―最近のメーカーのモノづくりは変わってきているのでしょうか?
柴田:iPhoneってヘッドホンのところに、知らない人は「それってスイッチ?」って思うような音量スイッチがついていたりするじゃないですか。それが「今」なんだろうなって思います。それでいて自宅に帰って最新式のAV機器からCDを出そうとすると、ものすごく古くさい20世紀的なスイッチで、押すとウィーンってCDが出てくる。「これって同じ時代?」って思ってしまうことがあります。最新のデジタル製品とかも、今はクオリティーの幅が広い。すごく良いものもあるけど、作りのひどいモノもある。今、デジタル系のモノなんて、プロダクトはブラックボックスなんだからGUIで勝負しないでどうするのって思うでしょ。だけど、ひどいGUIのままでいるところが多かったりする。
ハードのつくりにしても、隙間がコンマ4ミリくらい開いていて、どうやってつくっているかがすぐわかるような作り方をしている製品とアップルみたいに「これ、どうやってつくっているの?」と不思議になるようなデザインもある。こういうモノが同居している幅の広さが2010年。2010年って恐ろしいって思ったんです。
―デザインをリードしてきたB&Oやライカみたいなところのモノづくりも最近、変わってきましたよね。B&OがみたいなところがiPod対応のクレードルを出してきたり…
柴田:B&Oやライカも、ちょっと前までは自分たちはあの昔ながらのデザインを守っていけばいいんだって思っていたと思うんですよ。でも、アップルの製品とかが「どうやってつくっているんだろう」っていう域に入り込んできているのを見て、だんだんそうは言ってられなくなっちゃったんじゃないかと思います。
気持ちとしては日本のメーカーを応援したいから、いいものがあったら、いいところを見つけられたらいいと思っているんですが、アップルみたいにコネクターを全部、変えて同じ薄さにするとかって、会社としてそういうことをやってくれないとできないですよね。あのiPhoneとかMacのデザインが、日本でも提案としてはあると思っているんですが、企業としてできない。自分に当てて振り返ってみると、SPIDERは、アップルみたいなことができるかっていうと、ちょっとそれは難しいと思ったんですよ。規模もぜんぜん違うし。だから、違うやり方で精度感とか緻密感を出していく方向を目指しました。
出来る中で最高のモノをつくっていければいいな。そこにデザイナーとしてのスキルを活かしていけるのが重要かな、と思いました。一番、よくないのが「アップルかっこいいな」と、そういうイメージを持ったまま、20世紀型デザインをしちゃうことですね。それをやると、不細工なモノになってしまう。できる範囲を立てて、そこでデザイナーなりの工夫をしていかなければならない、と思っています。
日本のメーカーでアップルみたいなモノができないはずがないのに、できないっていうのは、何か凄い大きな仕組みの部分が間違っているんじゃないかなっていう気もしています。一方で、アップルもそれだけ凄いモノをつくったら、それは絶対に売れるんだっていう覚悟を決めてやっている辺りはさすがに凄いですけどね。日本のメーカーは最近、元気がないので、PTPみたいな元気な会社が出てきてくれるのはいいな、って思いました。そういうところから発展していくんじゃないかな、って思っているところもあります。でも、そのためにもコンシューマー向けSPIDERは成功させないといけませんね。
取材/林信行 撮影/下城英悟

