですね」と、ズケズケと答える。

 マーリアは、ひとり暮らし。テーブルに落ちたパンくずも気になるくらいの潔癖さだ。エンドレも、かつては家庭を持っていたが、いまは気ままなひとり暮らしである。

 森のなかに、鹿が二頭いる。

 牛肉のランクを決めるための検査がマーリアの仕事だ。検査室は暗い。マーリアは、平気で、黙々と検査を続ける。マーリアは、規格通りに等級を決めていく。マーリアの検査結果は、ほんのわずか、脂質が多いだけで、すべてBランクだ。

 雪のなか、二頭の鹿がいる。

 あまり同僚と口をきかないマーリアを、新人の若者が、ロボットのふりをして、「検査してください」とからかう。エンドレは、その様子を二階の部屋から見ている。

 雪のなか、二頭の鹿がいる。

 ある日、警察の捜査が入る。処理場が保管している牛の交尾薬がなくなっている。エンドレは、すみやかに解決をと警察に求める。警察は、処理場が2ヶ月先に予定しているメンタル検診をすぐに実施するよう、エンドレに指示する。

 職員全員のメンタル検診が始まる。検診は、管理職から一般の職員まで、全員が対象となる。精神分析医は、セクシーな若い女性である。エンドレとマーリアは、同じ夢を見ていることが判明する。ふたりは、夢のなかで、鹿として出会っているのだ。

 驚いた精神分析医は、ふたりを呼び出し、エンドレの見た夢について語ったテープを聞かせる。「悪ふざけ?」と精神分析医は怒り出す。

 これがきっかけで、マーリアとエンドレの仲が、ぎこちないながらも、接近していく。夢の世界に、現実の世界が近づきつつあるようになるのだが……。(文・二井康雄)

<作品情報>
「心と体と」
(C) INFORG - M&M FILM

2018年4月14日(土)より新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
公式サイト

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