今週末見るべき映画「インフォーマント!」

2009年 12月 4日 16:00 Category : Art

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 原子力発電所の記録データ改ざんや、自動車メーカーのリコール隠蔽、食品会社の偽装などなど、いわゆる内部告発から、組織の不正が明るみに出ることが多い。いったいに組織の権力は、収益を前にして堕落するものである。不正が明るみに出ることは、おおいにけっこうなことと思う。

 内部告発は、組織の不正を暴く反面、組織への裏切りも意味する。内部告発した人間の立場を保護する法律のあるアメリカでさえ、内部告発は、本人にとっては、必ずしもいい結果になるとは限らないようである。

 日本でも、公益通報者保護法があるが、制定されたのはまだ最近のこと。トラック業界のカルテルを内部告発した人物は、名前が明るみに出て、以後、組織ではろくな仕事が与えられない、といったこともある。今後、企業組織が違法行為、不正を続けるのなら、内部告発の動きは、ますます加速するものと思われる。

 アメリカの大企業での内部告発を、実話に基づいて描く映画、と聞くと、シリアスなドラマを思い浮かべるが、これがブラックな笑いに満ちたコメディ。「インフォーマント!」(ワーナー・ブラザース配給)を見た。


 マット・デイモン扮するエリート役員マーク・ウィテカーは、高給取り、妻子に囲まれて、何不自由ない暮らしぶりである。それが、社の違法な価格協定を内部告発、やがて自らの不正まで明るみに出て、アメリカ中を巻き込んでの、とんでもない大騒動になっていく。

 ジェイソン・ボーン・シリーズのかっこよさとはうって変わったマット・デイモンが、自らの考える正義を信じ、007気取りで社内不正の証拠を集める。しかも秘密は漏らすは、言うことはころころ変わるはで、まるでノーテンキな、だからなぜか憎めない役どころを力演する。

 太った中年役のために、15キロも体重を増やしたというマット・デイモンは、「レイジング・ブル」のロバート・デ・ニーロの25キロ増量とまではいかないが、なかなかのはまりぶり。ジェイソン・ボーンのファンは、このマット・デイモンの容姿には、いささかがっかりするかもしれない。

 ギャグや笑える状況が連発する。日本の食品の大メーカーが実名で登場、日本人のあざとさをぼろくそに言い散らす。おんぼろの録音機に代わって、盗聴用にFBIが貸与するのは名機のナグラ。「まるで、トム・クルーズの『ザ・ファーム 法律事務所』のようだ」のセリフは、タイミングよく、繰り返される。

 なによりも、重罪を犯した企業なのに、強盗よりも罪が軽い事実が、さりげなく語られる。結果的には、ウィテカーは懲役となるが、その経緯、後日談に、またまた大笑い。

 シリアスな題材を、コメディに仕立てあげた手腕はスティーブン・ソダーバーグ。「オーシャンズ13」で、マット・デイモンの鼻を大きくしたりのギャグが、さらにエスカレートしたエンタテインメントである。

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