今週末見るべき映画「レンブラントの夜警」

2008年 1月 11日 00:00 Category : Art

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 画家を巻き込み、数々の謎を織り込んだ「英国式庭園殺人事件」。フランス料理店を舞台に、食欲、性欲、金銭欲に溺れる人間群像を描いた「コックと泥棒、その妻と愛人」。いずれも監督はピーター・ グリーナウェイ。その映画をすべて見てみたいと思わせる、数少ない監督の一人である。

 そのグリーナウェイの新作は、17世紀、オランダの画家レンブラントの傑作「夜警」成立と、レンブラント没落の過程を描く「レンブラントの夜警」(東京テアトル、ムービーアイ配給)である。

(C)Nightwatching B.V. 2007

 見事としか言いようのない映像である。まるで傑作絵画を見るような画面構成。レンブラントの数々の傑作はもちろん、この映画には、フェルメール、カラヴァッジョ、べラスケス、ゴヤ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどなど、大画家の傑作絵画を思わせる構図がちりばめられている。

 しかも、映画は、いまだ全貌が解明されていないレンブラントの傑作「夜警」の成立過程と、画家として成功、富を手にしたレンブラントが、なぜ没落したのかについての、グリーナウェイの解釈である。面白くないわけはない。まるで良質のミステリーを味わうようである。

 同じように、絵画に材をとった「ダ・ヴィンチ・コード」の粗い作りとは、まるで違う。17世紀のオランダの背景や、権力者たちの思想が、練りに練った巧妙なセリフで表現されている。

 一部、野外のシーンもあるが、象徴的な装置、暗喩に満ちた人物の動きなど、まるで濃密な芝居を見ているようでもある。そして、レンブラントの絵画に対する考えが、まるで映画的、演劇的であることが、よく分かる。 

 インタビューでグリーナウェイは答えている。レンブラントが今、生きていたら、映画監督だろう、と。事実「夜警」を制作するレンブラントの描写は、映画制作そのもの。人間の内面を描くためにレンブラントは、その人物を知り、描く位置を決め、ふりを付け、そのわけを説明する。

 レンブラントは、若くして成功を収める。海運業で潤ったオランダでは、財を成した人たちの集団肖像の絵に注文が殺到する。ちょうど、記念写真を撮るように。だが、レンブラントは、つねに描く人物の内面を描こうとする。スペインの画家べラスケスが「ラス・メニーナス」で、人物の内面を描き、画家自身を絵に登場させたように、レンブラントもまた「夜警」では、人物の内面を描き、自身の目を絵に描く。 

(C)Nightwatching B.V. 2007

 史実では、誰もが同じように、きちんと描かれるはずの肖像画を、レンブラントは描かなかった。そのことで、訴訟騒ぎとなり、以後、レンブラントに注文は途絶えたという。レンブラントの史実に、いや実はこうだった、というグリーナウェイの答えがこの映画である。

 レンブラントの生涯や「夜警」については、多くの文献がある。映画を鑑賞する前の予習もおすすめする。予習がなくても、鑑賞した後、レンブラントについて、「夜警」について、もっと知りたくなる衝動にかられることは保証しておく。同時に、レンブラントに託した、映画作家・グリーナウェイの優れた美学を堪能できる映画であることも。

 この映画の後には、レンブラントの晩年の傑作「放蕩息子の帰郷」を見ていただきたい。レンブラントがどのような画家であったか、よく分かるはずである。

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