今週末見るべき映画 「ボルベール<帰郷>」

2007年 7月 6日 11:10 Category : Art

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 女性の強さ、たくましさに憧れと畏怖を覚える映画である。愛の形の不思議さを見事に描いた「トーク・トゥ・ハー」から4年、スペインの監督ペドロ・アルモドバルの新作「ボルベール<帰郷>」(ギャガ・コミュニケーションズ配給)。


 一言で言うと、まさに女性賛歌。不遇な状況であっても、たくましく、肯定的に生きようとする女性たちの姿勢に、圧倒される。ことに、主役のライムンダに扮するペネロペ・クルスが、強く、たくましく、美しい。過去の秘密を隠しながら、必死に生きる中年女性を熱演する。

 母親イレネに扮したカルメン・マウラは、秘密を抱えながらも疎遠だった娘に再会するというむずかしい役どころを、達者な演技で貫禄十分だ。ここには、女性同士のいろんな関係が描かれる。二代にわたる母と娘、姉と妹、伯母と姪、友人…。どの関係も、それぞれの人生に深く関わりあっている。死のイメージが常に見え隠れするが、描写はさらりとユーモラスですらある。

 ことに死んだはずの母親が現れてからは、笑える場面がいくつも出てくる。姿は見えないのに、ライムンダが母親の匂いを感じとるシーンは、思わず吹き出してしまう。母親がテレビで映画を見ているシーンがある。ルキノ・ヴィスコンティの「ベリッシマ」である。アンナ・マニャーニが、幼い娘を映画に出演させようと躍起になる母親に扮していた。「ボルベール(帰郷)」での、母親の愛情、役割を暗示して、効果的なシーンとなっている。

 たくさんの映画を撮ってきたペドロ・アドモドバルが描く、女性たちが演じる女性賛歌に酔って欲しい。ちなみに、昨年のカンヌ国際映画祭は、この映画に出演した女性6人全員に、最優秀女優賞を授与した。



【story】
 舞台はマドリッド。ライムンダ(ペネロペ・クルス)には、15歳になる娘パウラ(ヨアンナ・コパ)がいる。ライムンダは、10代の頃から疎遠になっていた母親イレネ(カルメン・マウラ)を、3年前に亡くしている。夫はろくに仕事もせずに、実の娘ではないからと、パウラに暴行、パウラは義父を刺殺してしまう。たまたま休業中だった近くのレストランの大きな冷蔵庫に、夫の死体をひとまず隠すことにするライムンダとパウラ。

 そこに、郷里ラ・マンチャにいる伯母が死んだとの知らせが届く。ライムンダは、姉ソーレ(ロラ・ドゥエニャス)と隣に住む、親友アグスティナ(ブランカ・ポルティージョ)に葬儀をまかせて、娘とともに死体処理にとりかかる。たまたま、映画の撮影クルーが、レストランでの昼食をライムンダに依頼する。勝手を知っているライムンダは、引き受けることにする。ラ・マンチャに出かけたソーレは、死んだはずの母親が生きているという噂を耳にする。

 そして、火事で死んだはずの母親が生きていて驚くことになる。しかも母親は、ソーレの車のトランクに忍び込んで、マドリードにやってくる。撮影クルーの打ち上げの日、ライムンダは撮影クルーに感謝をこめて、かつて母親から教わった「ボルベール」を唄う。もとは、アルゼンチンの大歌手、カルロス・ガルデルの作ったタンゴである。映画では、フラメンコ風のアレンジ。思い入れたっぷりの、熱唱である。やがて、ライムンダと母親が再会、母と娘の驚くべきかつての秘密が明らかになるが…。

6/30よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか、東宝洋画系にてロードショー。
公式サイト


文/二井康雄

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