今週末見るべき映画「マダム・イン・ニューヨーク」

2014年 6月 27日 08:00 Category : Garbo

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高齢化、人口減の日本と違って、インドの人口の伸びが著しいらしい。近いうちに中国を追い越すようだ。インドの映画は、相変わらず、数多く作られている。長短編合わせて、年間2000本にもなるらしい。当然、優れた作品も多い。「マダム・イン・ニューヨーク」(彩プロ配給)も、その一本。

インドに住む専業主婦シャシは、ほとんど英語が話せない。ニューヨークに住む姪が結婚するとの知らせで、ニューヨークに向かう。コーヒー・ショップですら、シャシの単語だけの英語は通じない。地下鉄に乗るにも、駅員の助けが必要。ふと目にした、4週間でマスターとの英会話教室の広告に、シャシの心が動く。結婚式まで、ちょうど4週間。シャシは、教室に通い始める。


笑いと涙を誘う。それも爽やかな笑いと涙。なによりも清潔な佇まいの映画だ。シャシの家族のドラマに、英会話教室のドラマがミックスされる。取り立てて、大きな事件は起こらない。登場人物に悪人はいない。いわば、封建的な状況から、なんとか抜けだし、自らを成長させようとする女性のドラマである。

これが、なかなか、よく出来ている。細部の描写が、ことごとく的確。シャシはもちろん、シャシを取り巻く人物造型が、見事なのだ。もはや、優しい甘い言葉をかけてくれない夫、生意気盛りの長女、甘えん坊の長男、気のいい姑など、インドの典型的な中流家庭の実状が、きめ細かく綴られる。また、世界各国からの教室の生徒たちやゲイの先生、シャシの姉、姪たちを、監督のガウリ・シンデーは、ほんの少ないカットで、鮮やかに描ききる。初の長編劇映画とはとても思えない、才能だ。監督自身の母親も英語が苦手、なぜ母親は英語をうまく話せないのだろう、という子どものころからの疑問があったらしい。本作は、その経験を基にした、素晴らしい回答と言える。


ガウリ監督の好きな映画監督は、ウディ・アレン。ニューヨークを舞台にしたのも頷ける。ただし、本作には、ウディ・アレン作品の皮肉や毒気、悪意は、皆無である。また、英会話教室の仲間たちが、勉強のためと映画を見るシーンがある。シャシが見つめるエリザベス・テイラーは、まだ30歳になる前と思うが、輝くように美しい。「おもいきり楽しみたいの、今日が最後のように」とのセリフがある「雨の朝巴里に死す」だ。ガウリ監督の映画への敬意がよく表れている。

シャシを演じるシュリデヴィは、インドの大女優。結婚を機に女優を休業、本作が15年ぶりの登場になる。インドの女優さんは、どなたも美貌だが、50歳ほどと思われるシュリデヴィは、ひときわ美しい。豊かな表情での心理描写が精緻を極め、封建的な現状に甘んじている女性から、一歩踏みだそうとする役を見事に演じる。教室では、フランス人の料理人志望の青年にモーションをかけられる。ふと、心騒いだりする可愛さも、ごく自然体の芝居で、しっかり見せてくれる。


ニューヨークに向かう飛行機で、シャシと隣り合わせになる乗客に、インド映画の大御所、アミターブ・バッチャンが出演、錦に花を添える。シャシを愛しているのに、封建的な態度で接する夫役に、「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」に出ていたアディル・フセイン。

インド映画の定番である、唄い踊るシーンも、もちろんある。しかし、唐突ではない。シャシの心情を唄いあげる数々のシーンは必然的だし、踊りのいくつかのシーンも、過剰ではなく、ドラマの進行にリンクしている。インド映画にしては、コンパクト、2時間14分はほどよい長さだろう。


ラストは、爽やかな涙と笑いが連続する。映画を見て、シュリデヴィの美しさに驚き、現状から一歩踏み出す勇気が湧くのは、女性だけではないと思う。


【Story】
シャシ(シュリデヴィ)は、多忙なビジネスマン、サティシュ(アディル・フセイン)の妻。子どもが二人いる専業主婦で、とても美人。料理が上手、ことにラドゥーというお菓子作りはプロなみの腕前だ。近所に顧客がいて、作っては配達、そこそこの稼ぎになっている。悩みは、英語が不得手なことで、娘サプナにまで笑われる始末。夫は、仕事が忙しいらしく、なかなか、まともに相手にしてくれない。シャシは思う。「私がどんなに頑張っても、誰も喜ばない」。


そこに、ニューヨークから知らせが舞い込む。ニューヨークに嫁いだシャシの姉マヌの長女が結婚するという。準備のため、シャシは単身、ニューヨークに向かう。水ひとつ頼めないシャシは、隣の席の紳士(アミターブ・バッチャン)に助けられ、なんとかニューヨークに到着する。マヌや姪のラーダは歓迎してくれる。シャシは、駅員の助けがないと地下鉄に乗れない、カフェでコーヒーひとつ注文できない。パニックに陥ったシャシは、他人のコーヒーをひっくり返してしまう。親切なフランス人が、カフェを飛び出したシャシに、コーヒーを届けてくれる。がっくりしたシャシは、ふと、「4週間で英語が話せる」との英会話教室の広告に目を留める。結婚式まで、まだ4週間ある。決意は固い。シャシは、インドの家族、姉たちに内緒で、教室に通うことにする。

教室には、世界各国の、英語が話せない生徒がいる。なんと、カフェでの失敗を助けてくれたフランス人のローランも同じ教室に通っている。ローランは、シャシの美しさに参ってしまう。満更でもないシャシだが、ともかく英会話の練習が目的、少しずつだが、勉強が進んでいく。


インドから家族がやってくる。ニューヨーク見物する夫や子どもとも別行動で、シャシの勉強は続く。ところが、シャシが教室に行っている間に、まだ幼い息子がケガをする。深い自責の念にかられるシャシ。結婚式が目前に迫る。内緒の教室通いなど、一挙に、さまざまなことが、シャシにとって問題となっていく。

<作品情報>
「マダム・イン・ニューヨーク」
6月28日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:彩プロ
©Eros International Ltd.
公式サイト

文/二井康雄

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