ジャズ名盤講座第20回「ワーナー・ブラザーズ編」

2019年 1月 18日 00:00 Category : Art

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ジャズ名盤講座

All About Warner Bros.(マスター向け講座)




2.マスター向け講座

 ワーナーの歴史は買収と合併の歴史でもある。1963年にリプリーズを子会社化したあとは、1967年にワーナー・ブラザーズ映画がアトランティック・レコードも所有していたセブンアーツに買収されたことで同社の傘下に入り、今度は1969年にキニー・コーポレーションがセブンアーツを買収する。そしてこのキニーが1970年にエレクトラを買収したことから、キニーはワーナー・コミュニケーションズと改名。音楽部門は、ワーナー、エレクトラ、そしてアトランティックの頭文字を取って“WEA”と名づけられる。その後は、1989年にワーナー・コミュニケーションズと出版社のタイムが合併してタイム・ワーナーが設立されている。タイム・ワーナーがAOLを合併してAOLタイム・ワーナーに改名したのが2001年のこと。2003年には社名がタイム・ワーナーに戻される。そして2004年になって、タイム・ワーナーの財務体質を改善するため、ワーナー・ミュージック・グループ(WEA)が投資家グループに売却されている。

 話がかなり本題からそれてしまった。ワーナーのジャズ路線は、フュージョン・ブームによってエンジンがかかってくる。きっかけはジョージ・ベンソンの『ブリージン』が大ヒットしたことである。それまでにもベンソンにはヒット作があったが、ワーナーに移籍して発表したこのアルバムがポップ・チャートでも1位に輝いたことから、ジャズとポップスの垣根を取り払ったことは大きい。

 その後はデヴィッド・サンボーン、アル・ジャロウ、ラリー・カールトン、スタッフ、アール・クルーたちがフュージョン路線でヒット作を連発し、さらにはビル・エヴァンスやパット・マルティーノなどがジャズ・ファン好みのアルバムを吹き込んで大きな評価を獲得した。加えて、最晩年に残された一連のマイルス・デイヴィスによる作品はすべてがジャズ史に残るものだ。

 それともうひとつ、ワーナーのフュージョン路線で見落とせないレーベルにクインシー・ジョーンズが設立したクエストがある。こちらでもジョージ・ベンソンやフランク・シナトラのアルバムが制作されたし、クインシー自身の作品や、彼が手がけたサウンドトラック・アルバム『カラー・パープル』なども残されている。

 ワーナーらしい作品として個人的に気に入っているのはチャカ・カーンの『c.k.』で、これにはオーヴァーダヴィングながらマイルス・デイヴィスとプリンスが共演した「スティッキー・ウィックド」が含まれている。それと、ジャズ・シンガーとは違うがAOR(Adult Oriented Rock)で大評判を獲得したマイケル・フランクスやクリストファー・クロスの作品がカタログを飾っていることも見落とせない。とくに前者による『ジ・アート・オブ・ティ』をはじめとしたヒット作にはジャジーな響きの歌やボサノヴァ調のオリジナルなどが多数含まれており、ジャズ・ファンからも高い評判を呼んだことが思い出される。

 ただしジャズ・レーベルとして見た場合、ワーナーはどうしても非力の印象が拭えない。素晴らしい作品も少なくないし、大ヒット作も多く残されている。しかし、それ以上に他ジャンルでの成功が目立っているからだ。ジャズの作品がその影に隠れてしまったことははなはだ残念である。見方を変えるなら、これはジャズ専門のレーベルとはまったく違うメジャー・レーベルだからこその結果である。しかし、だからといって作品の価値が薄れるわけではない。

 初期に残されたポール・デスモンドの『ファースト・プレイス・アゲイン』やマーティ・ペイチによる『ブロードウェイ・ビット』と『アイ・ゲット・ア・ブート・アウト・オブ・ユー』はこれまでに何度も再発売されてきた。晩年に近い時期に残されたビル・エヴァンスの『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』、『アフィニティ』、『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』、『未知との対話―独白・対話・そして鼎談(ていだん)』はいずれも傑作の誉れが高い。ジャズにはあまり重きを置いていなかった1960年代末から1970年代初頭にかけて発表されたハービー・ハンコックの諸作『ファット・アルバータ・ロトゥンダ』、『エムワンディシ』、『クロッシングス』も見落とせない。

 そのほかにも天才ベーシストのジャコ・パストリアスがオーケストラを率いて残した『ワード・オブ・マウス』やラリー・カールトンの『夜の彷徨(さまよい)』、さらにはジョージ・デュークの『ナイト・アフター・ナイト』など、いまだに多くのファンが愛してやまない好作品には枚挙のいとまがないほどだ。1990年代以降はジョシュア・レッドマンと契約し、併せて、ウォレス・ルーニー、ケニー・ギャレット、ブラッド・メルドーといった精鋭の作品も残してきた。純粋なジャズ・レーベルとしては語られることがほとんどないワーナーだが、フュージョン以降の歴史においては極めて重要な作品が目白押しである。ゆえに、今後もこのレーベルから登場する作品には目が離せない。




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