今週末見るべき映画「FUCK」

2007年 11月 9日 18:53 Category : Art

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 現代アメリカのあらゆる場面、状況で使われている言葉「ファック」についての考現学、その集大成とも言える痛快なドキュメント、タイトルもズバリ「FUCK」(ムヴィオラ配給)を見た。


 ファックは、性交する、という古い動詞だが、単独でいろんな意味で使われる。また、ほかの言葉と結びついて、蔑んだり、罵ったり、吐き捨てたりと、もう、使う状況によっては、ニュアンスたっぷりの、不思議な、だが、便利な言葉なのである。

 映画は、ファックという言葉について、たくさんの人にインタビュー、また、いろんなところで、どんなふうに使われているかを、きめ細かく検証する。

 インタビューに出てくるのは政治家、言語学者、ポルノの俳優、作家、ジャーナリスト、コメディアン、マナーの権威、歌手、弁護士など、右も左も、硬派も軟派も、保守も革新も入り乱れて計35名。いずれもそれぞれの立場での権威である。製作・監督のスティーヴ・アンダーソンは、長く語ったと思われるインタビューを細かく解体、要所要所にそのシーンがモンタージュされ、まさに編集の妙である。


 「大問題だ、わが国を卑猥なものが席巻している」という映像が流れる。1965年に実際に作られた映画である。数年後、ウッドストックでは若者たちが、F、U、C、K、と叫んでいる。これは映画「ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間」からの引用。カヌーから落ちた青年がファック!を口にする。とたんに罰金と禁固刑になる。

 映画は、多くの項目に分類され、ファックという言葉のあらゆる使用例が展開される。語源は不明である。ゲルマン語の「王の命令による姦淫」の頭文字からの説があるが、定かではない。スポーツで、戦争で、スタンダップコメディの現場で、政治の世界で、子供たちの会話で、映画で、と、もうあらゆるところで使われていることを例証する。

 なかでも「映画編」は傑作である。引用される主な作品を列挙すると、「パンチドランク・ラブ」「愛と追憶の日々」「ビッグ・リボウスキ」「サイドウェイ」「パルプ・フィクション」「プライベート・ライアン」「チーム★アメリカ ワールドポリス」「大統領の陰謀」「サウスパーク」「M★A★S★H」「スカーフェイス」「ミート・ザ・ペアレンツ」などなど。

 映画ではじめてファックが登場したのは、ロバート・アルトマンの「M★A★S★H」。最多登場は281回の「パルプ・フィクション」。一人の役者で連発したのは「スカーフエイス」のアル・パチーノ。短いシーンでの最多は、「大災難P.T.A」で、空港のカウンターでのワンショット、スティーヴ・マーティンが18回も連発、さらにオチがあって計19回。ファックというセリフとその翻訳字幕に注目してこういった映画をご覧になるのも、また一興かも。

 アメリカには連邦通信委員会というのがあって、ファックは放送では禁止用語。使った場合は、罰則がある。現実に、裁判沙汰になっているケースもあるという。かのスタンダップコメディの才人、レニー・ブルースもステージで連発、有罪になっている。


 この映画の優れた点は、アメリカのいろんな立場から、ファックに代表される卑猥語をめぐって、自由にその考えを表現できることを実証したことである。ここにアメリカという国の個性がはっきりとみてとれる。レニー・ブルースは言う。「もし、ファックと言えなかったら、政府くたばれ(ファック)と言えない」。

 映画「FUCK」では、800回以上もF言葉が出てくる。かりに放送された場合、罰金は2億6000万ドルになるらしい。

 デーブ・スペクターがパンフレットに書いているように、これは「ファッキン・グー!」な映画と言える。 

11月10日(土)より、シアターN渋谷ほか、全国にて順次ロードショー
公式サイト

文/二井康雄

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