今週末見るべき映画「華麗なるアリバイ」

2010年 7月 16日 00:00 Category : Art

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 今年は、アガサ・クリスティ生誕120年。ミステリーの女王といわれるクリスティの作品は、聖書やシェイクスピア並みに、世界中で読まれている。

 中学生のころに、「アクロイド殺し」を読んで、クリスティに魅せられた。「オリエント急行殺人事件」などは、その構成の妙に驚いたものである。同じ頃、エラリー・クイーンの「Yの悲劇」やF・W・クロフツの「樽」、ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」などを読み、ミステリーの面白さにのめり込んでいった。つまり、クリスティは、ほかの作家のミステリーの面白さも教えてくれたわけである。

 もちろん、クリスティの作品は、数多く、映画化されている。「そして誰もいなくなった」は、4回も映画になっている。1945年のルネ・クレール監督版。ジョージ・ポロック監督の「姿なき殺人者」は1965年。1974年には、ピーター・コリンソンが監督。舞台を砂漠に設定した「サファリ殺人事件」は、1989年である。映画としては、大ヒットしなかったけれど、原作の面白さで、どれも楽しめる映画であった。

©2008-SBS FILMS-MEDUSA FILM

 このほどのフランス映画は、「ホロー荘の殺人」が原作の「華麗なるアリバイ」(アルバトロス・フィルム配給)である。ミュウ=ミュウ、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ、アンヌ・コンシニと、フランスのごひいき女優が出演する。また、「007/カジノ・ロワイヤル」のボンド・ガールに扮したイタリアの女優カテリーナ・ムリーノが、女優役で出演。さらに、アラン・レネ監督の傑作「二十四時間の情事」のエマニュエル・リヴァが、記憶障害の患者役で、ほんの少しだが出演、もう、80歳代半ば、元気そうである。これだけの女優たちが共演、見たいと思うのは当然である。

 原作では、名探偵エルキュール・ポアロが登場するが、クリスティ自身の舞台劇化では、ポアロは登場しない。映画は、この舞台版に沿って、進行する。

 殺人事件が起こるミステリーではあるが、それ以上に、愛と憎しみ、羨望と嫉妬が複雑に入り込んだ、男女の心理劇の結構である。なにも、癖のある名探偵が出なくても、ドラマとしてじゅうぶん成立するものと思われる。

 舞台は、フランスの田舎、上院議員アンリの大邸宅である。ここに、アンリ夫妻の親戚や、精神分析医のピエールとその妻、彫刻家、作家、女優たちが招かれる。それぞれが、親しい関係にある。

 ピエールは妻だけでなく、過去に関係のあった女性、現在の愛人、復縁を迫る女性と、いわば、女性に節操のない精神分析医。もちろん、その事情を知る男性もいて、ピエールは、誰からも恨まれている、という設定である。

 登場人物は、表面的にはおだやかながらも、病的ともいえる根深い心の葛藤を抱えている。その心理のひだを、練られたセリフで描いていく。時には冷ややかに、時には皮肉たっぷりに、時にはあからさまに。そして、ピエールが、銃で殺害される。

 ミステリーとしても、一級だが、なによりも、登場人物の愛と憎しみが、複雑にからんだ心理劇。フランス映画ならではの味わいに満ちている。脚本家から監督に転じたパスカル・ボニゼールのコクのある演出に、脱帽である。


©2008-SBS FILMS-MEDUSA FILM

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