君の名前で僕を呼んで 【今週末見るべき映画】

2018年 4月 26日 08:00 Category : Art

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 みずみずしく、とびきりの美しい映画だ。舞台は、1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳と24歳の青年同士が知り合い、恋に落ちる。主役ふたりの美しさ。会話の美しさ。風景の美しさ。使われている音楽の美しさ。


 「君の名前で僕を呼んで」(ファントム・フィルム配給)は、日本語のタイトルまで、美しい。

 17歳のエリオに扮するのは、ティモシー・シャラメである。24歳のオリヴァーに扮するのは、アーミー・ハマーである。ふたりとも、実年齢よりも若い設定の役を、まるで古代ギリシャの彫刻のような端正な美しさで、演じきる。


 人と人が知り合い、小さな興味から、また、ささいなことから、その関係が、大きく膨らむことがある。まだ若いふたりの青年の、さまざまな感情が、きちんと盛り込まれている。ふと興味を持つ。驚く。憧れる。喜ぶ。嫉妬する。焦る。悲しむ。戸惑う。悩む。失う……。


 原作がある。エジプト生まれの作家、アンドレ・アシマンが2007年に書いた、ほぼ自伝的な小説だ。これを、ジェームズ・アイヴォリーが脚色する。「眺めのいい部屋」、「モーリス」、「ハワーズ・エンド」、「日の名残り」などで、人間の微妙な心情を、削ぎ落としたセリフと、あざやかな映像で提出した人である。1928年生まれだから、もう90歳になろうかという世代であるが、その脚本のみずみずしさは、実年齢とはまったく関係がない。本作でも、セリフの美しさが際だっている。今年のアカデミー賞で、「君の名前で僕を呼んで」は、作品賞、主演男優賞(ティモシー・シャラメ)、作曲賞(スフィアン・スティーヴンス「ミステリー・オブ・ラブ」)、脚色賞の4部門にノミネートされ、脚色賞を受けている。当然だろう。


 バイセクシュアルで、ゲイの若者同士のひと夏の恋物語、といってしまえば、身も蓋もない。エリオの自慰シーンなどは、微笑ましいほど。ドキリとする「絡み」もあるが、とりたてて、映画の美しさを損ねるものではない。

 ともかく、映画そのものすべてが美しい。この美の世界に身を置き、映画の時間の心地よさを、じっくりと堪能してほしい。

 特筆すべきは、添えられた音楽の美しさ。ジョン・アダムスのピアノ曲「ハレルヤ・ジャンクション」の第1楽章は、古代ギリシャ、ローマの彫刻を彷彿するような音楽だ。そのほか、坂本龍一の「M.A.Y. in the Backyard」、「Germination」。エリック・サティの「官僚的なソナチネ」。バッハのカンタータ「目覚めよと呼ぶ声あり」。ラヴェルの組曲「鐘」より、画家ポール・ソルドに捧げられた第3曲の「海原の小舟」。同じラヴェルの組曲「マ・メール・ロア」の第5曲「妖精の園」など。


 また、映画のためにスフィアン・スティーヴンスが「ミステリー・オブ・ラブ」、「ヴィジョンズ・オブ・ギデオン」などを書いている。さらに映画の設定が80年代ということもあって、ザ・サイケデリック・ファーズの「ラブ・マイ・ウェイ」が引用される。

 色彩あざやか、濃淡がくっきり。映像美にあふれている。上半身、裸の多い若者ふたりの容姿を追うカメラの構図が、なんとも官能的。タイで、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の「世紀の光」、「ブンミおじさんの森」、「光りの墓」などを撮影しているサヨムプー・ムックディプロームの撮影になる。カメラの動きにも、ぜひ注目されたい。


 エリオは、何かと難しい世代にさしかかっている。両親の対応が、息子への冷静な思いやりにあふれて、すばらしい。母のアネラ役のアミラ・カサールが、エリオに古いフランスの小説を読んでやる。その内容が、エリオの胸に深く、残る。父親のパールマン教授を演じたマイケル・スタールバーグが、映画の後半、エリオに言うセリフがある。人生の真実をほのめかし、心ふるえる。


 このような、「美しい」映画を撮ったのは、「ミラノ、愛に生きる」、「胸騒ぎのシチリア」などを撮ったルカ・グァダニーノである。ある年の夏の太陽は、二度と戻ってこない。だからこその美しさ。

●Story(あらすじ)
 エリオ(ティモシー・シャラメ)は17歳。毎年、夏は、両親とともに、北イタリアの避暑地にあるヴィラで過ごす。父親のパールマン(マイケル・スタールバーグ)は、アメリカの大学教授で、古代ギリシャ・ローマの美術史を教えている。母親アネラ(アミラ・カサール)は翻訳家である。アネラが相続したヴィラは、古い建物だが、広くて、快適だ。

 ヴィラでは、英語だけでなく、イタリア語、フランス語が飛び交う。エリオは語学に堪能で、クラシック音楽の編曲をしたり、ピアノやギターも得意だ。エリオのガールフレンドは、フランスの少女マルシア(エステール・ガレル)で、いつもヴィラに遊びに来ている。

 毎年、教授の教え子がひとり、研究の手伝いをかねて、ヴィラにやってくる。今年は、容姿端麗なオリヴァー(アーミー・ハマー)という大学院生だ。快活で奔放、自信満々そうなオリヴァーを見て、エリオの第一印象は、あまりよろしくない。

 オリヴァーの使う部屋は、もともとエリオの部屋で、オリヴァーの滞在する間、エリオは、隣の部屋を使うことになる。エリオがオリヴァーを部屋に案内するが、長旅の疲れからか、オリヴァーは、すぐにベッドに横になる。

 エリオを訪ねて、マルシアとキアラ(ヴィクトワール・デュボア)がやってくる。みんなはバレーボールで遊ぶ。ふと、オリヴァーの手が、エリオの肩に触れる。

 オリヴァーは、別れ際に、よく「後で」と口にする。エリオは、そんなオリヴァーの物言いが、なんとなく横柄そうで、気に入らない。

 そんななか、オリヴァーは、エリオがギターで弾いていたバッハのカプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」を聴く。エリオは、オリヴァーのアンコールに応えたときには、まったく別のアレンジで、ピアノを弾く。オリヴァーは、そんなエリオに見入っている。

 夜、みんなは、近くの店で踊る。オリヴァーはキアラと、エリオはマルシアと踊っている。エリオは、オリヴァーへの対抗意識もあるが、どこか憧れの気持ちも芽生え始めている。

 エリオとオリヴァーは、プールや海で泳いだり、自転車で町まで買い物に出かける。さりげない会話が続くなか、ふと、エリオはオリヴァーへの想いを伝えてしまう。オリヴァーは、年上らしく、エリオをたしなめる。

 胸騒ぎのエリオは、マルシアと時間を共有しても、なにか落ち着かない。思いあまったエリオは、オリヴァーに手紙を書く。

 エリオの机の上に、オリヴァーからの返事が届く。「大人になれ。夜、会おう」と。

 やがて、エリオとオリヴァーに大きな転機が訪れる。オリヴァーが、アメリカに戻る日が近づいてくる。

 オリヴァーはエリオに囁く。「君の名前で僕を呼んで。僕は僕の名前で君を呼ぶ」と。やがて、夏は終わりを告げようとしている。(文・二井康雄)

<作品情報>
「君の名前で僕を呼んで」
(C)Frenesy, La Cinefacture

2018年4月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
公式サイト

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