今週末見るべき映画「コロンブス 永遠の海」

2010年 4月 30日 16:00 Category : Art

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 マノエル・ド・オリヴェイラ監督の新作である。オリヴェイラは101歳、1990年以降、ほぼ毎年、映画を撮り続けている。その創造力のたくましさに驚く。まったく、年齢を感じさせない。それどころか、ますます鋭く、映画表現に幅と深みが増していくようである。

 「コロンブス 永遠の海」(アルシネテラン配給)は、オリヴェイラの2007年の作品。静謐にして悠々、かつての大航海時代、新大陸発見に旅立ったコロンブスの出自を訪ねる、壮大な詩のような映画である。

© Filmes do Tejo II - Les Films de l'Après-Midi. 2007.

 オリヴェイラは、1946年から現代まで、60年余の歴史を、1時間15分のなかに刻み込む。コロンブスの旅を辿りながら、ここ500年の航海の歴史さえも振り返る。これはオリヴェイラ自身の、人生の旅でもある。 

 多くの人間がコロンブスの航海を辿り、その紀行を著している。白眉は、ル・モンドの記者、後の編集委員エドウィ・プレネルの著書「五百年後のコロンブス」(晶文社 飛幡佑規・訳)だろう。プレネルは、80人もの政治家、学者、水夫、詩人、宗教家たちにインタビューする。500年前の新大陸の発見は、のちの世界に、どのような影響を与えたのか。また、先住民とその文化を、どのように破壊したか。そして、植民地はいかに作られ、資本主義がどのように発展し、いまの南北問題、ナショナリズムにどのような結果をもたらしたのかなどなど、その言及は鋭い。 

 コロンブスの出自については、諸説ある。定説ではイタリア人であるが、スペイン語を話していたこと、また、発見したどの島にもスペインの地名をつけたことなどから、スペイン人説もある。そして、洗礼名から推測して、ポルトガル王家の血を引くポルトガル人説。

 コロンブスの没後500年になる2006年、コロンブスはポルトガル人、という説が出た。映画は、この説を実証しようとする夫婦の、50年になろうとする旅を描く。

 静かな、ゆったりとした運び。空、海が、ゆったり写し出される。はっとする美しい映像の連続である。どのエピソードにも、赤と緑のポルトガル国旗を連想させる衣装の「守護天使」が現れる。そして、主人公の旅に寄り添い、微笑みを浮かべ、やさしく見守る。

 主人公の夫婦は、イベリア半島の最西最南端のサグレス岬を訪れる。かつて沢木耕太郎が「深夜特急」の旅を、これで終わりにしようかな、と思った場所である。ここで、沢木耕太郎は、ふしぎな既視感におそわれる。わずか3日前に知ったばかりのサグレスの岬に立ち、「不思議な感情にとらわれるようになった。言葉にすれば、ここには以前来たことがあるのではないだろうか、という思いだ。」

 オリヴェイラのサグレス岬の映像からも、観客は、古い記憶のなかから、かつてここに来たことのあるような思いにとらわれる。

 監督夫妻が、年老いた夫婦を演じる。愛に満ちた、すてきな会話に、胸が震える。それにしてもマノエル・ド・オリヴェイラ、101歳。古稀、従心を超えて30年、撮りたいように撮っても、品位と節度、そして、たぐいまれなる映像美。これは、映画世界の財産だろう。

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