今週末見るべき映画「イーダ」

2014年 8月 1日 09:00 Category : Garbo

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枚挙にいとまがない。数々の傑作を生み続けているのがポーランド映画界だ。パヴェウ・パヴリコフスキ監督の「イーダ」(マーメイドフィルム配給)もまた、ポーランド映画の伝統を継ぐ傑作と思う。

1962年のポーランド。戦争孤児の少女アンナは、修道院で育つ。近く修道女になるアンナは、院長から、唯一の身よりの叔母の存在を知らされる。叔母を訪ねたアンナは、やがて、自らの出自や両親の過去を知ることになる。叔母の人生もまた、歴史に翻弄された過去であり、自らの人生に決着をつけようとする。修道女を目指すアンナは、本名はイーダという、ユダヤ人である。このシンプルな設定から、当時のポーランドの政治、文化、宗教の状況が、どのようなものであったかを物語っていく。


映画は静謐そのもの。コントラストの効いたモノクロームでの映像は、とてつもなく美しい。削ぎ落とされた最小限のセリフが、深い意味を提示する。映像の効果音は皆無、オリジナルの音楽はごく一部のみ。引用される音楽が、控えめながら、多くを語る。当時、ポーランドでも流行ったと思われるポップスやカンツォーネの名曲、ジョン・コルトレーンのジャズが巧みに挿入される。また、モーツァルト、バッハも。

イーダと、イーダの叔母ヴァンダが、イーダの亡くなった両親の過去を知ろうと、小さな旅に出る。旅先で知り合った若いアルトサックス奏者は、ロック調ポップスの伴奏をする。日本でのタイトル「24000のキッス」が唄われるシーンがある。もとの歌は、1961年に開催されたイタリアのサンレモ音楽祭で準優勝した曲で、アドリアーノ・チェレンターノの歌が日本でも大ヒットした。ライブ終了後、仲間と演奏しているのが、ジョン・コルトレーンの作曲、演奏になる「ネイマ」だ。これは、コルトレーンが愛妻の名を冠した美しいバラードで、1959年のアルバム「ジャイアント・ステップス」など、多くのコルトレーンのレコードに収録されている名曲だ。

また、イーダと若い奏者が関わるシーンでは、やはり、コルトレーンの「エキノックス」が使われる。つまり、当時のポーランドでは、イタリアのカンツォーネ、アメリカのジャズが、新しい外国の音楽として、そこそこ、受け入れられていたことを物語っている。この若い奏者は、兵役から逃れるために、ポーランド各地を旅する音楽家人生を選んでいるのだが。


ある葬儀のシーンでは、「インターナショナル」が使われ、叔母のヴァンダの人生に関わるある重要なシーンでは、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」が流れる。ブルーノ・ワルター指揮のウィーン・フィルだ。さらに、映画のラストを象徴するような音楽は、バッハである。アンドレイ・タルコフスキー監督の映画「惑星ソラリス」でも使われたコラール前奏曲「われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」だ。オルガン演奏が多い曲だが、ここでは、フェルッチョ・ブゾーニ編曲のスコアで、アルフレッド・ブレンデルがピアノを弾いている。

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