ザ・スクエア 思いやりの聖域 【今週末見るべき映画】

2018年 4月 26日 08:00 Category : Art

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 「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(トランスフォーマー配給)は、広がる経済格差、世間の無関心、メディアの暴走などなど、「いま」という時代への、痛烈な皮肉と鋭い風刺にあふれている。露悪なまでの映像表現が連続して、見る側の不安をあおるかのよう。スペインの映画監督、ペドロ・アルモドバルが審査委員長を務めた昨年のカンヌ国際映画祭で、みごとパルムドールを受けている。


 監督は、「フレンチアルプスで起きたこと」を撮ったスウェーデンのリューベン・オストルンドである。「フレンチアルプスで起きたこと」では、雪崩を前にして、家族を無視した夫の行動が家族の崩壊を招いていく過程をあざやかに提示した。

 新作「ザ・スクエア 思いやりの聖域」の主人公は、現代アートのキュレーター、クリスティアン。「ザ・スクエア」と名付けた作品を展示する。「世の中をよりよくするための展示」と称して、美術館の玄関に、約4メートル四方の正方形のエリアを作る。「この正方形の中では誰もが平等で、助け合うのが決まり」などと説明をつける。現実には、美術館の周辺には、物乞いやホームレスがいるのだが。


 キュレーターであるクリスティアンの、世界を見る目は、傲慢で、上から目線。偽善的ですらある。現代アート「ザ・スクエア」のテーマは、世界への思いやりであり、格差への問題提起かもしれないが、クリスティアンの一連の行動は、このテーマと遙かに隔たっている。むしろ、クリスティアンの存在そのものが、格差社会の象徴ともいえる。


 PR会社に、展示の宣伝を依頼する。正攻法ではなく、はじめから炎上を目的にした、ある「映像」を採用する。それは、「思いやり」とはまったく異なる刺激的な映像で、どの新聞も大きく批判記事を書く。

 日本で、官僚によるセクハラが問題になっている。する側には、まったく意識がない。「ザ・スクエア」という展示でも、差別が存在しないことになっている。クリスティアンたちは、これをアートとして提示することが差別だと気がつかない。


 クリスティアンは、スマホと財布を無くす。これを取り返すべく、ある行動に出る。終始、クリスティアンの心情は差別に満ち、上から目線である。

 美術館の主催で、金持ち相手の晩餐会が開かれる。余興に、展示の映像でも長々と写し出されていた、サルのような男が登場する。ちょっとしたパフォーマンスが、エスカレートしてくる。はじめは冷静だった客は、サル男のあまりにものしつこさに、やがてその本性を現すようになる。

 いまの日本がそうであるように、世の中というものは、ほんのささいなことから、全体が綻びて、取り返しがつかなくなることが多い。日本のいまの宰相や、宰相を取り巻く人たちが、この映画を見て、どう思われるだろうか。ぜひ、伺ってみたいものだ。


 誰しも、多かれ少なかれ、クリスティアンのような人物の内面を持ち合わせていると思われる。それが、形になるか、内面に秘めたままなのか、の違いだけだろう。クリスティアンの行動を笑うことは簡単だが、映画は、だから監督のリューベン・オストルンドは、観客を挑発し、多くを問いかけてくる。いまや、ネットのほんの少しの映像が、世界的なテロに直結する時代であり、でっちあげの映像が世界的に流布する時代でもある。


 映画を見て思う。「平等」や「思いやり」は、小さな正方形のなかだけに存在するのではない。チアダンスのように、寄り添い、支えあうものだろう、と。


 劇中、ヨーヨー・マのチェロとボビー・マクファーリンのボーカルで、バッハの平均率クラヴィーア曲集を伴奏に、グノーが完成させた「アベ・マリア」が流れる。また、バッハの管弦楽組曲第3番からの「G線上のアリア」が、スウィングル・シンガーズのコーラスで唄われる。音響デザインは、「フレンチアルプスで起きたこと」で、ヴィヴァルディの「四季」から「夏」を効果的に引用したアンデシュ・フランクである。「思いやり」の欠如した世界への、せめてもの「祈り」だろう。

●Story(あらすじ)

 スウェーデンのコペンハーゲン。クリスティアン(クレス・バング)は、現代アートのXーロイヤル美術館のキュレーターで、多忙な毎日のようだ。今日も、アン(エリザベス・モス)という記者のインタビューに答えている。「美術館にとって一番の課題は」との問いに、「お金かな」と答える。

 クリスティアンは、離婚しているが、まだ幼い娘をふたり抱えている。キュレーターの仕事は順調のようで、周囲の人間をまきこむ能力も備えているようだ。

 クリスティアンが、今回、手がけるのは、「ザ・スクエア」という展示だ。「世の中をより良くするための展示」ということで、美術館の玄関に、文字通り、正方形の囲いを展示する。「ザ・スクエア」のなかでは、すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる、というもの。この狙いとは裏腹に、美術館の周辺には、だれも気にかけないホームレスや、貧しい人たちがおおぜい、いる。

 「ザ・スクエア」のコンセプトでは、「助け合うのが決まり」だが、貧しい人たちに、誰も手を差しのべない。「ザ・スクエア」は、いわば、参加型アートで、「思いやりの聖域」を具現化したもので、現代社会にはびこるエゴイズムを無くし、経済格差の是正を狙ったもののようだが、現実はそう甘くはない。

 ある日、クリスティアンが歩いていると、「助けて、男に殺される」と叫ぶ声がする。若い女性が、クリスティアンに助けを求める。周囲の人たちは、まったく無関心。クリスティアンは、通りがかりの男性と協力して、女性を助ける。ところが、いつの間にか、クリスティアンの財布とスマホがなくなっている。

 クリスティアンは、部下の協力で、スマホのGPS機能を使って、犯人捜査に乗り出す。やがて、犯人のいるらしい集合住宅を特定するが、どの部屋なのかが分からない。クリスティアンは、全戸に、脅迫めいたチラシを投げ入れる。数日後、財布とスマホは、無事に戻ってくる。

 同じ頃、展示のPRをめぐっての議論が続いている。PR会社は、ストレートなPRではなく、「ザ・スクエア」のコンセプトとはまったく逆のメッセージ映像をSNSで流し、いわゆる炎上を狙っての戦略を打ち出す。これが見事に的中するが、この映像は、同時に、世間のひんしゅくを買うことになる。

 クリスティアンのもとに、ひとりの少年が現れ、謝罪を要求してくる。どうやら、クリスティアンのまいたチラシによって、心に深い傷を負っていたようだ。

 何をしても、ことごとく、裏目に出るクリスティアン。やがて、自らの愚かさに気付き、非を悟るのだが……。


<作品情報>
「ザ・スクエア 思いやりの聖域」
(C)2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

2018年4月27日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
公式サイト

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