最近、米は通販で頼んでいる。なんと、注文を受けてから精米するというもので、炊きあがった銀シャリはふっくらと旨い。
そろそろ在庫がつきそうになって電話をかけると、話し終えたぼくに感情の起伏が乏しいオペレーターはいった。「常温でおもちしますか」。一瞬頭が「?」でいっぱいになったが、しばらく考えて合点がいった。その店は酒をメインに扱っており、希望すれば冷やしてくれる痒いところに手が届くサービスを行っている。やり取りしているうちにそっちと混同したのだろう。
しかしせっかくのおもしろいネタ。このままスルーするのはもったいない。イタズラ心が芽生えたぼくはこう受けた。「え、炊いてくれるんですか」。誤りに気づき、恥ずかしそうに笑うことを予想したのだが、彼女はいってのけた。「冷やすんです」。その口ぶりからはいらだちがほとばしっていた。「じょ、常温でお願いします」というのが精一杯だった。
閑話休題。
かつて消費者が知る由もなかった、いやずっと昔はありふれた光景だった、製造過程を可視化するこういうひと手間は、いい。つくり手が感じられて、なおさら旨く感じる。ファッションの世界にもそんな動きはあって、さしずめパタンオーダーがこれに該当する。
それなりに体型にフィットした一着がつくれ、かつ生地やパーツにも選択肢を用意しているそれはあなただけの一着、という優越感も満たしてくれる。シーズンインにはたいていのお店が本国の人間を招聘し、フェアを催す。上等な空間で、経験豊富な職人と触れ合えるだけでも気分はあがる。それでいて、工場のラインに組み込むものなので納期はたいてい数週間だし、価格も既製品に毛が生えた程度で済む。
この取り組みにおいて頭ひとつ抜けた存在が伊勢丹だ。今月はスーツの聖地の名を冠したサヴィル・ロウフェアと題し、ヘンリープールやリチャードアンダーソン、ウィリアムスキナーなどそうそうたるメンバーが一堂に会する。シーバスリーガルを呑みながら誂え服のアーカイブを楽しむ、なんて企画もある。誂えといえば醍醐味は生地選びにあるが、知る人ぞ知る英国王室御用達の服地メーカー、ハーディ・ミニスもお目見えする。