あのクリエイターに今、ききたいこと。坪井浩尚さん/プロダクトデザイナー

2017年 5月 17日 14:00 Category : Design

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クリエイターの何気ない会話を通じて見えてくる人となりや、
その人なりのモノゴトの見方、とらえ方。中国メーカーからイヤホンを出した、
と聞いたので、プロダクトデザイナーの坪井浩尚さんのオフィスに。
今、ききたいことをきいてみました。2017.3.27


──新しいイヤホンについて
中国のMEIZU(メイズ)というメーカーの、一部のスマホに同梱される、ベーシックなイヤホンが4年ぶりに改変されて。新しくデザインしました。あの有名ブランドのイヤホンも同じ工場で生産されていて、クオリティコントロールはしっかりしています。


──形はどうやって決めた?
人間の新しい器官みたいなものを目指して、耳の延長として、自然と体に溶け込むようなものを作ろうと提案しました。耳穴サンプルをたくさん採取して、人それぞれの個体差に左右されない構造検証もしています。フォルムは水が流れるように。ひとつらなりにコードの付け根からトップまでを、シリコンと樹脂で二色成形。材質の段差は、なくしています。有機的な形だから耳に触れる表面積が増えて、力が分散されて。つけ心地がよくて、一方向の力で外れにくくなる効果も得られました。

──フィット感と音の良し悪しって?
フィット感も音の感じ方を左右する要素だと思います。これはベーシックなモデルだから、高機能を狙った製品ではないですが、音質や量産検査、装着感の微調整で、30回はCADデータを修正して、音にもこだわりました。メイズはもともと、技術レベルが高いテクノロジーブランド。でも、これまでデザインがあまり良くないと言われてきた。最初に僕がデザイン提案して、そこから音のプロフェッショナルに入ってもらった。エンジニアから「0.02mm、穴の位置を左下に振ってください」といった細かな要望を何度も受けました。都度、事務所の3Dプリンターでモデルを作り、デザインや音質、量産性のチェックを繰り返しました。色は白と黒があります。


──メイズって工場持ってる?
一部は自社で、多くはOEM。メイズの本社がある珠海までは、深センや香港からフェリーで1時間。深セン一帯はフォックスコンもあるし、世界で最も多くの情報製品や家電製品が作られている地域です。

──中国で仕事するきっかけは?
メイズブランドを作るうえで、デザインに力を入れようと決めたメイズの副CEOのリーさんが、日本のデザインに価値を感じて、直接指名してくださったのがきっかけ。2年くらい前です。「Gravity」というスピーカーを作ったのが最初の仕事です。今、深センにうちの深セン事務所があって、別のプロジェクトも動いています。深セン事務所は6人。デザイナーが2人で、マネージメントと通訳、プロデューサー、総経理がいます。


──中国はどうですか?
中国の企業って、イノベーターというよりはフォロワー企業が多いんですね。イノベーター企業はアップルやテスラに代表されると思うんですけど。中国国内では、イノベーターを真似るだけでコストメリットがあってビジネスになる。人口が13億人とかいて、まだまだ物が行き届いていないから、企業もフォロワーとして成長できるんです。ただ、そうやっていくと、シャオミとかファーウェイとかオッポとか、いろんなメーカーが台頭してきて。これからはブランドとしての価値を考えて、信頼や憧れを得ないと成長に陰りが見える時代。アメリカとかヨーロッパで通用するものが作れてない。

──中国企業のおもしろいところは?
みんな若いことと、とにかくスピードが速いこと。リーさんは僕のいっこ上ですし、メイズ以外の中国クライアントのひとつに家電の大手国営企業があって、そこの社長は僕と同じ36歳。現場は20代中盤くらいの人が数百億円という大きな予算をがんがんまわしてるんですね。日本みたいに、ひとつの商品で稟議通して決済もらってというのと比べると段違いにスピーディー。プロトタイピングの速度も異常に速いです。日本だとホットモックアップひとつ作ると200万円くらいして、1回形にしてみようというところまで行くのにけっこう時間がかかったりする。でも、中国だとまず形にできる。MITの伊藤穰一さんが言ってましたけど、深センは世界一早く、安くプロトタイプが作れる。

──向こうのプロダクトデザイナーって?
(誤解を恐れず言えば)一般的なプロダクトデザイナーは、CADオペレーターの延長みたいな存在。きれいなCGが描けるとか3Dデータ作成が得意とか。エンジニアリング文化を背景に、スタイリング的な意味合いでとらえられてる存在だと思います。だから、ちょっとしたものでもすごいCGを描いてくるんですよ。でも、形やアイデアはインターネットで見つけたものを真似しているだけだったりして。デザイン教育や個々の思想、オリジナリティーといったものに、発展の余地を感じます。

──中国のモノ作りの質は?
中国は低品質というイメージが日本にありますが、情報製品や家電製品に限定すれば、今一番品質が高いものを作れるのが中国。日本メーカーもよく、プロダクトの生産は中国でやっていますし、あの難しいアップル製品の工場も中国に多くて。難しい技術要求をしても、真面目に、躊躇なく数々のトライと検証をしてくれるので、技術レベルが向上するのも納得です。ただ、日本みたいに意思決定が組織化されていないので、個人主義で大雑把な部分も。個人的な考えに基づいて、それぞれに成果をアピールする文化があるので、ミーティングで決めたことを守らないとか、勝手にデータを変えられることも度々ありました。

──そうなんですね。
でも、変なプライドを持たず、なんでもやっちゃう勇気というか、1日ごとに状況が変わっているスピード感を肌で感じられるのはおもしろい。深センは、1カ月に1回行っても、新しい橋がかかってたり、街の景色が変わっている。まだまだ供給が需要に比べて追いつかないから、飲食店を出したら間違いなく人が来る。日本だと味はもちろんだけど、立地、コンセプトだったりがしっかりしていないと、売れないじゃないですか。中国デザイナー仲間と飲みに行くと、みんな副業を持っていて、飲食店やっていたり、不動産投資で何件も高級物件をもっていたり、出版社やってたり、いろいろやっている。どっちが副業かよくわからないのですが、活気があります。みんなスピーディーに行動に移すので、日本と比べると体感速度が3倍くらい速い感じ。自分の遅さに焦ったりもします。

──これからのデザイン分野は?
すでに、情報革命によって人の暮らしや価値観が大きく変わりました。ここ数年のうちにライフスタイルの変化はより一層、急速に変わっていくと思います。AI、仮想現実、Iot、ロボティクスやナノテクノロジーによるバイオ革命。これまで考えられなかったような体験や価値観が一般化していく。そうすると、時代の変化を受けやすい分野においては、これまでと同じことを続けている会社は立ち行かなくなるし、デザイナーにも当てはまると思っています。人間の姿形が簡単に変わるわけではないので、食事や睡眠、洋服を着るといったところはゆるやかですが、情報やハイテク分野に携わるデザインは変化が早い。携帯電話の出現によって電話やカメラの形があっという間に変わったように。

──プロダクトデザイナーは?
これまで、デザイナーはすでにある技術を前提に、より良い製品像に修正していく、いわば調整役的な部分もあったかと思いますが、今後こういった分野では、サイエンスもデザインも同じタイミングでシームレスに繋がって。造形としての佇まいと同時に、ユーザーにとって、より良い「感情の質感」を導く予見力が、デザイナーにいっそう求められてゆくのではないでしょうか。僕も5年くらい前までの仕事では、クライアントから、ある特定のボリュームの「お化粧」を期待されていた気がしますが、今は、新時代における住宅プラットフォーム創出から製品までといった、新たな価値創出や枠組みを含む提案をしています。Googleの「Magic Calendar」は、IoTによってアナログ情報とデジタル情報の境目をなくす構想としてスタートさせました。科学者や研究者と技術の前段階である要素研究からプロジェクトを始めるケースも出てきています。


坪井浩尚(Kosho Tsuboi)
1980年生まれ。多摩美術大学環境デザイン科卒業後、曹洞宗大本山總持寺にて雲水として安居。2008年現KOSHO TSUBOI DESIGN設立。代表作にMEIZU「Gravity」、Google「Magic Calendar」、KDDI(iida)「LIGHT POOL」、Arflex「Omega」、100%「Sakurasaku glass」。2017年「Google Android Experiments OBJECT」グランプリ受賞。2017年WIRED UK「THE WIRED WORLD Best 5 up-coming design in 2017」選出。2008〜2010年多摩美術大学非常勤講師。

Link
KOSHO TSUBOI DESIGN
MEIZU
Google「Magic Calendar」

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