今週末見るべき映画「あの夏の子供たち」

2010年 5月 28日 19:00 Category : Art

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 映画「あの夏の子供たち」(クレストインターナショナル配給)は、軽快な音楽、ジョナサン・リッチマンの「エジプシャン・レゲエ」で始まる。

 パリ。映画製作会社ムーン・フィルムを経営するプロデューサーのグレゴワールは、片時も、携帯電話を離すことのない仕事人間である。しかし、彼は、精一杯、家庭、家族を大事にしている。良心的な映画を数多く製作、しかも同時に、いくつかの映画製作が進行している。しかし、今という時代なのか、製作費はかさみ、現像代もままならない日々である。社の借入金は増え続けている。

 映画の前半は、映画製作をめぐる現場事情と、グレゴワールの幸福そうな家庭が、きめ細かく語られる。そして、資金難から、思い詰めたグレゴワールが、なぜ自殺に至るかを、丁寧に、テンポよく運んでいく。後半は、切なく辛い状況に立ち合う妻シルヴィアと、思春期の長女、父親の死の意味をまだ完全には理解できない次女、三女を、静かに、淡々と描く。


 いい父親なのである。次女と三女の語る「今日のできごと」は、忙しい父親を、しゃれた悪口でからかう。笑って、娘のお尻をぶつ真似をするシーンなど、ほほえましい限り。また、パリ郊外の別荘では、近くにある礼拝堂や修道院に連れていき、テンプル騎士団の歴史を、娘たちに聞かせる。

 シルヴィアはイタリア人である。長女は留守番だが、親子4人でラヴェンナを旅する。聖堂のモザイク画を、娘に解説する父は、慈愛に満ちている。グレゴワールは、おそらく、最後の逃げ道を用意したのだろう。妻や娘たちを心配させないために、交わす会話、態度に、多くの気遣いをみせる。会社のスタッフたちとのやりとりは、さりげないけれど、追いつめられた人間の心理を、くっきりと描いて見事である。並々ならぬ演出力だ。

 悲惨な境遇のなか、母娘のセリフがことごとく秀逸、練られたセリフばかりである。父のある秘密を知り、憤る長女に、シルヴィアは言う。「死は人生の数あるできごとのひとつ。パパの愛の深さを忘れないで」と。また、ラスト近く、やっと父の死の意味を理解したのか、次女は、「パパの魂は永遠に生きる。とくに私たちの中に」と言う。


 すぐれた脚本、監督は、なんと1981年生まれの20代、女優、映画批評家でもあったミア・ハンセン=ラブ。この若さでの表現力、完成度の高さに、驚く。実生活では、映画監督のオリヴィエ・アサイヤスとの間に、娘を産んだばかり。

 フランス映画の伝統なのか、若い監督なのに、練達、抑制のきいた語り口である。ごく自然にドラマが展開し、だから、見る者を引き込んでいく。音楽は、暗示に満ち、効果的である。長女が、パーティに出かける。ジョン・レイトンが1961年に歌ってヒットした「ジョニー・リメンバー・ミー」(日本でのカバー・タイトルは「霧の中のジョニー」)が流れてくる。カフェでは、リー・ヘイゼルウッドの「ザ・ガール・イン・パリ」が使われる。

 悲しみを受け止めて、明日、さらに人生の一歩を踏みだそうとする母と娘たち。そこに、ドリス・デイの「ケ・セラ・セラ」が重なる。アルフレッド・ヒッチコック監督の映画「知りすぎていた男」の主題歌だ。「なるようになるわ、先のことなど分からない…」

 主人公のモデルとなったのは、実在の映画プロデューサー、アンベール・バルザン。アンベール・バルザンは、2005年2月、自らの命を断つ。小欄でも紹介したタル・ベーラの傑作「倫敦から来た男」の製作中であった。悲劇である。しかし、愛する人を失いながらも、悲しみに耐え、残された者たちの「新しい出発」と「希望」が、じっくりと伝わってくる。

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