今週末見るべき映画 「白い馬の季節」

2007年 10月 5日 11:00 Category : Art

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 内モンゴルといえば、緑豊かな草原、青い空に白い雲、遊牧民、ゲルという住まい…などが思い浮かぶ。そして、かつての草原は青々としていたのである。干魃のため、いまは草原の砂漠化が進んでいるという。

 内モンゴルを舞台に、遊牧民家族の暮らしぶりを描いた「白い馬の季節」(ワコー、フォーカス・ピクチャーズ配給)を見た。


 さながら、滅びゆくものへの挽歌である。かつては青々とした草原だったところが、いまでは砂漠化しつつある。餓死する羊が増えるなか、遊牧民として暮らすウルゲン一家の苦しい状況が描かれる。

 牧草を求めて移動しようとしても、そこはすでに、保護区に指定されている。古くから飼っている馬も、手放さざるを得なくなる。やがて、羊の放牧での暮らしがたちいかなくなる。ウルゲンにとっては、それは民族の誇りを捨てることを意味する。

 砂漠化が進行しているとはいえ、広い大地である。映像は雄大で、また繊細である。わずかな緑を残し、大地は限りなく広い。澄んだ青い空に、浮かぶ白い雲。たそがれどき、羊を追う姿がシルエットで映る。

 妻インジドマの苦悩も合わせて描かれる。街道でヨーグルトを売り、息子の学費を捻出しようとする。やがて来る現実に、妻は町で職を探そうと動く。民族の誇りにしがみつくしかないウルゲンに比べて、生きていく力は、妻のほうが強い。妻役を演じたナーレンホアの演技が、りりしい。ウルゲンを演じたニンツァイと実生活でもパートナーである。いたわりながらも対立する夫婦を、自然な形で演じている。



 遊牧民の現実をリアルに描くことは、政府への問題提起にほかならない。遊牧から農業へ、あるいは農村から都市へ、人の生き方は変化してゆく。その変化の前に、取り残される人たちも確実に存在する。

 いまはただ、わたしたちは、滅びゆく者たちの現実を見つめることしかできないのだろうか。映画は、予想されるつらい未来をくっきりと暗示している。

【story】
内モンゴルの遊牧民ウルゲン(ニンツァイ)は、先祖代々、羊を育てながら移動する暮らしである。いまでは、干魃のため、牧草は枯れはて、羊の餓死が続いている。一人息子の学費も払えず、生活は困窮を極めている。

 妻のインジドマ(ナーレンホア)は、馬のサーラルを売るよう、夫に提案するが、モンゴル族の誇りを持つウルゲンは、馬を手放す気にはなれない。インジドマは、毎日作るヨーグルトを街道すじで売ることに。

 ウルゲンは羊を移動させるための牧草地を探しだすが、そこはすでに自然保護区になっていて、鉄条網で囲われようとしている。土地の使用をめぐって喧嘩をしたウルゲンは、村長から、土地は政府のもの、草原を保護するために、放牧は禁止になったと説得される。 

 やむを得ず、ウルゲンは食用にしないことを条件に、馬を売ることにする。羊を売り、馬を売っても、ウルゲンの暮らしぶりは変わらない。思いあまって、妻はウルゲンと息子を残し、町に出てゆく。ある事件をきっかけに、売ってしまった馬は、ふたたびウルゲンのもとに戻ってくるが、ゲルに残されたウルゲンにとっての、最後の決断とは…。

10月6日(土)より、岩波ホールにてロードショー

公式サイト

文/二井康雄

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