第80回アカデミー賞、作品賞・監督賞「ノーカントリー」

2008年 2月 25日 21:38 Category : Art

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 第80回アメリカ・アカデミー賞の最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞したコーエン兄弟の新作「ノーカントリー」(ショウゲート配給)は、コーマック・マッカーシーの小説「NO COUNTRY FOR OLD MEN」(邦題「血と暴力の国」)が原作である。

(C) 2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company.

 1980年代、メキシコ国境に近いテキサスの田舎。犯罪が凶悪化し、時代の移り変わるを嘆く保安官の独白が、各章の始めに出てくる。もう、いまや老人たちの住める国はない、と。

 麻薬取引のいざこざから、大金を手にした男が、殺し屋に追われる。男を知る保安官は、多くの殺人に戸惑いながらも事件の捜査に乗り出す。追いつめられた男は、殺し屋と交渉するかに見せかけて、殺し屋に立ち向かおうとする。

 原作は、保安官の独白や殺し屋のセリフを通して、アメリカの作ってきた「世界」への批判、警告で満ちている。残忍非情な殺し屋の存在そのものが、今のアメリカを象徴しているかのようである。

 いかにもコーエン兄弟好みの話である。今までのコーエン作品は、ほとんどがオリジナル脚本だが、本格的な原作のある映画化は、これが初めてという。結果、原作の持つ寓話性、アメリカへの比喩や批判精神を損なうことなく、いや、それ以上にコーエン・タッチとでも言える、サスペンスのなかに、巧まざるブラック・ユーモアが加えられ、見事なまでの映画になった。

 配役がいい。大金を持って逃げる男をジョシュ・ブローリン、追う殺し屋をハビエル・バルデム、保安官をトミー・リー・ジョーンズが演じる。

 スペイン映画「海を飛ぶ夢」で、尊厳死を望む中年男を演じたハビエル・バルデムが存在感たっぷり。まるで感情がなく、行き当たりばったりにスタンガンを撃ちまくる殺し屋を力演、映画そのものを牽引する需要な役どころを見事に演じた。このほどのアカデミー賞で、最優秀助演男優賞も当然と思わせる。

 トミー・リー・ジョーンズもまた、時代に取り残される運命の初老の保安官役を、リアルに、説得力たっぷりに好演。 


 もはや、ピストルを持たない保安官のいた時代は過ぎ去り、想像を絶する規模の暴力が日常化しつつある。古き良きアメリカへのレクイエムは、暴力が蔓延するであろうアメリカの未来への序曲でもある。退任を決意した保安官に先輩が言う。「この世は人にきびしい。変えられると思うのは思いあがりだ」
 
 そして、映画のテーマともいえる決定的なセリフが出てくる。「奪われたたものを取り戻そうとすると、さらに多くを奪われる。血を流すしかない」と。

 アメリカのアカデミー会員たちが「ノーカントリー」を選んだのは、まさにこの原作、映画の訴える、病める現代アメリカへの警告が込められていたからであろう。まだ、アメリカ映画の良心の存在を信じることができる。

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