今週末見るべき映画「レイチェルの結婚」

2009年 4月 10日 10:00 Category : Garbo

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一見、結婚式の準備にいそしむある家族の様子を撮った、ホームムービーのような滑り出しである。姉レイチェルの結婚式に出るため、妹のキムが薬物中毒の施設から戻ってくる。表面は華やかで和やかに見えるが、キムを迎え入れる家族とのやりとりは、どこか刺々しいものがある。やがて少しずつ、この家族の抱える深く重いありようがあきらかになっていく。

「レイチェルの結婚」(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給)では、家族が共有する陽と陰の部分が巧みに交錯しながら、妹キムの心理を通してゆっくりとストーリーが進行する。まるで、人間の性格をその表情で描き切った、べラスケスの肖像画を見るような気配である。キムをとりまく姉、父、継母、実母たちとのやりとり、それぞれの人物の表情から窺える心理描写は圧巻。 キムは薬物中毒から立ち直ろうとするが、イライラが募り片時もタバコを離そうとしない。周囲とはいつも棘のある接し方しかできないでいる。そのような女性を演じるアン・ハサウェイのしっかりと打ち込んだ役づくりは、まことにうまい。「プラダを着た悪魔」などの演技とは、また別人のような達者さを見せる。 キムの実の母親役を演じるデブラ・ウィンガーが、娘を思う母親の複雑な心境を熱演する。この人も「愛と青春の旅立ち」の演技とは比べようもないほど、老獪ともいえるほどに立派に初老役をこなしている。

かつて、ジョディ・フォスター扮するFBIの女性捜査官を描いて新しい女性像を提示した、「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが監督。キムを始め、人間の心理を鋭く表現する作風は健在である。 映画は、なぜキムが薬物中毒になったかは明確には示さないが、家族との会話から過去のトラウマを抱えていることが分かる。 手作りの結婚式にかかりきりのレイチェル。音楽関係のビジネスを営む未来の夫の黒人男性と、大勢のその友人たちが集まっている。そういう華やかな場に戻ってきたキムは喜びを表そうとはしつつも、なにかと反発を示し、いまひとつ家族のなかにとけ込んでいかない。やがてキムの抱える過去のトラウマが露わになり、家族それぞれの思いもまた、露わになっていく。 結婚式は無事に終わる。だがこの映画には結末がない。それぞれの人生のドラマは、まだこれから始まることを暗示するだけである。 キムのような立場の女性は多いと思う。それでも、家族は他人ではない。絆で結ばれた部分は、断とうとしても断ち切れないものである。心に傷を抱えて生きる若い女性の、それでも懸命に家族と関わっていこうとする姿を描いて、見る者を深く考えさせる作品だ。

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