今週末見るべき映画「クリスマス・ストーリー」

2010年 11月 20日 00:00 Category : Art

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 「クリスマス・ストーリー」(ムヴィオラ配給)は、フランスの著名な俳優がズラリと揃う。カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルション、マチュー・アマルリック、キアラ・マストロヤンニ、アンヌ・コンシニ… 単なる顔見せ映画ではない。コクのある人間劇だ。練られた脚本に、芸達者たち。圧巻である。

 舞台は、フランス北部の町ルーベ。クリスマスを控えた数日間、ヴュイヤール家では、夫アベルと妻ジュノンの老夫婦のもとに、すでに独立した子供たちが集まってくる。群像劇である。一見、そこそこ幸福そうな家族のように見える。しかし、冒頭で明かされる家族の歴史は、血液のガン、白血病をめぐって、親子や姉弟どうしの複雑な想いで満ちている。


 背景の事情はどうなのか、誰と誰がどのような立場なのか、それがどのように変化していくのかが、くっきり、鮮やかに描かれる。ヴュイヤール夫妻の最初の子供は、男の子のジョゼフ。2年後に長女エリザベートが生まれる。ところが、長男ジョゼフが4歳のときに、白血病と診断される。治療法は、骨髄移植しかない。夫妻もエリザベートも、骨髄が適合しない。なんとかジョゼフを救おうと、夫妻は次男アンリをもうける。ところが、羊水を調べた段階で、次男もまた、骨髄の不一致が判明する。ジョゼフは、6歳で亡くなる。数十年が経過する。映画は、現在の時間の流れに沿って、進行する。

 夫妻も子供たちも、それぞれに、過去のトラウマや不安、おぼつかなさを抱えている。舞台設定はシンプルだけれど、10名ほどの大人たちの、家族でありながら、家族でこその、微妙で、複雑なドラマが展開する。ドラマは、悩み苦しむ人間そのものの種々相を描いて、奥が深い。それぞれのエゴが表面化することはあっても、そこは家族である。表向きとは違う、血のつながりがある。言い争いながらも、この家族とその周辺には、誰もが誰かを思いやる人間愛を感じるのである。

 長女エリザベートに扮するアンナ・コンシニが、繊細でうまい。弟アンリとの仲違いも、両親の子供への関わりが原因と思っている。そんな、複雑な立場を、多彩な表情で演じる。夫、父親役のジャン=ポール・ルションが、地味ながら、渋い演技でドラマを支える。息子の治療目的で子供を作った後ろめたさを持ちながらも、鷹揚な態度で子供たちに接する。 

 妻、母親役のカトリーヌ・ドヌーヴは、貫禄じゅうぶん。幼くして死なせた子供への思いがある。愛せないけれども、治療の目的でもうけた子供への申し訳なさを、なんとか償おうとする難しい役どころを、力演する。

 音楽や映画、文学の引用が多彩である。いずれも本作の雰囲気を補って、あまりある。アベルは、染め物工場を経営している。ジャズが好きで、わざわざ楽譜を見ながらジャズを聴く趣味人でもある。ベースを弾くチャールズ・ミンガスが、チャーリー・パーカーに捧げた曲「リインカーネーション・オブ・ア・ラブバード」の楽譜を見ながら、ミンガスを聴く。その他、デューク・エリントンやアート・ファーマー、セシル・テイラーなどが、効果的に流れる。ジャズだけではない。ヴィヴァルディやスカルラッティのバロックから、インド音楽、オーティス・レディングまで登場する。

 映画の引用は、テレビの画面として出てくる。マックス・ラインハルトの「真夏の夜の夢」、スタンリー・ドーネンの「パリの恋人」、セシル・B・デミルの「十戒」(1956年版)。妻ジュノンは「エマーソンの日記」を読んでいる。夫アベルは、泣いてばかりいるエリザベートに、ニーチェの「道徳の系譜」を朗読する。

 それぞれが、クリスマスの日を迎える。はっきりした形ではないけれど、近い将来への、ささやかな希望が見てとれる。2時間30分の長尺ながら、いっこうに破綻がなく、一気に見せる。監督、脚本は、傑作「キングス&クィーン」のアルノー・デプレシャン。その力量、演出は、見事としかいいようがない。「キングス&クィーン」と比較してご覧になると、アルノー・デプレシャン監督の意図が、よく伝わると思う。

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