さすらいのレコード・コレクター~10セントの宝物【今週末見るべき映画】

2018年 4月 20日 08:00 Category : Art

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 「銭形平次 捕物控」でおなじみの野村胡堂は、野村あらえびすの名で、多くの音楽評論を書き、クラシック音楽のSPレコードの大コレクターであった。その数1万3000枚という。

 知人で、毎年のようにブエノスアイレスに出かけていた男性がいる。好きなアルゼンチン・タンゴのSPレコードを、あちこちで買い集める。日本で編集して、そのコレクションをLPレコードとCDに復刻している。

 コレクターというほどではないが、かつて、歌謡曲と分類される日本の流行歌のシングル盤を買い集めていた。昭和30年代のはじめ、同じ流行歌が、78回転のSPレコードと、45回転のドーナツ盤と呼んでいたレコードが、同時に発売されていた。買い集めたのは、このころから、ドーナツ盤がCDに取って代わられるころまで、新品のレコードではなく、ほとんどが中古のレコードである。それも、ヒットした曲ではなく、ラジオやテレビで耳にして、いいなあと思った曲ばかり。ざっと6000枚ほど。引っ越しで、すべて処分した。


 レコード・コレクターには、いろんな人がいるが、ドキュメンタリー映画「さすらいのレコード・コレクター~10セントの宝物」(スリーピン配給)を見て、驚いた。アメリカでSPレコードが作られ始めたころから、フォークやブルース、ゴスペル、ブルーグラスをはじめとするカントリー音楽などのSPレコードを買い集めた男がいる。その数2万5000枚、という。


 1936年、メリーランド州生まれのジョー・バザードという男で、単に収集しているだけではない。アメリカの古い音楽が、とにもかくにも、大好きなのだ。自宅の地下が収納庫で、SPレコードを聴く。葉巻をくゆらせ、体は音楽に合わせてスイングする。とっても、楽しそう。聴くだけではない。自らのコレクションをラジオで放送までする。

 映画は、ジョーのDJさながら、とっかえひっかえ、いろんなレコードに聴き入る様子が活写される。すでに47、8年間、アメリカ全土を旅し、古いレコードを探し求めている。


 ライターのエディー・ディーンが、ジョーについて語る。「大音響と葉巻の煙のなかで、体を揺すってる」と。

 ジョーの娘、スザンナ・アンダーソンが登場する。「父は16歳からレコードを求めて、南部へ行った」と。ジョーのコレクションは、半端ではない。当時、10セントで売っていたSPレコードを、2、3ドルで引き取る。週末だけで、4、500枚、買ったこともある。


 ある黒人の家で、パラマウント・レーベルのレコードを見つける。チャーリー・パットンの「イット・ウォント・ビー・ロング」だ。「聴いていると、うれしくなる」と言うジョーは、エア・ギターのふりをする。

 ジョーの、亡くなった妻は、ブルーグラスの大ファンで、LPレコードで数千枚ものコレクションを残している。スザンナは回想する。「家ではロックンロールは禁止。親への反抗でジョン・レノンのレコードを買ったが、フリスビーになった」と苦笑い。


 ジョーは、DJよろしく、ルイス・ブラザースの「ブル・アット・ザ・ワゴン」を紹介する。1929年、テキサス州エル・パソでの録音、と詳しい。

 ジョーは推測する。「1931年から33年にかけて、すべての音楽に変革が訪れた」と。カントリー、ブルース、ジャズも衰退する。衰退直前のビリー・バンクス楽団の「ビューグル・コール・ラグ」を聴くジョー。このレコードの仕入れ値は25セント。お買い得だ。エア・ベースのふりをするジョーは、ご機嫌そのもの。


 ジョーの友人で、ブルース・ギタリストのポール・ジェレマイアが訪ねてくる。ふたりで、後世に音楽が伝わったのはレコードのおかげと、喜び合う。

 オープン・リールから、クラレンス・アシュリーの声と、「クックー・バード」が流れてくる。
ジョーは思う。「音楽は時が経てば、甦ると思いたい」。

 地元紙のインタビューに答えるジョー。好きなレコードは、との問いに「ジミー・ロジャース」と即答する。すぐに、「スリープ・ベイビー・スリープ」のレコードをかける。


 そのほか、ジョーの好きな曲が、ズラリと出てくる。ジョーが、「棺の中に持っていきたい」というレコードが、ブラック・パテ・レーベルの、ロング・クリープ・リード&パパ・ハーヴェイ・ハルの「オリジナル・スタック・オー・リー・ブルース」だ。

 新聞に記事が出る。レコードを売りたい、との電話が入る。ジョーは、期待に胸をはずませて、車で出かけていく。


 お分かりのように、ジョーは、単なるコレクターでもマニアでもない。アメリカの古い音楽が大好きな、ふつうの老人である。

 映画は、イギリスからオーストラリアに移住したエドワード・ギランが、2003年に撮ったドキュメンタリーだ。古い映画だけれど、1920年代、30年代のアメリカ音楽の魅力が、しっかりと伝わってきて、まるで古さを感じない。


 ジョーの聴く音楽は、後世に大きな影響を与えた音楽である。多くの著名なミュージシャンが、この時代のアメリカ音楽を、自身のルーツにしているはずである。  

 決して、色あせることのない音楽に魅せられ、その音楽に人生を捧げようとする男の、見事な生き方。(文・二井康雄)

<作品情報>
「さすらいのレコード・コレクター~10セントの宝物」
(C)Cube Media 2003

2018年4月20日(土)、新宿K's cinemanほか全国ロードショー
公式サイト

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