今週末見るべき映画「小屋丸 冬と春」

2010年 10月 1日 19:20 Category : Art

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 宣伝のコピーは、「なつかしいユートピアがここにある」だ。ドキュメンタリー映画「小屋丸 冬と春」(NPO法人越後妻有里山協働機構配給)の舞台は、新潟県東頸城郡松代町の小さな集落、小屋丸である。

 小屋丸は、2005年の町村合併で、十日町市に編入される。もちろん、日本でも有数の、特別豪雪地帯だ。なぜ、このようなところがユートピアなのか? フランスの現代美術作家、ジャン=ミッシェル・アルベローラは、2007年から2年間、小屋丸の集落を10回にわたって訪れる。そして、雪に埋もれた冬と、のどかな雪解けの春の自然と、ここに住む人たちの暮らしぶりを、16ミリのフィルムに納める。



 モノクロである。人口わずか14人、豪雪地帯の里山、冬は雪に閉ざされ、春になると、棚田に水が張られる。この小屋丸での暮らしぶりに、大きな出来事や、刺激的なことは、何もない。

 しかし、逆に、なにもないからこその自然の風景、素朴な暮らしぶりが、丁寧に切り取られている。その映像は美しい。カット、カットが、独立した静止画のように、眼が記憶する。録音の拾う音は、自然のまま。雨の音、雪かきの音、鳥の声、山から流れる水のせせらぎ。そして、人物たちの越後の方言である。どれもが、まったり、のんびり。まるで観客は、現実に小屋丸にいるかのように、映画の時間を過ごすことになる。

 集落には、外国人を含めて、いまは4世帯13人しかいない。映画は、この場所で暮らし続ける人たちの冬と春を、おだやかに描いていく。


 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」というイベントがある。これは、2000年から、3年に一度、越後妻有(十日町市と津南町)の里山で展開する芸術祭で、この総合ディレクターが、映画にも登場する北川フラム。監督、撮影のジャン=ミッシェル・アルベローラは、フランスの現代美術作家、評論家である。2003年のアートトリエンナーレで、世界でいちばん小さいという美術館「リトル・ユートピアン・ハウス」を制作した。

 そのジャン=ミッシェル・アルベローラが、小屋丸の集落に魅せられる。ここには、文明から取り残された暮らししかない。雪かきは、道具を使うけれど、手作業である。大人と子供が集まって、みんなで8ミリを見て、笑い合う。男も手伝って、ヨモギ餅を作る。写真アルバムを見て、昔を思い出す。戸外で尺八を吹く。

 そのような、暮らし、日々の楽しみが、淡々と描かれる。厳しい冬が過ぎ、里山に春がくる。昭和30年に出たレコードのロシア民謡「トロイカ」が流れてくる。50年ほど前の小屋丸には、24軒、126人が住んでいた。いまは、もう、限界集落である。これからも、人が住み続ける保証はどこにもない。

 小屋丸の存在は、芸術祭といった、広域での地域復活のモデル事業の、ほんの一部にすぎない。監督のジャン=ミッシェル・アルベローラは、小屋丸の自然と素朴な暮らしに、ユートピアを見たはずである。だからこその気概が、見てとれる。都会に住む勝手さながら、せめて、このままの暮らしが途絶えないよう、願うばかりである。

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