今週末見るべき映画「ハーブ&ドロシー」

2010年 11月 12日 18:30 Category : Art

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 以前、まだご健在だった猪熊弦一郎さんのアトリエを訪ねたことがある。何でもないふつうのテーブルの上に、いろんなものが置いてある。はっきり言ってガラクタばかり。針金をねじっただけのもの、ガラスのかけら、包装紙を丸めただけのオブジェ、木ネジ… ただ、それだけのものなのに、絶妙に配置されたガラクタたちからは、遊び心にあふれた作家、猪熊弦一郎さんの美意識が漂っていた。

 ふと、そんなことを思い出したドキュメンタリー映画が「ハーブ&ドロシー」(ファイン・ライン・メディア配給)。



 舞台はニューヨーク。1960年代、絵画や彫刻、デッサンなど、お気に入りの現代アートを、手の届く範囲で買い集めている夫婦がいる。夫、ハーブは郵便局員。妻のドロシーは図書館の司書。ごく平凡な、共働きの夫婦だ。

 ハーブとドロシーは、いまだ表現されたことのない新しさにひかれる。そして、自分たちの目で確かめ、無名の、まだ若いアーティストたちの作品を買い始める。自分たちの収入の届く範囲で、かなり集中的に。まだ無名の、貧乏なアーティストたちにとっては、うれしい限り。のちに、大ブレイクしたアーティストたちからも、感謝され続けている。

 狭いアパートである。そこに、夫妻お気に入りの現代アートのコレクションが40年間、続く。ぼう大な量になっている。実話である。皮肉もいささか。アートの世界にお金がからむ現実を、飄々と笑い飛ばす。先見の明ではあるが、単なるコレクターの域を超えて、夫妻の審美眼はただものではない。美は、対象そのものにあるのではない。対象を見るまなざしのなかにある。そういった、あたりまえのことを、的確に、映画は伝える。

 ユーモアたっぷりの老夫婦の会話や、アーティストたちとのやりとりが、絶妙、存分にでてくる。そして、いまや著名なアーティスト、美術ジャーナリストたちが、夫妻のコレクションを、さまざまに語る。爽快である。超有名になったアーティストたちが、夫妻に賛辞を送るのだから。さりげなく、夫妻の足跡を追いながら、1960年以降のアメリカの現代アートシーンの様相が、きめ細かく描かれる。ほのぼのながら、あざやかな手腕である。監督、プロデューサーは、ニューヨーク在住の佐々木芽生(ささきめぐみ)。


 ハーブは言う。「他人のルールに従わず、自分のやりたいことをやってきた」。夫妻は、買った作品を一点たりとも売らない。そして、そのぼう大なコレクションを、ナショナル・ギャラリーに引き渡すことを決意する。そしてその後も、夫妻のコレクションは続く。エンド・クレジットには、微笑ましくも痛快な、ハーブとドロシー夫妻が登場する。

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