アイラ島の海の色

2015年 5月 18日 08:00 Category : Fashion

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どんなに後ろ髪引かれても断念するアイテムというのがある。たとえば派手な色柄のジャケットやハイウエストのパンツ。共通するのは、どこか野暮ったいもの。ぼくが暮らす下町でそれを着ると、まんまだからだ。

そんなぼくがこれまで敬遠してきた最難関ブランドがバブアー。1894年に創業したイギリスを代表する本物のアウトドアウェアであり、セージカラーと呼ぶ深緑のオイルドコットンはこれ以上ないほど武骨で、男なら惚れるなってほうが無理な話である。ところがやっぱり禁断の果実なのだ、下町というエリアにおいては。思わずかじってしまったのは、ネイビーで染めた一着だった。色ひとつでこんなにも印象が変わるものかと、舌を巻いた。

バブアーを代表するモデル、ボーダーをベースにオイルドコットンをネイビーのそれに変更。ほか、スリムフィット・シルエットや初期のモデルにみられるピボットスリーブなどを採り入れている。59,400円

まったくひどい展開の仕方だけれど、青つながりで、今回はぼくの仕事場の、もっともいい場所にすっくと立っているボトルのラベルにまつわる話を、書き留めておきたい。甘く、淡い青をベースにした、どこかポップなデザイン。中央にはBOWMORE、そしてAged 17 Yearsとプリントされている。

「君は酒が好きかい。じゃ、この後ちょっといこう」。取材が終わって連れていかれたのは気鋭の若手が六本木ではじめた蕎麦屋で、素材のよさ、丁寧な仕事ぶりにすっかり骨抜きにされた。

その席で君はどんな店でどんな酒を呑むんだと尋ねられ、場末のダメな酒が好きっすねって答えたら、「じゃ、次は君が案内しなさい。●●(共通の知人)も誘って来月やろう。調整を頼む」といわれた。

“近々いきましょう”が挨拶代わりのような業界で、それはとても新鮮だった。若かりしころ、持ち前の好奇心で欧米のその道の先達のフトコロにもぐいぐいと分け入っていった人らしいなと思った。

1ヵ月もしないうちに宴は開かれ、がんばって考えたはしご酒のコースをことのほか喜んでくれた。ホストを労うホスピタリティにも感動した。

希代の洒落者で、そして多趣味にして、どのジャンルも玄人はだしだったから、なにかにつけて取材させてもらうようになった。

「鎌倉に眺めがよくてすこぶる美味いレストランがある。そこで昼から呑って、そのあとぼくがやっているバーで締めよう」。

そういわれて、実現しないまま1年が経ってしまった。

正規ルートにない17年ものは、知人にボウモアを勧めたらたいそう気に入って、現地にいって樽買いしたものという。味気ないからラベルをつくってくれと頼まれ、ギャラ代わりにもらった何本かのうちの一本を、何度目かの取材の帰りに気前よくくれたのだった。

ぼくらの記憶に残る数々のすぐれた作品をものしてきた彼の、ぼくが知るかぎり最後の仕事となった。

一瞬で干したことを悔やみながら、いまはただ、そのボトルをぼんやりとながめている。

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