あのクリエイターに今、ききたいこと。辰野しずかさん/プロダクトデザイナー

2017年 5月 1日 17:00 Category : Design

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何気ない会話を通じて見えてくる人となりや、
その人なりのモノゴトの見方、とらえ方。プロダクトデザイナーの
辰野しずかさんに、今、ききたいことをきいてみました。2017.4.19

──こないだ、ミラノサローネ行ってましたよね。
弘前市のプロジェクトで、新しい鳩笛を出しました。弘前市にもともとある鳩笛は、白い焼物の玩具。今残っている職人は、ひとりだけです。このプロジェクトの目的は弘前市のモノ作りの底上げなので、弘前市にある鳩笛と津軽焼の技術をかけ合わせて鳩笛を作ったら何か新しいことが生まれるのではと思って。2つの工房が「はじめまして」と合わさってできる、これまでになかったデザインの鳩笛。プロトタイプを何百個作リました。津軽焼は釉薬が垂れるのが特徴で、垂れた感じが鳥の羽の柄とリンクするようにするなど、その技術だからできることを探りながら。やっていると新たな技術が生まれたりして職人さんにも喜ばれてよかったです。サローネは、できるだけ毎年行ってます。


──その時期、ホテルとか高いんですよね。
今回はイギリスに住んでいる友達と一緒に。部屋はAirbnbで借りたりしました。イギリス留学中、生活環境にいろいろ不具合があって鍛えられたので、海外の部屋の間借りでも大丈夫な、乗り切り力はあります。細かいところだと、電車が時間通りに来ないとか、電車内で電気が消えたりとか。理不尽なことは、毎日ありましたよね。海外に住んでいるとわりとおおらかになると思います。イギリスはロンドン郊外、キングストンというエリアに大学があって。大学では、プロダクトと家具を勉強してました。

──鳩笛の音は?
音は今までの鳩笛と一緒で「ポーッ」としか鳴らない。私にとっての鳩笛は、そんな器用な音を出すようなものじゃなくて、素朴感と癒やし感。もともと鳩笛がそういう存在だし。弘前のみなさんも、素朴でいい人が多くて、傾向としてやさしい。最初は、カッコイイ系をやろうと思ったときもあったのですが、弘前のアイテムはカッコイイじゃないな。それが市民性と感じたので。

──弘前はどんな街?
人がやさしくて、素朴な印象。街は前川國男の建築物をはじめとする、かっこいい建物がちらほらあって。他県にはない趣がある。日本酒やご飯もおいしい。本当は、旅するくらいに現地にいたほうがいいんですよね。今年こそは出張をできるだけ延泊して、いろいろ見て回る年にしようと思ってたら、3月に行ったときも日帰り。3月は、日帰りの出張が4件くらい立て続けにあって、(いろいろ見て回る年にする目標は)もう諦めました。今月はまだ、プロジェクトスタートしてないのが多いので、そんなに行ってないですけど。ほんとに忙しい時は、休みがなかなかない感じで、休める日は家にいたいですね。

──地方ものが多いですよね。
もともと、そういう仕事がしたくて独立しました。留学行く前から、日本のことを聞かれても答えられるよう自分なりにいろいろ調べていこうと、ワタリウム美術館でやってた日本の庭園をまわるツアーに参加したり。職人さんのモノ作りが見れるということで京都にも行って。茶道も始めて、いまだにやっているんですけど。その後、向こうに住んで、自分が見てきた職人の技術がいかにすごいか気づくことがあって、でも、海外の人も、日本人もけっこう知らない。かたや、職人さんは後継者不足で。「超すごいんだから、みんなもっと知ったらいいのに!」と、デザインで貢献できたらいいなと思って。イギリスから戻った当時、そういう仕事をしようと思ったら、あまりないなと思って、自分でやるしかないなって。2011年には独立。つてをたどって、モノを作って。作ったら賞をとったり、広がって。実績を上げて、地道にやって、今に至る。

──最初にデザインしたのは?
京組紐のストラップ。そこで働いている人が知り合いで、留学中もその人に伝統工芸の現状を聞いていました。独立時に「なんかやってみる?」ってことで。海外の大学出てて、こっちに戻っても知り合いいなかったんですよ。ほとんどゼロベース。

写真:Narita Naoshige

──備前焼のやつは?
岡山の備前市ってところで作ってます。備前焼の窯元がたくさんあるようなところで、趣きもありますし、独特の場所。備前焼のプロジェクトを、やるかやんないかというときに、直感的に感じた備前焼のよさが質感。最初のイメージは、石の塊っぽいものを作りたい。石の塊みたいに作ったら、カッコイイだろうなって。あの柄を入れないと備前焼とは言えないと言われてたんですけど、柄が入っていない無垢な質感もカッコよくて。カラフェのフタには柄をつけて、無垢なところを多めに残しつつ。水を一昼夜入れておくと水がまろやかになる備前焼の特性を生かすため、ウォーターカラフェにすることにしたり。自分が感じた良さとか美しさを、固定概念なく、ストレートに作った。

写真:Fumio Ando

──これは?
これはトレーで、長野県松本市のプロジェクト。まつもとフォーククラフトラボっていう、リーフデザインパークさんがプロデュースしている。行灯の組み方がきれいだったので、その意匠を受け継いだトレーを、行灯を長く作ってる会社の技術で作ることにしました。高さがあって、ソファの上に置いたり、リバーシブルで使える。ほうきの靴べらは、松本ほうきの技術を使ったもの。ほうき屋さんに「ぜひうちの畑をみてください」と言われて。「畑?」と思ったら、工房の前に畑があって。ほうきの材料から自分たちで作ってる。ほうき自体は人気で2年待ち。その端材で新しいアイテム作れば、ほうき屋さんにとっても良いかなということで靴べらにしました。畑にやさしい靴べら。

写真:Shin Inaba

写真:Shin Inaba

写真:Shin Inaba

──ほかには?
母体は工芸じゃないんですが、シールみたいな箔のアクセサリー「HAQUA」。HAQUAの会社は、製造以外もすごくきちんと仕事をしてくれますね。展示会に立つときの服装に気をつけてとか、ディスプレーのチェックとか、私が言ったもろもろに対応してくれる。本気でブランドを作ろうとしている。こちらが望んでいるほど、ブランド維持のために動いてくれる会社は少ないんですよ。

写真:Fumio Ando

──うまくいかないプロジェクトってある?
一度プロダクトでデザインで関わると、その後も関わり続けることが多いのですが、最初に見誤りがあってズルズルやっていくと、市場に出た時に失敗だったと思うこともある。そもそも論として、私と仕事をすることを疑わずに信じてやってくれるかどうかで、売ることに関しても全然違います。半信半疑とか、例えば間に入っている人がいて、その人だけがすごいやる気で、私とメーカーがお互い「えっ」ってなってるようなプロジェクトは、やっぱり、メーカーが途中でめげちゃうかな。続かないんですよ。モノを売るのは、いいときもあるし悪いときもあるし、ビックウェーブがあって、ようやくいい方向に向かっていく。ちょっと悪いことがあって、すぐダメだっていうことになると、一緒にやっちゃいけないなと思います。私の中の「やっちゃいけない何か条」みたいなのがあって。年に3回くらいは落ち込みますね。「ひどいー」って。

──落ち込んだときは?
落ち込んだときは、どうするんでしょう。とりあえず、相手に怒ってることを伝えるか、どうしてそうなったか、真意を探る。向こうの反応次第で改善していく努力をするか、距離を置くか決めて、自分を立て直す。

──最近、人気?
人気があるかわからないけど。(手がけた商品が一同に集まる)ポップアップストアの依頼が多いです。2年くらい前から、代官山蔦屋やスパイラル、ほかもいろんな場所でやってます。今年も、春、夏は立て続けに。意識していないんですけど、まとめて置かれると、世界観が出るようで。これは、みなさんの意見。といっても、何店舗かの意見ではあるけど。集めるとそれぞれ相性がよくて。もともとずっと、メーカーによりそって、自分を変えられるようなデザインをしていきたいと思ってたんです。だから、自分のなかのイエス、ノーはあるものの、アウトプットに自分の色を出そうとしたことはなくて。でも、いつのまにか色が出てたみたいで、「えっ」って、「意識してなかったの?」って最近になってよく言われます。

──武勇伝とかありますか?
武勇伝かはわからないけど、よく驚かれる話が、留学するとき、気になった学校を片っ端から見に行ったという。見に行かないとわからないことが多くて。ニューヨークで2校、スウェーデン1カ所、あ、2カ所。フィンランドが1カ所で、イギリスは、スコットランド3カ所、ロンドン6カ所くらい。友達の家に泊まったりしながら、気がすむまで現地に行って、留学先決めたんです。スウェーデンも、泊まるところ困るじゃないですか。そしたら「うちの事務所で寝泊まりしたらいいのよ」って言ってくれた人がいて。その人はスウェーデンデザインの重鎮みたいな人なんですけど、当時はなにも知らないで、その人のホームパーティーに行ったら、スウェーデンの有名デザイナーが集ってたりして、すごい世界だった。Ewa Kumlinさんには未だに感謝しています。

──ほかに気になってることは?
最近、ミルクフランス多くないですか。流行ってるんですかね。今までそんな、ありましたっけ。中目黒の駅の高架下にあるお店のミルクフランスが好きで。パンで食べ比べしたいとしたら、ミルクフランスかもしれない。シンプルですよね。ついでに言うと、ラペも、キャロットラペも気になってて。あれもすごいシンプルな食べ物で、人参を切る人の能力が問われると思うんですよね。スライスしたやつも細切りもあるんですけど、非常にいい歯ごたえのやつがあるんですよ。

──自分でも作る?
ラペは、人が作ったものを比べるのが好きなだけで、自分で作るものではないんです。ミルクフランスが気になるみたいに、シンプルな食べ物でいかに差が出るか。だし巻き玉子とかも気になります。オムレツの話は、2010年くらいのインタビューでだいぶ語ってるけど、相変わらずすごい気になる。事務所では、けっこうどんぶりものを作ります。野菜とか肉とか、冷蔵庫にあるものを適当に乗せて。はやいし、おいしい。今日は冷蔵庫にあった豚肉と、アボカドといろんな葉っぱがミックスされたやつ。あれを乗せて、ミラノで買ってきたトリュフオイルと醤油を混ぜて。

辰野しずか(Shizuka Tatsuno)
1983年生まれ。英国のキングストン大学プロダクト&家具科を首席で卒業。2011年「+st」設立。家具、生活用品、ファッション小物のデザインを中心に、企画からディレクション、付随するグラフィックデザインなどさまざまな業務を手がける。現在は地場産業の仕事に力を入れ「長所を生かしていく、伝えていく、つなげていく」をテーマに製作している。2016年「ELLE DECOR日本版」の「Young Japanese Design Talents」など受賞多数。

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