今週末見るべき映画「ビルマVJ 消された革命」

2010年 5月 14日 21:45 Category : Art

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 映像のもたらす「事実」が、力強く迫ってくる。ビルマ(いまはミャンマー)の現実である。第82回のアカデミー賞、長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたデンマーク映画「ビルマVJ 消された革命」(東風配給)を見た。

© 2008 Magic Hour Films

 タイトルのVJとは、ビデオ・ジャーナリストのこと。映画は、ビルマの軍事政権への反政府運動を、ジョシュアと名乗るビデオ・ジャーナリストの目を通して、真正面から切り取っていく。

 ビルマは、1962年以降、軍事政権が続いている。かつて、アウン・サン・スーチー氏の指導による民主化運動の兆しはあったが、その後、国民の声は、軍部の圧倒的な力で黙殺される。そして、一般市民の不満は、くすぶったままである。

 そんな中、2007年8月、燃料の値上げを政府が発表したことから、僧侶たちが決起する。そして、一般市民を巻き込んでの反政府運動が、再び起ころうとする。映画は、軍事政権の弾圧ぶりと、ビデオ・ジャーナリストたちの、秘密裡に取材する様子、さらに、海外に送った映像を世界に向けて発信する顛末を、サスペンスたっぷりに描いていく。

 時間の経過に従って、ビデオ・ジャーナリストであるジョシュアのナレーションが挿入される。もちろん、本名ではなく、仮名である。ときには鋭く、ときには慎重に、素直に自らの思いを語る。軍部や警察の動きを写した映像は、ほとんどが、隠し撮りである。カメラはぶれ、何が写っているか分からないところもある。

 ビルマの僧侶たちがデモを決意する。もともと、僧侶は政治介入しないことになっている。民衆の怒り、声なき声に、僧侶たちが立ち上がったのである。

© 2008 Magic Hour Films

 僧侶たちは、柿色の僧衣に身を包み、裸足である。抗議のシンボルとして、托鉢の皿を裏に向けて、僧侶たちのデモ行進は続く。そして、次第に市民を巻き込んでのデモは、市民たちの拍手で迎えられる。隠し撮りとはいえ、このデモ・シーンは、迫力じゅうぶん。

 早いテンポで、事実経過が語られ、まるで、現場に立ち合っているかのような雰囲気に満ちている。映像の力だろう。現実は未解決のままである。しかし、どのような状況であっても、事実を映像で伝えようとするジャーナリズムの存在に、希望を見いだすことができる。

 ちなみに、第82回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞したのは、日本のイルカ密漁の実体を描いた「ザ・コーヴ」である。外国語映画賞が「戦場でワルツを」ではなく、「おくりびと」が受賞したように、アカデミー会員は、政治的色彩の強い作品には、いささか、抵抗があるようだ。

 ビルマの軍事政権は、いまなお続いている。今年、予定されている総選挙は、軍部主導が明白なために、アウン・サン・スーチー氏の所属する国民民主連盟は選挙を拒否、結果、政府から解党処分を受けたという。

 アウン・サン・スーチー氏は、この5月10日、アメリカのキャンベル国務次官補と、ヤンゴンで会談するなど、ひところほどの軟禁状態ではないと思われる。しかし、国民民主連盟の参加しない選挙では、真の民主主義とはほど遠い、意味のないものである。

 ビデオ・ジャーナリストたちが、命を懸けて報道しようとする姿を伝えた監督は、デンマークのアンダース・クログスガード。「あなたの持っている自由を、持たない人のために用いて下さい」。アウン・サン・スーチー氏の言葉は、重い。

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