ジョブズ、「奇跡の15年」に感謝を込めて

2011年10月26日 00:00

 スティーブ・ジョブズ氏追悼企画。アップルを見守ってきたジャーナリストに寄稿していただきました。第三弾(最終)は林信行氏。
2011年3月2日、iPad 2を発表直後のスティーブ・ジョブズ氏。
2011年3月2日、iPad 2発表直後のスティーブ・ジョブズ氏。


■現代の伝説

 間もなく、あの衝撃のニュースからまる15年が経つが、その直前での訃報だった。

 「世界を変える」という情熱で創業し、今日のパソコンの原型を世に送り出し大成功。「フォード・モーターズ以来の最大の躍進」を果たし、「アメリカンドリームの象徴」と言われたのが20代だった。しかし、彼はその後、自ら口説き落として招いた経営者に、青年期のすべてを賭けて創業した会社を追い出されてしまう。

 これだけでも相当のドラマだ。

 だが、今から15年前にもっと驚くことが起きた。その一度は追い出された会社に、まるで運命に引き戻されるようにして舞い戻ったのだ。最初は経営に興味がないそぶりを見せていた彼だが、その後、自らを呼び戻してくれた経営者を追い出し、ついには自ら経営のトップに返り咲く。戦国時代の下克上の物語のようだ。

 しかし、そこからはさらに驚く。

 15年前、一度は潰れかかりどん底にあった会社は、彼が経営手腕を発揮し始めるとみるみる息吹を吹き返し、ついには時価総額で世界の頂点までのぼりつめてしまう。2位の会社はエクソン・モービル、3位はペトロ・チャイナとエネルギー会社ばかり、その下も鉱物資源会社など「いかにも」な会社が名前を連ねる中、唯一、コンシューマーに知れ渡ったブランド、「アップル」の名が頂点に燦然(さんぜん)と輝いている。

 「事実は小説よりも奇なり」とは言うが、ここまでの驚愕な物語は、なかなか考えて描けるものではない。もし、15年前にタイムスリップして、この物語を話しても「荒唐無稽すぎる」と一笑に付されるのが落ちだろう。だが、スティーブ・ジョブズは、つい先月まで、この世に実在した。それどころか、つい先日まで、今や我々が日常的に目にするiPhoneやiPadの開発に口出しをしていたのだ。

iPhone 4S(2011年)

 8月末にも、アップルの役員室で、最近、話題のiPhone 4Sの新機能、Siriを見せられて「お前は男か、女か?」と話しかけ「私には性別は割り当てられていません」という返答で、やり込められていたらしい。